雪とグラルのお洒落
クーデル 天使族。ヒラクの奥さんの一人。
ララーデル 天使族。クーデルとヒラクの娘。一歳ぐらい。
ヒイチロウ 竜族。ハクレンとヒラクの息子。八歳ぐらい。
グラル 竜族。ギラルとグーロンデの娘。姿は八歳ぐらい。
雪が降り積もり、深くなっていく。
雪掻きが大変だ。
ただ、魔法で雪を溶かすのはお薦めできない。
溶けて出た水が凍って逆に危ないから。
フェニックスの雛のアイギスは、炎で屋根の雪を降ろしている?
なぜかあの炎で溶かされた雪は、水にならずに蒸発しているんだ。
だからあれは例外。
話を戻して……魔法と同じく爆破も駄目。
雪を吹き飛ばすだけだし、溶けた雪もすぐに凍って危ない。
いや、それだけじゃない。
爆破の振動で、建物の上に積もっていた雪が落ちるかもしれない。
それは危ないだろ?
だから、クロたちの角の使用許可は出せない。
クーデルがどれだけ甘えても出せない。
……
娘を使うのはずるいぞ。
結局、五本ほど使用許可を出してしまった。
自分の意思の弱さを反省。
まあ、村の近くでやらないようには言ったが……村の近くじゃない場所で爆破しても、雪掻きにはならないよなー。
なのに笑顔で受け取っていたから、ただ急降下爆撃がしたいだけか。
相変わらずだ。
俺はララーデルをあやしながら、ああいったところは似るんじゃないぞと願った。
あやしていたララーデルがお昼寝したので、ララーデルの部屋のベッドに寝かしに行く。
このまま見守っておこうかと思ったら、何人かの天使族が見守りは任せてくださいと志願してきた。
村に新しくやってきた天使族で、ララーデルとは仲良くやっている天使族たちだ。
いいのか?
退屈だぞ?
俺は自分の娘だから、それほど苦痛ではないが……
本でも読みながら交代で見守るとのこと。
それと、天使族の子供はめったにいないので、見守りたいそうだ。
ティアやクーデルにも事前に許可をもらっているとのことで、俺的には任せて問題はない。
よろしく頼む。
なにかあったときは、鬼人族メイドか部屋の天井にいるザブトンの子供たちに言ってくれ。
俺が上を指差すと、何匹かのザブトンの子供たちが足をあげて挨拶。
ん?
どうした?
防犯が完璧だと感心したと。
そうかそうか、ザブトンの子供たちは優秀だからな。
ララーデルを天使族に任せ、廊下をぶらぶらしていると中庭で珍しい組み合わせが雪ダルマを作っているのを見た。
グーロンデ、オルトロスのオル、ヒイチロウだ。
いや、実際に作っているのはグーロンデとヒイチロウで、オルトロスのオルはグーロンデの周囲にいるだけだけど。
俺は防寒着を着て中庭に。
おーい、ライメイレンはどうしたんだ?
「ライメイレンさまは雪山作りに出かけました。
夫とドースさまを連れて」
なるほど。
それで、グーロンデがヒイチロウを預かったのか。
すまなかったな。
ライメイレンも俺かハクレンに預けてくれればいいのに。
「私だと、すぐに返してもらえるからでは?」
たしかにそうだな。
「それと、ハクレンさんはヒカルさんとヒミコさんをみてますから」
それもあるな。
俺もヒカルやヒミコの世話をしたいのだが、ヒカルとヒミコはまだ上手く力の制御ができず、万が一を考えて俺はあまり近づけさせてもらえない。
寂しいが、子供にトラウマを植えつけるわけにはいかないからなぁ。
おっと、ヒイチロウを無視したわけじゃないぞ。
一緒に雪ダルマを作ろうか。
よしよし。
……
あれ?
グラルは?
ヒイチロウのいるところにグラルがいるイメージ。
ライメイレンのいないときはとくに。
なのにいない?
「おめかししてます」
グーロンデが教えてくれた。
「ザブトンさんが冬眠前に作ってくださった服がありまして、それを着るために家のほうに戻ってます」
ほう。
グラルの行動は、ヒイチロウに見せるためだろうな。
まあ、ペアルックの強制とかでないなら、問題なし。
俺は雪ダルマの頭を作りながら、そう考えた。
雪ダルマの胴体部分はヒイチロウ。
父親として息子に力を見せたいが、種族的な差はどうしようもない。
頭を胴体に乗せるのもヒイチロウに頼む。
うん、悪くない。
グーロンデのほうも完成したな。
グーロンデの作った雪ダルマは、胴体は半円のカマクラ型で、その上に丸い頭が乗っている。
「胴体をカマクラにしようと思っていたのですが、胴体に穴を開けると頭が落ちて沈みますよね」
そうなるだろうなぁ。
カマクラは冬になれば村のあちこちにできるので、グーロンデも知っている。
雪ダルマに実用性を与えようとしたのだろうが……
「計画倒れでした」
まあ、そう落ち込むことはない。
俺も似たようなことをやって、頭を実際に落としている。
途中で止めれたグーロンデのほうが優秀だ。
「ふふふ」
カマクラはカマクラで作ろう。
ヒイチロウもやる気だ。
オルトロスのオルは……グーロンデの作った雪ダルマの頭の上に登り、ご満悦な顔だった。
少しして、グラルがやってきた。
おおっ、黒と赤を基調にした冬服!
