雪の跡
フラシア フラウの娘。クロのお腹を撫でるのが好きな子。
朝。
朝食を食べて少しまったり。
冬なので、大きな仕事はない。
気が楽だ。
だが、やることはある。
まずは外の天気を確認し……うん、晴れだな。
三十センチほどの深さに積もった雪が綺麗だ。
しかし、その雪がすでに荒らされている。
足跡から、若い世代のクロの子供たちだろう。
年配世代のクロの子供たちは、雪の少ない場所を選んで歩くからなぁ。
そんな足跡に混じり、スキーで移動した痕跡もある。
幅の広さから、子供用のスキー板かな?
それが数人分。
子供たちがスキーで出かけたので、護衛としてクロの子供たちが同行したということかな。
心配としては、子供たちが誰にも言わずに出かけている可能性があることだが……
鬼人族メイドたちに確認したら、出かけたのはアルフレート、リリウス、リグル、ラテで、ちゃんと行き先と目的を伝えてあるらしい。
いい子たちばかりだ。
「あと、二人ほど護衛が同行しています」
その痕跡は気づかなかった。
護衛はハイエルフだそうだから、魔法でも使ったのだろうか?
あとで確認しておこう。
子供たちに問題はなかったので、俺も外に。
うん、寒い。
しかし、日が出ているので凍えるほどではない。
ちゃんと防寒具を着込んでいるしな。
目的は牧場エリア。
馬や牛、山羊、羊、豚たちのチェックがメインだけど、牧場エリア全体も確認する予定。
牛小屋のように壊れてたらいけないからな。
ん?
あまり沈んでいない大きい靴跡。
これはハイエルフや獣人族の女の子たちが使う雪用のブーツの跡だな。
スパイクがあるから、獣人族たちだろう。
靴跡も牧場エリアに向かっているし、間違いないだろう。
牧場エリアに到着すると、予想通り獣人族の女の子たちがいた。
どうやら動物たちの小屋をチェックしているようだ。
動物たちの世話は雨や雪の日でも欠かすことはできないので、毎日のように誰かが小屋を見ているのだが、どうしても視界が悪いからな。
晴れた日のほうがチェックしやすい。
俺も手伝おうと思ったが、ほぼ終わっているようだ。
来るのが遅かったか。
「いえいえ。
村長がいると動物たちも喜びますから」
そうか?
山羊が突進してくるだけだと思うが?
そう思って周囲を見ると、ユニコーンとペガサスが俺に駆け寄ってきた。
おおっ、どうしたどうした?
ん?
馬のことは意識しても、俺たちのことを忘れているんじゃないかと?
ははは、お前たちのことを忘れたわけじゃないぞ。
馬として一括りにしただけで。
一緒にするな?
似たようなものだと思うが?
……わかったわかった。
一緒にしない。
別扱い。
それでいいか?
よしよし。
ところで、ユニコーンとペガサスは着飾っているな。
馬着というものだったか?
ペガサスは、馬着が翼の動きを邪魔しないようになっている。
刺繍が綺麗だから予想はつくが、どうしたんだ?
ザブトンたちが作ってくれたと。
やはりそうか。
ちゃんとお礼を言ったか?
言ったならいいんだ。
大事にするんだぞ。
牧場エリアを見回り、異常なしを確認。
積雪量もそれほどじゃないが、小屋の上の雪は落としておいた。
あと、小屋にできた氷柱も折っておく。
危ないからな。
ちなみに、氷柱を舐めて水分補給をしていたとある動物が、舌と口を氷柱にくっつけてしまい動けなくなった事故があったことは秘密だ。
動物の名誉のために、村の外では言ってはいけないことになっている。
おっと、馬に頭突きをされてしまった。
言ってないのに。
屋敷に戻る途中、スキー板を着けたアルフレート、リリウス、リグル、ラテを発見。
また出かけるところのようだ。
昼食に戻ってきていたのかな?
護衛のクロの子供たちが俺に気づいたらしく、アルフレートたちに教えている。
手を振って挨拶。
入れ違いのようで残念だ。
……
しかし、アルフレートたちの後ろを行く奇妙な生物というか、ふわふわ丸い存在。
白い防寒着を着こんだ護衛のハイエルフだ。
だが、注目すべきは防寒着ではなく、その足。
ハイエルフたちは足の底に細い棒を立てて装着していた。
竹馬……いや、手を使わないから、一本歯下駄……みたいなものかな?
靴底にあるのは歯ではなく、棒だけど。
だから、その足跡は細い穴があるだけ。
なるほど、足跡がなかったのは魔法ではなく、あったけど俺が見落としていただけか。
しかし、その棒も長いな。
一メートルぐらいありそうだ。
通りかかったハイエルフにあれはなんだと聞くと、雪の中に隠れている変なものを踏む危険への対策だそうだ。
「導入したばかりです。
今年いっぱい使ってみて、効果が高いようであればほかの種族にも勧めてみようかと」
なるほど。
見た感じ、足首への負担がきつそうだけど、実は棒は脛で固定されており、いざというときはワンタッチで外せる仕組みになっているそうだ。
だから足首を傷める心配は少ない。
欠点は、習得にそれなりの時間が必要なこと。
あと、見た目が面白いことだそうだ。
まあ、面白いのは認めるとして、採用しているからには有用だと思っているのだろう。
「魔獣や魔物が雪の中に隠れることもありますから」
用心は大事だな。
「はい。
まあ、私たちが近づく前にクロ殿のお子さんが退治してしまうので、活躍の場というか変な物を踏むことはないのですけどね」
ん?
冬場だと、活動するクロの子供たちの数が少ないだろ?
大丈夫か?
「いえ。
森に入ると言えば、いつも通りの数が護衛について来てくれますよ」
そうなのか?
「冬場は私たちも森に入ることが減りますから、護衛役のクロ殿のお子さんたちが暇をしているように見えるのではないでしょうか」
そう言われると……そうか。
ふむ。
クロたちを少し見直さないといけないな。
そんなふうに思いながら屋敷に戻ると、俺の部屋で仰向けに寝ながらイビキをかいているクロ。
その周囲で、静かに寝ているユキと子供たち。
……
俺は寝ているクロを静かに抱きかかえ、重いな。
だが、頑張ってそのまま屋敷の外に……
途中でクロが起きた。
目と目があう。
……
あ、逃げた。
「お父さん、クロを虐めちゃ駄目だよ」
その様子を見ていたフラシアに咎められた。
フラシアは優しいな。
だが、虐めたんじゃないぞ。
ちょっと雪と戯れさせてやろうと思っただけだ。
「クロが望んでないならやっちゃ駄目だよ」
まあ、その通りだけどな。
ちょっとしたイタズラだ。
「イタズラも駄目」
うん、そうだな。
反省。
いつのまにか、逃げたクロがフラシアの後ろにいて、さすがフラシアと満足気な顔をしていたので、謝って仲直り。
はいはい。
しばらくはコタツを自由に使っていいよ。
俺が許可しなくても使うだろうけど。
ザブトンの子供「馬着、作りました!」
ペガサス「馬着……防寒、虫除けの効果あり!」
ユニコーン「へー、虫除けも……え? 虫除け?」
ザブトンの子供「ぶ、分類的には蜘蛛は昆虫じゃないから」
馬「ファンタジーに細かいことを言いなさんな」
遅くなりました。
今月はちょっと色々あって、更新が遅れます。
すみません。