冬が始まる
ザブトンとザブトンの子供たちが、冬眠した。
春までお別れだ。
寒さに耐性がある冬眠しないザブトンの子供たちが、気合を入れている。
無理はしないように。
もちろん、頼りにしているぞ。
だが、保温石を持たないと駄目な個体は、ちゃんと持つように。
持たなくても大丈夫な個体も、油断しないように。
寒いからな。
スライムみたいに外で凍って春までそのままとか嫌だろ?
そんなことを言っていたら、スライムたちから怒られた。
しかし、凍っているのは事実だろ?
数は減ったが。
俺に怒る前に、種族全体で注意するように。
そして、ザブトンたちに続いてため池のポンドタートルたちも冬眠。
また春に会おう。
……
えーっと、ルーよ。
こっちは別れを惜しんでいるところなんだ。
ポンドタートルの甲羅の皮を抱えてダンスをするのはやめてもらえないかな。
それに、毎年、それなりの量を貰っているんだ。
踊るほど珍しくないだろ?
「そうは言っても貴重なものなのよ。
幻の素材なんだから!
使い道もいろいろあるし、いくらあってもかまわないぐらいよ」
踊るのは止めてくれたが、歩くステップが軽快だ。
よほど嬉しいのだろう。
まあ、ポンドタートルの甲羅の皮は薬になるだけでなく、魔法の触媒になったり、魔道具の部品としても使える。
ルーとしては、冬のあいだの研究に使える新鮮な素材を入手できたようなものか。
だからと言って独占はよくないぞ。
フローラやティアが使いたいと言ったら、渡すように。
「わ、わかってるわよ。
言われたら渡すわ」
それならよし。
ところで、ドラゴンたちの鱗も貴重だが、嬉しいのか?
「あれはあれで貴重なんだけど、加工が手間だから」
加工するのに、べつの貴重な鉱物を使わなければいけなかったりと、いろいろと面倒らしい。
「それに、捨てるほどあるのを見せつけられるとねー」
捨てようとすると、周囲から必死で止められるけどな。
来年は鱗用の倉庫を増やさないと。
そして、冬が到来。
急に吹雪いた。
びっくりした。
しかし、備えは万全。
困ることはない。
ふふふ。
この程度の吹雪ではびくともせんぞ。
などと思っていたのだが。
翌日。
吹雪が収まって村の状況を確認すると、牛小屋の壁の一部が壊れていた。
馬鹿な!
牛小屋が壊れたことなど、これまでなかった。
少し前に手入れもしている。
あの程度の吹雪で壊れるものか!
「どうやら、壊したのは牛のようです」
若い牛が、吹雪の音に驚いて暴れてしまったようだ。
それなら仕方がない。
幸いにして、被害は牛小屋の壁だけで牛たちには被害はなかった。
寒くはなかったか?
牛たちが寒さからか小屋の中で密集していたので心配したが、牛の周囲から保温石を持ったザブトンの子供たちが現れた。
おおっ、保温石で牛たちを温めていてくれたのか。
ありがとう。
助かったぞ。
ん?
連絡できなくて反省?
いやいや、吹雪いていたんだ。
無理に外に出るのはよくない。
ここで待機していて正解だ。
しかし、ザブトンの子供たちの数が多いな。
牛小屋を守るため、交代で何匹かが住んでいるのは知っていたが、ここまでじゃなかったはず。
まさか、吹雪の中を移動したのか?
違う?
牛たちが急に温泉に移動することがあるから、事前に監視として数を増やしていたと。
なるほど。
そして、数を増やしていたから牛たちを十分に温めることができたと。
運がよかった。
そう、牛たちや俺は運がよかった。
ザブトンの子供たちが備えてくれたことで、その運を引き寄せてくれた。
改めて、ありがとう。
助かった。
さて、小屋を壊した牛も反省しているようだし、同じ失敗を繰り返さなければ問題にはしない。
牛小屋以外に、被害がある場所もなし。
となれば、牛小屋の修理を急がなければ。
まずは小屋の中に入った雪を外に放り出し、壊れた箇所をむき出しにして被害状況を確認する。
土台や柱に被害はなさそうだ。
牛小屋の壁が崩れただけのようだから、すぐに修理できる……かな?
ちょっと不安になったところで、ハイエルフや山エルフ、獣人族の女の子たちが手伝いに来てくれた。
助かる。
ああ、ザブトンの子供たちも手伝ってくれるのか。
ありがとう。
高い場所は任せるぞ。
よし、また吹雪く前に終わらせよう。
四時間ほどかけて、牛小屋の修理は無事に終了。
それを見守ってから、牛たちは出かける準備を始めた。
どこに行くんだ?
温泉?
それなら、修理を待たずに行けばよかったのに。
見張ってなくても、ちゃんとやるぞ。
そうじゃない?
俺たちが頑張っているのに、温泉でのんびりできない?
そうか、気を使わせたな。
よしよし。
温泉でのんびりしてくれ。
知ってはいたが、牛たちが自分で扉を開け閉めする賢さには感心する。
勝手に開けられないように、何度も改良した鍵をつけているのだけどなぁ。
ちなみに、馬や山羊も扉の開け閉めができる。
うちの動物たちは総じて賢い。
まあ、危ない場所に行こうとするのでなければ、ザブトンの子供たちが開け閉めをやってくれるのだけど。
そのザブトンの子供たちは、何匹か牛たちに同行するらしい。
道中でなにかあったときのためだな。
よろしく頼む。
あと、温泉地の死霊騎士たちに、よろしくと伝えておいてくれ。
ああ、俺も冬のあいだに何度か温泉地には顔を出そうと思う。
冬場の温泉は至福だからな。
屋敷に戻ると、すっかり日が暮れていた。
だが、夕食には……まだ少しかかりそうだ。
これはアンたち鬼人族メイドがさぼっているわけではなく、ただ日が暮れるのが早くなっただけだ。
夕食作りの手伝いを申し出たが断られたので、部屋でのんびりと待つことにする。
……
俺の部屋では、クロたちがコタツに入ってまったりとしていた。
クロ、ユキ、クロイチとアリス、クロニとイリス、ウノとクロサン、クロヨンとエリス。
クロたち一家の初代組が勢ぞろいだ。
まあ、冬はフェンリル一家が村の警備の主力だからな。
それはいいとして……
今日、俺のそばに一頭もいなかったのはどういうことだ?
屋敷をでるときに、何頭かに見送ってもらっただけだぞ。
俺の問いかけにクロたちは少し考え、一斉にコタツの中に姿を隠した。
仲のいいことだ。
まあ、寒いからな。
怒ってないよ。
ほら、俺もコタツに入るから、潜ってないでスペースを作ってくれ。
ふう、暖かい。
今日、大活躍だったザブトンの子供たちのために、明日にでもイモ料理を作ってやろう。
なにがいいかな。
マッシュポテト……冬場だから、温かいほうがいいかな?
蒸かしイモ。
バターをたっぷりと乗せた蒸かしイモ。
悪くない。
あ、いや、珍しい料理のほうが喜ぶかな?
考えながら、のんびりと夕食を待つ俺だった。
遅くなりました。