関節痛と世界樹の畑
武闘会が終わったので、冬の準備を本格的に進める。
といっても、前々から少しずつ準備はしているし、各自がやることをわかっているので、慌てるようなことはない。
今日の俺の仕事は、蜂たちの小屋の確認。
傷んでいる箇所を見つけ、修理するのだが……
傷んでいる箇所が見つからない。
まあ、傷んでいたらザブトンの子供たちから報告が上がるしな。
蜂たちからも問題はないと言われたので、蜂たちの小屋の確認は終了。
まるまると太った女王蜂も元気そうで、よかった。
ん?
最近、足の関節が痛い?
太り過ぎだ。
運動をしなさい。
なに?
運動したくても足が痛くてできない?
むう。
肥満による関節痛か……
あれ?
外骨格なのに?
そもそも、昆虫に痛覚ってあるのか?
い、いや、俺の常識にとらわれてはいけない。
ここは以前とは違う世界。
痛いというのだから、痛いのだろう。
ルーに頼んで、なにか薬を用意するか、世界樹の葉を使うかなんだが……
女王蜂が、世界樹の葉は恐れ多いと言うので、ルーに薬を頼むことにしよう。
あとで持ってきてやろう。
ははは、嬉しいのはわかるが激しく動いて大丈夫なのか?
やっぱり痛いか。
薬は急ぐとしよう。
屋敷に戻ってルーに蜂の関節痛を治すか緩和する薬を頼んだら、変な顔をされた。
「外骨格なのに?」
うん、本人がそう言っているからね。
「ふーん。
まあ、栄養価の高い物を食べさせれば自然に治ると思うけど?」
肥満による関節痛だから、さらに太らせるのはちょっとな。
「ああ、患者はあの女王蜂なのね。
となると……これかな」
ルーが持ってきたのは四角い木片。
これが薬?
「ううん、胴体を乗せる台。
足を浮かして使わせないようにすれば治るわ」
なるほど。
薬はないのか?
「関節痛を治す薬はあるけど、蜂に使うと効果が出過ぎて危ないのよ。
時間がかかっても、足を使わない方向が一番じゃないかな」
そうか。
ならば仕方がない。
この台を持っていくとしよう。
ん?
ザブトンの子供……
薬棚で脱皮して生まれた、背中の模様がかっこいいザブトンの子供がいた。
たしか、カーススパイダーエリートとかいう種族名だ。
毎年、数体が生まれては各地で働いているのだが……蜂の関節痛の治療はまかせろ?
治癒魔法でなんとかなる?
そうなのか?
それなら頼むが……どうしたルー?
「魔法でいいなら私がするけど」
いや、ルーはルーで冬の準備があるだろ?
「魔法でいいなら私がするけど」
あー……
結果、俺とルー、そしてカーススパイダーエリートで蜂のところに戻ることになった。
まあ、その場でセカンドオピニオンができると思えば、悪くないのかな?
とりあえず、順番を決めるクジを用意していく俺だった。
新しくやってきた天使族が三十人ほど、世界樹の周囲で祈っていた。
天使族にとって世界樹は大切なものだそうだからな。
おっと、何人かの天使族が世界樹に近づき過ぎて、世界樹に住む巨大な蚕に攻撃されている。
待て待て。
双方、慌てるな。
喧嘩は駄目だぞー。
蚕よ。
蚕の糸で縛った天使族を、びたんびたんと地面に叩きつけるのを止めるんだ。
そりゃ、恍惚の顔で世界樹に頬ずりしようとしたのはよくないけど。
天使族のほうも冷静になって。
深呼吸。
そう、ゆっくりとね。
蚕のほうは、縛った天使族を解放して。
うん、こっちで注意しておくから。
「村長さま。
ぜひとも、世界樹のお世話を私たちに!」
興奮しない興奮しない。
あと、お世話ってなにをするんだ?
水やりか?
「世界樹を取り囲み、毎日のように祈り踊ります」
……
「世界樹を取り囲み、毎日のように祈り踊ります」
聞こえなかったわけじゃないんだ。
ちょっと理解ができなかっただけ。
えーっと……
とりあえず、世界樹はそっと見守るように。
祈り踊るのは世界樹にも蚕にも迷惑だから。
「そんなっ!」
そんなっ、じゃないんだ。
なんだろう?
この天使族たちの熱心さは?
世界樹を大事にしているとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
ティアやグランマリアたちには、そういった面はなかったのにな。
キアービットやマルビットたちも。
?
ここにいる一部だけなのかな?
いつのまにかやってきたグランマリアが、強く頷いていた。
「天使族で信奉される宗教みたいなものですので」
そうか。
ならば放置は愚策だな。
禁止も危険。
だが、祈り踊ることを許すのは迷惑。
……
よし、決めた。
世界樹を大事に思う天使族に、大切な仕事を与えよう。
「仕事……ですか?」
ああ。
だが、悪い話じゃないと思うぞ。
俺は天使族たちを引きつれ、村の北にある花畑……の横にある世界樹の畑に案内した。
ここの世界樹たちは成長が遅く、苗木から少し大きくなった程度。
だが、数がある。
ここの世話をしてもらいたい。
これまで、この畑の世話は獣人族の女の子たちが担当し、クロの子供たちやザブトンの子供たちが様子を見ている。
ただ、世界樹は手間いらずなうえ、益虫はついても害虫はつかないので不人気だった。
しかし、世界樹を信奉するなら喜んで世話をしてくれるだろう。
どうだこの名采配!
……ん?
あれ?
案内した天使族たちから反応がない?
瞳から光りが消えてる?
どうした?
俺は一緒に移動していたグランマリアに助けを求めた。
「えーっと、唯一神だと思っていたら、その神に兄弟がいっぱいいたのを知った……という感じでしょうか」
なるほど。
よくわからん。
「まあ、お任せください」
グランマリアはそう言って、パンッと手を叩いた。
「各自、お世話したい世界樹を選んでください。
先着順です。
ここには多くの世界樹がありますが、貴女たちよりも数は少ないですよね」
グランマリアが先着順と言ったあたりで、反応のなかった天使族の瞳に光りが戻り……
グランマリアが数は少ないと言ったあたりで、走り出した。
えーっと、殴り合わないように。
世界樹の前だからな。
畑に線を書いて縄張りを主張するんじゃない。
よし、名札。
世界樹に名札をつけるように。
あと、一本の世界樹を複数人で世話してもいいから。
話し合って決めるように。
全ての世界樹を大事にだぞ。
そのうえで、自分が担当する世界樹を大事に。
それを忘れちゃ駄目。
つまり?
こっちが大きいとか、こっちのほうが葉が多いとか争わないってことだ。
わけがわからないという顔をするんじゃない。
「信者を分断し、争わせて叩く。
見事な策です」
いや、褒めてくれるけどやったのはグランマリアだよね?
あと、俺は別段、誰がなにを信仰してもかまわない。
周囲に迷惑をかけなければな。
「コーリン教の教えですね。
あれは素晴らしい」
だな。
まあ、ここは村から離れた場所だから、祈り踊られても被害は少ないだろう。
ただ、三十人に勝手に仕事を与えてしまったわけだから、マルビットたちに謝らないと駄目かな?
「謝る必要はないですが、報告はしておいたほうがいいかと」
そうなのか?
「ええ、彼女たちにも村の警備の仕事はさせますから。
世界樹のお世話といえど、ずっと張り付いている必要はありませんしね」
……そうだな。
よろしく頼む。
感想、いいね、誤字修正、ありがとうございます。
これからも頑張ります。




