面倒な来訪者
2022/12/12 セイテンが部屋にいないのがわかりにくかったので、表現追加。
吹雪は止んだが、冬が終わったわけじゃない。
つまり、外は寒い。
かなり寒い。
しかし、子供たちは吹雪で閉じ込められたうっぷんを晴らすかのように、外に駆けだしていった。
元気だ。
まあ、駆けだす前に鬼人族メイドたちによって厚着を強制されているので、風邪の心配はないだろう。
マフラーや手袋もちゃんとしていたしね。
子供たちの護衛として、あとを追いかけるクロの子供たちも躊躇なく外に飛び出した。
その姿は、勇ましい。
一頭だけすぐに戻ってきて、ほかのクロの子供たちに交代を要求していたけど。
あ、ユキに叱られて、慌てて子供たちを追いかけた。
そして、叱ったユキは……コタツに入るのか。
そうか。
ユキに「なにか?」という目でみられたので、問題ないと答えておいた。
さて、冬だ。
一村のニュニュダフネによる春予報では、まだまだ冬は続くらしい。
俺は覚悟を改め、半纏を着る。
半纏は前々から天使族を中心に冬の防寒着として普及している。
その天使族が今年は大勢やってきたので、半纏の数が足りないらしい。
起きているザブトンの子供たちの一部が、頑張って追加分を製作してくれている。
半纏の中に入れる綿に困りそうだが、その綿は五村から仕入れているというか、以前から大量に買い込んである一部を使っているそうだ。
買い込んであるのは綿だけでなく、羊毛、絹、麻なども買い込んである。
それぞれ、専用の大きな倉に収められている。
ザブトンたちの要求に即座に応じられるようにとヨウコが手配した。
ヨウコが言うには五村の財政管理の一環だそうだが、照れ隠しだろう。
なんにせよ、数万人分の衣服を作ることが可能なぐらいの繊維が五村で確保されている。
一部を使っても問題ない。
ちなみにだが、この繊維が収められた専用の倉には、それなりの数のザブトンの子供たちが警備としてこっそり常駐している。
魔王には伝えてあるが、苦笑いだったなぁ。
まあ、繊維がいっぱいあるので火事が怖い。
警備するのは悪いことじゃないと思う。
そんなことを考えながら、俺は屋敷の二階、窓の外の景色がいい場所に移動してお茶でもしようと……したら止められた。
ヨウコだ。
あれ?
五村に行ったんじゃなかったっけ?
どうした?
「すまぬ。
面倒が舞い込んだ」
?
俺はヨウコと共に五村のヨウコ屋敷に移動した。
ヨウコが仕事をするために使う執務室の横にある応接室。
そこで待っていたのは、見知らぬ男性と女性の二人。
男性は少し小柄で少年を思わせる風体だが、髭を貯えているのでそれなりの年齢なのだろう。
女性のほうは俺よりも少し高いぐらいの身長で、獣耳と尻尾があるから、獣人族かな?
「あー、村長。
紹介しよう。
猿の聖獣セイテンと、銀狐族のコンだ」
ヨウコの紹介を受け、セイテンが頭を下げる。
「猿の聖獣を務めております。
セイテンです」
「お初にお目にかかります。
銀狐族のコンです」
丁寧に腰を曲げて挨拶してくれるセイテンとコンさん。
セイテンが一歩前に出た。
「村を離れていたところをお呼び立てし、申し訳ありません。
本来なら私が赴かなければならないのですが、ヨウコ殿に留められまして、この場を用意していただきました」
コンさんは一歩下がったから、セイテンが話のメインなのだろう。
「猿の一族とゴブリン族との揉めごとで、ご子息ゴールさまとその奥さまを巻き込み、申し訳ありません。
猿の一族を代表し、謝罪いたします」
セイテンはそう言って、こちらに書状を渡す。
その書状をヨウコが受け取り、俺のもとに。
書状は目録のようだ。
謝罪の証の品だそうだ。
猿とゴブリン族の揉めごとは聞いているが、わざわざ俺にまで……まあ、ニーズも関係していたから、まるっきり無関係というわけでもないか?
こちらとしては問題をさらに大きくする気はない。
さらには、ここに来る前にゴールのところに行って謝罪を済ませているらしい。
ならば俺にわだかまりはない。
俺は謝罪を受け取り、終わらせる。
え?
