父は親子で語らいたい
麻雀の話がありますが、わからない人にはすみません。
囲碁漫画の囲碁シーンのように、盤面ではなく雰囲気で読んでください。
ザブトンとザブトンの子供たちが冬眠の準備を始めた。
毎年のことだけど、今年は少し様子が違った。
具体的に違いを指摘すると、布団を用意していた。
掛布団の重さに拘りがあるらしい。
……
冬眠って、そういうものなのかな?
冬眠しているところを見たことがないのでなんともいえないが、穴の中とかでじっとしているイメージだったのだが?
まあ、ザブトンとザブトンの子供たちが布団を使うというなら、使うのだろう。
邪魔はしない。
一部はパジャマにナイトキャップも用意しているが、邪魔はしない。
うん、似合っているぞ。
パジャマは全部の足に袖を通すとなると、着るのが少し大変そうだけどな。
伸縮性があるから、大丈夫?
パジャマとしての吸水性もばっちり?
へー。
よくできているんだな。
俺の分のパジャマも作ってある?
パジャマはすでにあるが……
そうか、新作か。
わかった、寝るときに使わせてもらおう。
ところで。
うん、ところでなんだが……
邪魔をするつもりはないのだけど、どうしても一つ、抑えきれない疑問があってな。
すまない。
簡単な疑問だ。
いいかな?
うん、ほんとうに簡単な疑問なんだ。
そのパジャマを着て、ナイトキャップをつけて、布団を使って冬眠するとき、仰向けなのか?
それともうつ伏せなのか?
……
へー、個々に好みがあるのか。
そうかー。
そりゃそうだよなー。
なるほどなるほど。
えーっと、仰向けで寝る者は死んでると驚かれるかもしれないから、注意だぞ。
冬への備えはほぼ終わっているので、基本はまったりモード。
でも、やることがないわけじゃない。
たとえば、褒賞メダル作り。
これは俺の仕事だ。
毎年、冬のあいだに新規で何百枚か作っている。
春までに完成すればいいので時間的に余裕はあるが、のんびりしているとあとで困ることになるので、手が空いたときにちまちまとやっている。
褒賞メダルの交換用の家具や遊具も作らないといけない。
こっちはハイエルフや山エルフたちが手伝ってくれるので、昔よりは楽になった。
あとは……ダンジョン内での畑作り。
基本的にダンジョンで生活する者たちの食料用だが、緊急事態では俺たちの非常食にもなる。
なのでいつも多めに作る。
まあ、これまで非常食にするような事態には遭遇していないのだが、油断は禁物。
無駄になってもいいつもりで作業。
仕事以外にもやるべきことはある。
親子の交流だ。
とくにアルフレート、ティゼル、ウルザの三人とはしばらく会っていなかったからな。
あ、ちょっと前にシャシャートの街で会ったか。
まあ、気にしない。
久しぶりと俺が言えば、久しぶりなんだ。
改めてなにを話すんだと問われると困るが、ともかく語らいは大事だ。
うん、大事。
なのに、どうして俺はウルザの友人であるイースリーと麻雀をやっているのだろうか?
麻雀は基本的に四人でやる遊戯。
麻雀をやっていたドマイムが負け過ぎて精神的にダメージを負い、強制休憩。
人が足りなくなったからだ。
なので、メンバーは俺、イースリー、ドース、それにドライムで麻雀卓を囲んでいる。
まあ、イースリーからアルフレートたちの学園での様子が聞けるから、かまわないと言えばかまわないが……
「ドライムよ。
手はどうだ?
索子は余っているか?」
「父上。
負けているからと、不正は駄目です」
「不正ではない。
ただの雑談だ。
その証拠に、ワシは索子を欲していない」
「そういった言動は駄目だって前に注意されたでしょう。
巻き込まないでください!」
「ドライムよ。
父は悲しいぞ。
勝つための手段を選ぶとは」
「ルールを守ってこそ、勝利が輝くのです」
「ふっ……ドライムよ。
大きくなったな。
ん、ドライムの手番だぞ」
「おっと、失礼。
これが不要かな」
「おっと、その三ソーでロン!