第一印象は……神官服!
冬服なのに、あまりもこもこしておらず、神聖さが重視されている気がする。
寒さは大丈夫か?
問題はない?
だったらいいのだけど。
しかし、グラルの灰色の鱗の色と相まって、凄く似合っている。
って、人の姿用の服ではなく、ドラゴンの姿用の服か!
来るのが遅いなと思っていたが、着るのに時間がかかるのも納得だ。
おっと、着陸は待ってくれ。
雪ダルマが壊れる。
そこはカマクラを作ってる最中。
そのあたりで……
静かにだぞ。
よし、見事な着陸。
ヒイチロウ、グラルの姿を見て一言どうぞ。
「つ、翼がいっぱい……」
……
たしかにドラゴン姿のグラルには、翼が一対ではなく三対ある。
あれ?
前からそうだっけ?
グラルのドラゴン姿は何度か見ているが、一対の普通のドラゴンだったような気がするが?
「まだ上手く扱えないので出していなかっただけです」
グーロンデの補足。
なるほど、そうだったのか。
上手く扱えないと言っているが、空中で静止しているとき、三対の翼をそれぞれ動かしてポーズを決めているのはかっこよかった。
まあ、そのせいで、実は堕天使とか闇司祭とかを神官服より先にイメージしたのは内緒だ。
神官服と言えた俺、凄い。
それはいいとして……
ヒイチロウ、翼がいっぱいって感想はどうだろうな。
もうちょっとあるだろ?
グーロンデの首がいっぱいあるドラゴンの姿も羨ましい?
うーん。
グラルがこっち……いや、ヒイチロウをチラチラ見ている。
せっかく着飾ったのだからな。
仕方がない、もう一回だ。
ヒイチロウ、グラルの姿を見て一言どうぞ。
しかし、まだ子供なヒイチロウに空気を読むのは無理だろう。
なので、俺はヒイチロウに小声でアドバイスをする。
ヒイチロウも、ああいった服を着たいか?
「うん、グラルの服、かっこいい!」
つまり、似合っているということだな。
大丈夫だとは思うが、通訳しておいた。
グラルは……まんざらではなさそうだ。
よかった。
お?
グラルは人の姿に戻るのか。
え?
服はどうなるんだ?
魔法で収納?
便利だな。
って……
グラルよ。
その姿はなんだ?
高校生ぐらいのサイズになっているぞ?
でもって、人の姿でも闇司祭……じゃなくて、神官服?
人の姿用も作ってもらっていたのか。
ああ、似合っている。
が、その、なんだ……
ドラゴン族の人の姿が自在なのは知っている。
普段は威厳とかを考え、それなりの年齢の姿のライメイレンが、若い姿でいたりするからな。
グラルとしては服が似合う姿になっただけなのだろう。
だが、悪手だ。
俺はちらりと横のヒイチロウをみた。
あきらかに機嫌を損ねている。
そりゃ、同じぐらいだと思っていたグラルが、一足先に成長した姿になればなぁ。
微妙なお年頃の男の子としては、似合うとか綺麗だとか言う前に、嫉妬が先にくる。
グラルもそれに気づいたようだ。
どうする?
「早く、私の横が似合うようになってください」
煽ったぁ!
す、凄いぞグラル!
追いかけるだけじゃなかったんだな。
そんなグラルの姿に、グーロンデも感慨深く頷いていた。
オルトロスのオルは……退屈させてすまない。
カマクラを完成させようか。
グラルは、ずっとその格好でいられるのか?
無理?
グラルは、いつもの姿に戻った。
服もそれに合わせてリサイズされて……
あ、うん、かわいいぞ。
えーっと、そっちに意味は通じないだろうけど、七五三みたいだ。
「意味は?」
愛らしいってことだ。
とりあえず、拗ねたヒイチロウは任せて大丈夫か?
よし、任せた。
違う。
ヒイチロウの妻として認めたわけじゃないから。
前々から言っているように、そういったことは二人……グラルは大丈夫そうだから、ヒイチロウがしっかりと判断できるようになってから。
その後、完成したカマクラの中で、汁物で温まった。
ヒラク 「服を魔法で収納できるなら、魔法で着るのもできるんじゃないのか?」
グーロンデ「ああいったのは一度、着た状態にしないと駄目なので」
ヒラク 「つまり……グラルは、ドラゴン姿と人姿の二通りを着て来たってこと?」
グーロンデ「そうなります」
ヒラク 「そりゃ大変だったな」
グーロンデ「女の子ですから、大丈夫ですよ」
ルー 「村長の女心への理解は私が育てた」
お待たせしました。
やっと時間が取れるようになったので更新再開です。
よろしくお願いします。