これで終わりは駄目だとヨウコに言われた。
セイテンを招いた宴会を開く必要があるらしい。
ヨウコがニーズの店の予約を取ってるそうだ。
わかった。
それじゃあ、時間までのんびりと思ったけど、話はまだあった。
セイテンではなく、コンさんから。
セイテンは先にニーズの店に行くらしい。
ああ、ニーズにも謝罪しないといけないのか。
大変だなと労うと、勤め人ですからと疲れた顔で微笑まれた。
えーっと……
宴会の席でもう少し話をしよう。
いいお酒、準備するから。
そう言いながら、俺はセイテンを見送った。
さて、残ったコンさんの話はなんだろう?
「はい。
改めまして、銀狐族のコンです」
ヨウコの説明だと、銀狐族は獣人族の狐系の種族ではなく、狐の一族。
狐が人に変化しているのがいまのコンさんの姿だそうだ。
銀狐族は銀狐族だけで各地に隠れて生活をしているらしい。
そして、銀狐族にとって「コン」の名は族長を示す名で、魔王と同じ襲名制だそうだ。
つまり、目の前にいるのは銀狐族の族長?
「はい、族長です」
その族長が、どういった御用でしょうか?
俺は恐る恐る聞く。
ヨウコは面倒が舞い込んだと言って俺を呼んだ。
セイテンの件は、たしかに俺を呼ぶ必要はあるが、面倒なことではない。
つまり、面倒なことはコンさんの内容だろう。
心で身構えてしまう。
「用件をお伝えする前に確認したいことがあるのですが、かまわないでしょうか?」
ん?
なんだろう?
「村長はヨウコさまの上司で間違いないでしょうか?」
上司?
俺が五村の村長で、ヨウコは村長代行。
仕事の立場的にはそうだな。
「そうですか。
ありがとうございます。
えー、本日、ここにお伺いしたのは、ヒラクさまにお願いがあるからです」
お願い?
「はい。
銀狐族は私を含めて九十二人。
うち、人の姿で十全に働けるのは二十三人ですが、多少の不都合に目をつぶっていただければ八十四人が働けます。
一族、揃ってお雇い願えないでしょうか」
ん?
雇えと?
「はい」
五村に移住させろとかではなく?
「銀狐族は、他種族に混じって生活するのは不得手です」
しかし、働けるんだろ?
どういった仕事をするつもりなんだ?
「暗殺です」
……
………………
「暗殺です」
いや、聞こえなかったわけじゃないんだ。
えーっと、お帰りください。
そう答えた瞬間、俺の手に『万能農具』の槍が出てコンさんの胸を貫いていた。
え?
なんで?
そして、槍が刺さっているコンさんの首にはヨウコの手がかかっている。
「コンよ。
村長に手を出したら許さんと言ったはずだぞ」
「なにもしていないと思いますが?」
コンさんは槍が刺さっているのを気にせず、ヨウコを見る。
「その前にやられただけであろう。
戯言を続けるなら、一族を滅ぼすぞ」
「……わかりました。
ですが、私も引けない立場でして」
「わかっておる。
村長、すまぬ。
少し説明させてくれ」
あ、ああ。
頼む。
あと、コンさんは大丈夫か?
胸を貫いちゃってるんだが……
『万能農具』の槍を回収すると、コンさんの胸元には穴が開いている。
「大丈夫だ。
この程度ではこやつは死なん」
「あー、それなのですがヨウコさま」
「なんだ?」
「実は結構なダメージを頂いておりまして…………限界のようです。
げふっ」
コンさんが吐血して倒れて大きい銀狐の姿になったのでヨウコが慌てた。
「姿を維持できんほどか!
まずい、村長、“大きい蚕のご飯”を使ってもよいか?」
使おう。
うん、俺が刺しちゃったから。
このまま死なれるのは困る。
謝罪から宴会の流れになる理由
謝罪する。
↓
謝罪の品を送る。(謝る側の負担)
↓
宴会で、もてなされる。(宴席は謝られた側が負担する)
宴会に誘うことで、謝られた側に遺恨はなく、誘いに乗ることで謝った側にも遺恨はないと周囲に示す。
あと、謝罪の品のもらいすぎ分を返す意図もある。
ちなみに、この宴会で沈黙してたら台無しで、ちゃんと話し合う(仲直りした)姿を見せる必要がある。
悪いほうを一方的に謝らせるだけだと、謝らずに開き直る者やさらに恨む者がでるので、謝られたほうもちょっと負担しないといけない面倒な文化。
個人同士だと、ここまでしないのだけど、組織の上のほうで話をつける場合の手法。
お待たせしました。
書籍やコミックスの発売、アニメ放送が近いことなどで色々と作業が詰まっておりました。
作業が全て終わったわけではありませんが、やっと一息つけるぐらいになった感じです。
頑張ります。
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