王都の防災について話す
ランダン 魔王国四天王の筆頭。内政担当。
ビーゼル 魔王国四天王の一人。外交担当。転移魔法が使える。
グラッツ 魔王国四天王の一人。軍事担当。天才軍師。
リドリー ダルフォン商会の女商人。
ライメイレンたちが、村の南側に三十メートルぐらいの雪山を作った。
毎年作っているが、雪山の出現に子供たちは大興奮だ。
おっと、子供たちよ。
雪山に行く前に、雪山を作ってくれたライメイレンたちに感謝を伝えるように。
あと、ちゃんと朝食は食べたな?
薄着は駄目だぞ。
暖かい恰好をするように。
汗を掻いた場合は……まあ、これは同行する鬼人族メイドが指導してくれるだろう。
子供たちはスキーやソリを持って、雪山に向かった。
俺もあとで行くとしよう。
ちなみに、雪山を作ったライメイレンたちに気を使い、初滑りはヒイチロウとグラルでと子供たちは考えたが、ヒイチロウがみんなで遊ぼうと言ったのでそれはなしになった。
ライメイレンは、ヒイチロウが立派になったと涙ぐんでいるが、ヒイチロウは前々から立派だったと俺は思う。
父親の贔屓目だろうか。
朝食後。
ヨウコが五村に行かず、村に残っている。
このあと、ここで魔王とビーゼル、ランダンがやってきて会談する予定だからだ。
会談の主題は、魔王国と五村の経済的な関係の再確認と擦り合わせ。
まあ、これらは事前に何度か話し合っているので、大きなトラブルはないだろう。
事実、魔王たちがやってきて五分ぐらいで主題は終わった。
終わったが……
どうして、俺に報告する形になっているのかな?
五村はともかく、魔王国は自由にしていいんだぞ。
ん?
雑談?
ああ、かまわないがどうした?
ランダンが板に書かれた資料を取り出した。
「実は王都での火災発生件数が問題になっておりまして……」
ランダンが見せてくれた資料では、今年の春から秋にかけて大小合わせて二十七件の火事が王都で起きている。
二十七件は……多いか。
年間だとしても、一月に二回以上は火事が発生していることになる。
「年々増えている状況です。
対策を検討しているのですが、そこで話題になったのが五村の火災発生件数です。
今年は知りませんが、去年、一昨年と一件も発生していない。
素晴らしい。
これらに関して、なにかしらの仕組みや取り組みがあるのでしたら、お教え頂きたいのですが……」
仕組みや取り組みと言われてもな。
普通に火災訓練……消火や避難の訓練をするように住人に促しているだけだが。
「いやいや、村長。
それだけではないぞ」
ヨウコが補足してくれる。
「村長は五村を作るときに、防災の意識が高かった。
避難路、避難地の確保はもちろん、万が一の火事の際、延焼を防ぐために家と家の間の幅を厳しく決めていた」
まあ、それは当然。
そういったのは、どこもやっていることだろう?
俺の質問に、魔王、ビーゼル、ランダンは顔を背けた。
……
え?
やってないの?
街の設計をしていないのか?
魔王の言い分。
「防衛施設と貴族の屋敷の場所を決めたら、あとは勝手にできあがるから……」
訳)王都は最前線に近く、街のことは気にしていなかった。
ビーゼルの言い分。
「すでにある街を改造して王都にしたものですから、手を出しにくい部分もありまして……」
訳)街の設計をしても、それを実現する労力を考えると後回しになっていた。
ランダンの言い分。
「自治、頑張ってもらってます」
訳)住む場所を変えろと命令しても、なかなか聞いてもらえないです。
よくこれで国家を運営してこられたものだ。
いや、他国との戦争を考えないといけないから、街のことが後回しなのはわかるがな。
ここ十年ぐらいは争いがないわけだし、街の整備も考えていかないと。
「励みます」
「頑張ります」
「やってみせます」
いやいや、なぜそう畏まる。
冗談なのはわかるし、ノリが軽いのも悪いことじゃないがな。
話が長引きそうなので、鬼人族メイドたちが新しく持ってきてくれたお茶……緑茶だな。
それと、お茶請けの黄粉モチがそれぞれの前に配られた。
黄粉モチだから、緑茶か。
ナイスチョイス。
黄粉モチは去年のモチを使っているけど、味に問題はない。
ああ、まだ今年は搗けていないんだ。
ある程度の人数が集まれる天気の良い日にやろうと思ってな。
今日なんかは最適なんだけど、雪山に取られた。
話を戻して、火災に関しては発生の原因追及が大事だ。
なにが原因で火災が起きているかを調べ、それに対策していく。
並行して、避難路や避難地を構築していくことだろうな。
いざとなれば、大きい庭を持っている家に避難させることも必要だと思う。
「なるほど」
そうランダンが感心するが、俺としてはたいしたことは言っていない。
火災の原因を調べるとか、これまでやっていなかったのか?