11600!」
「ち、父上ぇぇぇっ!!
索子は不要って言ったのに!」
「ふっ。
勝負は非情なものよ」
そっちは親子で語らえて、いいなぁ。
まあ、俺とドース、俺とドライムも義理ではあるが親子だが……親子の子ではなく、親子の親として語りたい。
ちなみにだが、麻雀には最初に配られた点数を全て失うとそこで勝負が終了する「箱割れ」や「箱下」と呼ばれるルールがあるのだが、この村では採用されていない。
すぐに終わってつまんないという意見が通ったからだ。
なので、全員が親番を二回終わるまで勝負は続行となっている。
結果、ドースとドライムのあいだで一万点ぐらいのやりとりがされても、まったく手が届かない場所にイースリーがいる。
もちろん、俺も届かない。
「箱割れ」は弱者救済ルールなんだなと改めて思う。
この勝負、まだまだ終わりそうにない。
つまり、アルフレートたちとの語らいは遠そうだ。
そんな俺の様子を見たからか、イースリーが気を使ってくれた。
「あの、なんでしたら接待しますけど」
ははは、ありがとう。
しかし、それは悪手だよイースリーくん。
俺は平気だけど、負けている者にとってそれは煽り行為だ。
そして、竜族は煽りに耐性がない。(俺調べ)
種族的に生物の上位にいて煽ってくる相手がいないのだから、耐性がつくはずもない。
「ほほほ。
退屈させたようですまんなぁ」
「まったくですな父上。
ここは気を引き締めていきませんと」
ほら、ドースとドライムが静かに切れた。
まあ、切れたからと勝てるわけではないのが麻雀。
「ツモ。
8000、16000」
「ロン。
32000」
「ツモ。
16000オール」
イースリーの連続アガリによって場が進んでいく。
俺も巻き込まれて点数を失っているので、不毛な争いは止めてほしい。
そして、協力してイースリーの親を終わらせよう。
ああ、協力といっても不正なことをするわけじゃない。
それぞれがアガリを目指しつつ、一番早そうな人に阿吽の呼吸でサポートするだけだ。
そんなプロっぽいことができるのか?
できる!
俺たちならできるはずだ!
俺の視線による提案に、ドースとドライムが目で応えた。
それで、手はどうだ?
俺は駄目だ。
重い。(意味:アガリまで手順がかかる)
ワシも無理。
重い。(意味:ポンやチーで鳴いて進めるのも厳しい)
私も駄目だ。
重い。(意味:この局は無理、捨て局)
……
なるほど、つまり……
「ツモ。
16000オール」
イースリーが早いってことか。
うん、落ち込まず、頑張っていこう。
なにごとも前向きにだ。
俺が麻雀卓から解放されたのは、それから一時間後であった。
ああ、麻雀は続いているぞ。
今のメンバーは、イースリー、ハクレン、ウルザ、ヒイチロウ+ライメイレンだ。
ウルザが参加するなら残ってもよかったのだけど、敗北による精神へのダメージが大きすぎてちょっと厳しい。
ウルザとはあとで話そう。
アルフレートは……
ルーとなにか難しそうな話をしているな。
内容はよくわからないが、単語から魔法学的なことだろう。
参加したいけど、参加できない。
アルフレートとはあとで話そう。
となると……
残るはティゼル。
戻ってきたときは天使族に取られたが、いまなら大丈夫だろう。
居間でお茶を飲んでいるティゼルを発見。
親子の語らいをしよう!
「お父さま!
私もお話ししたいことがありました!」
おおっ、さすがティゼル!
なんでも聞いてくれ。
「お父さまの話はいいのですか?」
後回しでかまわない。
俺の目的は、親子の語らいなのだから。
「そうですか。
では、私の結婚相手は誰ですか?」
……
んんん?
すまない。
聞き間違いかな?
結婚相手は誰と聞かれたような気がしたのだが?
「そう聞きました」
なぜ?
どうしてそんな話になる?
