同行者を探す
朝。
顔を洗い、着替える。
起きてからそれなりに音を立てて動いたと思うけど、クロとユキは気にせずに寝ている。
まあ、わざわざ起こすこともないか。
部屋のコタツの中には……ザブトンの子供たちが数十匹。
こっちは起きているけど、もう少し温まってから活動したいらしい。
ああ、無理するな。
そのまま温まっていていいぞ。
俺?
俺はいつもの、屋敷の中の見回りだ。
ありがとう、頑張るよ。
屋敷の中の見回りは、問題なく終わった。
まあ、問題があったことはないけどね。
油断はよくない。
それに、俺がこうやって見回らないと、挨拶できない者もでるしな。
屋敷に住む人も多くなった。
部屋に戻ると、部屋の前に不満気なクロとユキがいた。
清掃の邪魔だと、鬼人族メイドたちに起こされて追い出されたようだ。
そう怒るな。
朝に掃除が入るのはわかっているだろ?
ほら、朝食に行くぞ。
コタツの中にいたザブトンの子供たちは……廊下の梁の上から、挨拶してくれた。
追い出される前に部屋を出ていたようだ。
さすがだな。
お前たちも一緒に朝食に行こう。
ああ、遠慮するな。
賑やかな朝の食事だった。
名残惜しいが、席を立つ。
今日はこのあと、四村こと太陽城に行く予定だ。
クロとユキは一緒に……俺の部屋で寝なおすようだ。
ザブトンの子供たちは……それぞれ、仕事があるのね。
了解。
頑張ってね。
しかし、同行者がいないとなると……おっと、そこの酒スライム。
一緒に行くか?
うん、四村。
……
酒スライムは、俺に気を使いながらも同行を断った。
そうか、酒スライムは四村に行く理由がないもんなぁ。
四村にも酒はあるが、ある種の閉鎖環境なので生産量、消費量は厳密に計算されている。
さすがの酒スライムも、そんな場所で盗み飲みをするほど悪辣ではない。
まあ、だからと言って大樹の村での盗み飲みが許されるわけじゃないけどな。
ちゃんとお前の飲み分として、ほかの住人より多くの酒が定期的に渡されているだろ?
一応、ドワーフたちの造った酒の良し悪しを計る仕事をしているしな。
もらった酒より、盗み飲む酒?
そうかもしれないが……
もらった酒は、ほかのスライムたちに分けてる?
いや、たしかにお前以外のスライムたちには酒を渡していないが……
全てのスライムが飲むわけじゃないが、飲むスライムは存在すると。
そうか。
じゃあ、ちゃんと分配してやらないとな。
ん?
そのあたりは酒スライムがもらった酒でやるから、任せてほしい。
そうか。
わかった。
それなら任せたぞ。
量が足りない場合は、言ってくれ。
スライムたちは、村の衛生を守るために見えない場所で働いている。
酒が欲しいというなら、渡そうじゃないか。
だが、なんども言うが、それで盗み飲みが許されるわけじゃないぞ。
俺が許しても、アンたち鬼人族メイドが許さない。
うん、怖いんだ。
だから、ほどほどにな。
酒スライムが去っていくのを見送りながら、俺は同行者をどうしようかと悩む。
一人というか、万能船の船員がいるし、行き先も四村だから身内の場所。
同行者は必要かと聞かれると、いらないと答えるのだが、俺の奥さんたちは俺が単独で行動することにいい顔をしない。
ドースなどは、奥さんの顔色をうかがってどうすると言うが、ドース自身は奥さんの顔色をうかがっているので説得力はない。
それに、俺としては奥さんたちの顔色をうかがっているのではなく、心配させたくないだけだ。
なので同行者は必要だと結論。
ん?
空飛ぶ絨毯が、私がいるじゃないかとヒラヒラしていた。
……
その空飛ぶ絨毯には、ハクレンの娘であるヒミコがくっついていた。
どうしたんだ?
さっきまでヒミコをあやしていた?
寝たので置いてきたが、いつのまにかいたと?
空飛ぶ絨毯はゆっくりとヒミコを床に降ろし、距離を取ろうとするが……すぐに掴まれた。
生後、まだ一年経っていないのになかなかの握力のようだ。
いや、ドラゴンだからかな?
空飛ぶ絨毯が振りほどこうとしても、振りほどけない。
まあ、空飛ぶ絨毯もヒミコを怪我させないように、全力で逃れようとはしていないが。
「こんなところにいたのね」
ハクレンがヒカルを抱きながらやってきた。
ヒカルも空飛ぶ絨毯のところに行きたいのかジタバタしている。
ヒカルとヒミコは双子だ。
生まれたときはヒカルは目があけられないぐらい光っていたり、ヒミコはなにも見えないぐらいの闇に包まれていたが、現在はそういった様子はない。
コントロールできるようになったのかと思ったが、まだまだ未熟らしい。
なので、俺が近づくとヒカルは光るし、ヒミコは闇に包まれる。
まだまだ未熟だから。
けっして、俺が嫌われているわけではない。
親子のコミュニケーションの時間を増やそうとは思うけど。
「気にしなくて大丈夫。
照れているだけだから。
ヒミコ、連れてくね」
ハクレンはヒミコを抱きかかえ、部屋に戻っていった。
ヒミコの手はぎゅっと空飛ぶ絨毯の端を掴んで離さなかったので、空飛ぶ絨毯も一緒に。
空飛ぶ絨毯は、俺に同行できなくて申し訳ないと謝ってくれた。
いやいや、謝る必要なんてないんだぞ。
その気持ちだけで十分だ。
……
ただ、父親として娘に気に入られている空飛ぶ絨毯に、嫉妬の気持ちがあると言えば、ある。
俺も飛べるようになったら、ヒミコに気に入られるだろうか?
魔法の勉強も、頑張ってするようにしよう。
とりあえず、話を戻して同行者だ。
収穫後で、武闘会の前なので、俺以外の者はいろいろと忙しい。
クロとユキも今は寝ているが、昼になれば冬に備えての食料を確保するため、子供たちを引きつれて狩りに励む。
どうしようかなと思っていると、意外な者が立候補してくれた。
フェンリルたちだ。
最初のフェンリルは、クロの子供の一頭がどこかから拾ってきたんだったよな。
拾われた当初は子犬みたいでかわいかった。
そのフェンリルの世話を拾ってきたクロの子供がやっていて、いつのまにかフェンリルとそのクロの子供がパートナーになって、子だくさんになっていた。
いまではフェンリルたちは冬の防衛の要だ。
よしよし。
それじゃあ、一緒に行くか。
と言いたいが……
全員は無理だ。
数を絞ってくれ。
うん、数が多すぎるとちょっと……フェンリルは通常状態でも身体が大きいからな。
ああ、万能船に乗りたい希望者が多いのね。
わかったわかった。
それじゃあ、全員で行こうか。
ただ、四村で一緒に行動するのは数を絞るぞ。
わかったら、返事。
よし、いい返事だ。
最初のフェンリル クロの子供(兄貴)に拾われた子犬が大きくなり、母となった。
フェンリルたち クロの子供たちをパートナーに選び、村からあまり離れず、生活している。