「あー、その……」
言いにくそうにしている。
どうしたんだ?
促すと、ランダンが口を開いた。
「火事が起きると、その周辺が騒がしくなるのと、火事場泥棒の対策で手が一杯でして……
それらが落ち着いたとしても、火事を起こした者は街から追い出されるか処刑されますので……」
調べたくても調べられないのか。
再発防止を考えると、それだと困るなぁ。
そのあたり、五村はどうなんだ?
ヨウコにそう聞くと、ヨウコは胸を張った。
「五村では、火災原因は警備隊が徹底して調べることになっている。
過去の火災原因としては、魔法の暴発。
松明、たき火の管理ミス。
料理中の失火などが上がっている。
もちろん、それぞれに対策を講じているので、同じ原因での失火はほぼない」
おおっ、知ってはいるが、さすがだ。
ヨウコは続けてランダンに。
「王都に物申すのはおこがましいが、防火は情報の蓄積の結果だ。
しっかりと調べる体制を作るほうがよい」
「わかった。
街長に伝え、調べる体制作りをさせよう」
ん?
街長って……王都の?
魔王じゃないのか?
「魔王様は魔王国の運営者であって、王都の運営者ではありませんから。
もちろん、私も魔王国の内政担当であって、王都の内政担当ではありません。
私の部下の一人になります」
へー、そうだったのか。
「必要であれば、挨拶に来させますが?」
必要ない、必要ない。
あ、でも、火災訓練はするように伝えてもらえるかな。
住人に消火と避難を体験させれば、嫌でも火事を意識し、心構えが変わる。
それだけでも火災の発生は少なくなるはずだ。
「わかりました。
ヨウコ殿。
五村での火災訓練の資料などをあとでいただけないだろうか?」
「王都が燃えてなくなられては、経済的に困る。
提出に問題はない。
ああ、火災訓練はいきなり大々的にするでないぞ。
混乱するし、本物の火災に繋がりかねん。
小規模なものから始めて、周知させるべきだ」
「ふむ、わかった」
「あと、参加者は希望制にすることだ。
強制参加では意味がない」
「そうなのか?
しかし、それでは人が集まらないのでは?」
「火災訓練の名目を“火攻め対策”とすればよい。
参加者に困ることはないぞ」
そう言えば、前に五村のピリカの火災訓練の話をしたときも、“火攻め対策”と聞かれたなぁ。
その後、俺はヨウコとランダンで火災訓練について話をした。
魔王とビーゼルは、その話を静かに聞いて……ないな。
魔王は黄粉モチを楽しみつつ、妹猫たちと戯れていた。
ビーゼルはいつのまにやらフラシアを膝の上に乗せて、ご満悦だった。
王都の防災の話なんだけどなぁ。
「こういったのは担当者に任せるのが最良だ。
下手に口を出すと、混乱する」
「同じく」
そうですか。
とりあえず、雑談は終わった。
このあと、俺は雪山に子供たちの様子を見に行くけど、そっちはどうする?
ランダンは戻って、今の話を街長に伝えると。
頑張ってくれ。
火事の被害者は少ないほうがいいからな。
ビーゼルはランダンを王都に送ったら、こっちに戻ってフラウやフラシアと家族の団欒と。
魔王は……雪合戦用の陣地を構築する?
ああ、昨日からグラッツがハイエルフたちと一緒にやっていたのはそれか。
どうやって分けているかは知らないけど、今回はグラッツも魔王側なんだな。
まあ、無理しないように。
雪山に行ったあとになるけど、温かいものでも差し入れに行くよ。
ヨウコは五村……じゃなく、今日はお休み?
ヒトエとコタツでまったりすると。
ああ、かまわないさ。
ちゃんと五村には連絡しているのだろ?
ならば問題なし。
ランダン 「街長の立ち位置を艦隊で例えると」
魔王 「私が艦隊長で、艦隊全体の動きを指揮する」
王都の街長「私は艦隊長の乗る艦の艦長で、艦の動きを指揮します」
ランダン 「こんな感じです。ちなみに私は艦隊長の参謀の立ち位置ですね」
村長 「逆にわかりにくい」
リドリー 「街長の部下とやり取りしているので、街長の上司とは距離が遠いです」
昔、ランダンになかなか会えない的なことを言ってたけど、会う必要がないのが正解。
町内会の一員が、内務大臣に会ってなにを言うのか。