「トラインのお相手が決まったと聞きましたので。
てっきり私も決まったのかと」
どうしてそうなる。
「母は違えど、私はトラインの姉ですから。
姉のほうが先に嫁ぐものではないでしょうか?」
あー……
その順番はわからなくもないが、絶対じゃない。
ほら、ハクレンも弟のドライムのほうが先に結婚しただろ?
たぶん、周りに聞けば順番が前後していることもあるはずだ。
「学園では、順番通りの方々ばかりでしたが」
ん-……あそこは貴族の学園だからなぁ。
順番通りに結婚しないと、いろいろと問題があるのだろう。
あそこは例外としてほしい。
「天使族の方々も、順番は大事と」
え?
そうなの?
天使族はそういったことを気にせず、殴って決める文化じゃないの?
「殴るのは最終手段。
殴る前に解決するのが秩序だと、マルビットさんが言ってました」
そ、そうか。
秩序を体現できているか疑問なところは多々あるが、悪くない考え方だ。
今後も大事にしてほしい。
そして、そこも例外で。
「例外ばかりですね」
そうだな。
それと、誰に聞いたかは知らないが、トラインの結婚は決まったわけではない。
打診があったというのを確認しただけだ。
俺としては、トラインの意思を大事にしたい。
もちろん、ティゼルの場合もだ。
だから、ティゼルに黙って相手を決めるようなことはしないよ。
「お父さま……」
逆に、ティゼルが結婚相手にいいなと思った者がいたら、遠慮なく村に連れて来て紹介してほしい。
「そんな。
トラインの話を聞いて私も結婚かと思いましたが、私が結婚なんてまだまだ早いです」
そうか?
だが、ティゼルはかわいいからな。
男性のほうが放っておかないだろう。
だから、いいなと思った時点で、村に連れて来るんだ。
わかったな。
「はい。
お父さまの言う通りにします」
うん。
ティゼルが部屋に戻り、居間に残った俺が親子の語らいに満足していると、ティアがやってきた。
「よろしいのですか?
ティゼルが選んで連れて来ても?」
聞いていたのか?
「聞こえてしまった。
というのが正しいですね」
そうか。
「それで、よろしいのですか?」
俺は娘を信じている。
そうそう悪い相手は連れて来ないだろう。
「そうですか?
利害関係だけで結婚相手を決めそうなところもあるのですが……」
あー……
ありそう。
まあ、男女の仲は複雑怪奇。
流れで結婚することもあるし、口うるさいことは言わないさ。
んー。
違うな。
口うるさい父親であると、ティゼルに思われたくないだけだな。
俺もティゼルの結婚は、まだまだ早いと思う。
あと十年。
いや、二十年は子であってほしい。
「かわいがり過ぎて、嫁ぎ損ねるのも困るのですが……
天使族でティゼルの相手を探すという話もありますよ」
そっちで進めると、断れない相手とか出てきそうだからやめて。
「そうだと思って止めてます。
まあ、強引に進めても誰も喜びませんしね」
そうだな。
「ですが、簡単にティゼルの夫になれると思われるのも困ります」
え?
「天使族の試練ほどではないにせよ、なにかしらの試練を用意して歓迎するぐらいは許されるでしょう」
えーっと……
「余興ですよ。
余興。
ちょっと竜族と戦ってもらうぐらいで」
……
「もちろん、竜の姿でですよ。
人の姿だと、かなり力が制限されますからね」
ティア。
ティゼルの結婚の話はここまでにしよう。
ティアが反対なのはわかったから。
ああ、きっとまだまだ先の話さ。
それまで、ティゼルは俺たちの娘だ。
天使族A「姉より優れた妹などいないのだぁ!」
天使族B「そんなこと言って、家では妹を猫可愛がりしているくせに」
天使族A「そ、そんなに、かわいがってないもん」
村長「ところで、俺とティアとの馴れ初めをティゼルには……」
ティア「美談にしてます」
村長「……」
ティア「美談でしたよね」
村長「うん、そうだな。美談だった」
そういうことになった。
更新が遅くなり、申し訳ありません。
言い訳になりますが、東京から戻って少ししたぐらいで、やたらと手首が痛くなりまして。
腱鞘炎を疑いましたが、現在は快調しております。
どこかで重い物でももっただろうか?