村長の休日(ザブトンたちと頑張る)
屋敷には衣装室がある。
衣装を並べるだけでなく、衣装の制作もしている。
最初からその用途で作った部屋ではないが、ザブトンたちがそこで服を作り出したのでそうなった。
ちなみに、衣装を保管する部屋や倉庫の数は、昨年ぐらいにそれぞれ十を超えたので数えるのをやめた。
現在はどうなっていることやら。
話を戻して衣装室。
衣装室では、半畳ぐらいの大きさのザブトンの子供たちが衣装を作っている。
作っているのは冬の新作と、来年の行進用だろう。
俺が作った何体ものマネキンが、着飾られては脱がされ、また別の服で着飾られるを繰り返している。
その横で、俺はザブトンからの採寸を受けていた。
別段、体形が変わったとは思わないのだが、微妙な変化はあるらしい。
なので、季節ごとに採寸を受けている。
まあ、ザブトンの手際がいいので、手間ではない。
ザブトンに挨拶しに行ったついでにといった感じだ。
ん?
希望?
いつもどおり、地味なやつでお願い。
機能重視で。
派手なのは黙っていてもザブトンが作ってくれるからね。
わかっている。
ちゃんと村を出るときは、派手なのを着るようにしているから。
プギャル伯爵を探しに行ったときは、急ぎだったので地味な服で行ってしまったけど。
え?
いつでも着替えられるように、衣装部隊を作る?
必要ないと思うけど……たとえば、どんな部隊になるんだ?
ザブトンぐらいの大きさのザブトンの子供たちに、道具棚と衣装棚を背負って運ばせる?
いや、力は疑っていないから問題なく運べるだろうけど。
さらに、状況に合わせて衣服を作るザブトンの子供が同行?
状況にって……あー、冠婚葬祭ね。
たしかに状況を選ぶ。
ホストと服の基本色が被らないようにする必要も、たしかにある。
俺が作業中でも着替えられるように、着替えさせる係も用意する?
いや、さすがに作業中は無理じゃないか?
脱ぐのだって……あー、着ている服は切っちゃうのね。
でもって、完成した服もバラバラにして、俺に着せていくわけか。
そこまで面倒はかけられないから、ちゃんと自分で着替えるよ。
とりあえず、それが衣装部隊なんだな?
え?
まだ足りない?
指揮官にアラクネを起用?
ああ、たしかに指揮官がいないと困るか。
アラクネたちの指揮力の高さは、わかっている。
なにせ、大樹の村にあるダンジョンの転移門は、アラクネたちで守られているといっても過言ではない。
アラクネ単体でもそれなりに強いらしいが、それに驕らず、ダンジョン内にいるザブトンの子供たちとの連携を欠かさない。
ザブトンの子供たちだけでなく、ラミア族や巨人族たちとも連携することもある。
そのときの指揮は、大抵がアラクネだ。
まあ、発声ができて指示できるのがアラクネだけということもあるが……
少なくとも、俺よりは指揮できるだろう。
アラクネのアラコは、確実に。
ん?
ただ、いまいるアラクネのなかで、衣装部隊の指揮官を任せられるほどセンスがある者がいないと。
あー……まあ、アラクネたちは、戦闘向きだからな。
今後の成長に期待だな。
衣装部隊も、指揮できるアラクネが育ってからということで……
わかっている。
ちゃんと用意された服を着るよ。
うん、嘘じゃない。
ちゃんと着る。
最近は、派手な服でも俺が断らないギリギリのラインのデザインだからな。
……
あれ?
俺が慣れただけかな?
ま、まあ、派手な服も悪くない。
ザブトンたちが頑張って作ってくれたわけだしな。
俺は衣装室を出て、隣の部屋に向かう。
その部屋の中央では、拳大サイズのザブトンの子供たちが長い板の上に並んでいた。
長い板の短い辺に、一列で。
そして、その場に糸の先端をくっつけ、糸を伸ばしながら長い板の反対側の辺に向かって移動。
長い板に、拳大サイズのザブトンの子供たちの糸が綺麗に並んだ形になる。
そして、拳大サイズのザブトンの子供たちは糸を持ったまま、飛び跳ねる。
同時にではなく、半分だけ。
一匹置きに。
先頭から番号をつけて、奇数番号、偶数番号で交互に飛んでいる感じかな。
そして、飛んでいる糸のあいだをすばやく移動する一匹の拳大サイズのザブトンの子供。
このザブトンの子供も糸を出している。
この部屋のザブトンの子供たちがなにをやっているかというと、布を作っている。
そう、ザブトンの子供たちによる機織りだ。
なので、糸のあいだを移動するザブトンの子供が数回往復したら、動きを止めて糸を端に寄せるのだが、これは別のザブトンの子供たちがやっている。
見事な連係作業だ。
すごい早さで長い板一面に布が織られていく。
そして、そうなったら身体の大きい半畳サイズのザブトンの子供が長い板をひっくり返す。
今度は裏面だ。
列になっていた拳大サイズのザブトンの子供たちがまた糸を伸ばす。
これを繰り返し、長い布を織っていく。
いまはザブトンの子供たちの糸で布を織っているが、五村やシャシャートの街で仕入れた糸を使うこともある。
その場合も手法は一緒だ。
ただ、その場合は拳大サイズのザブトンの子供たちが、糸巻を持っているだけで。
おっと、作業に見惚れていてはいけない。
俺がこの部屋を訪れたのは、機織りの手伝いだ。
といっても、部屋の中央でやっている機織りに、俺の手伝いは必要ない。
俺の手伝いを必要としているのは、部屋の隅で機織りを練習しているザブトンの子供たちだ。
ザブトンの子供たちは総じて器用だが、努力もせずに器用なわけではない。
ちゃんと練習しているのだ。
とくに仲間と協力することは。
よーしよし。
頑張っているなー。
まだまだ上手くできない?
なに、すぐに上手くなるさ。
俺の手伝いなんて必要ないかもしれないが、協力させてくれ。
ああ、俺が打つ太鼓の音に合わせて、ジャンプするんだ。
おっと、全員が一斉に飛んじゃ駄目なのはわかっているだろ?
太鼓の真ん中を叩いたトンの音でジャンプする組と、縁を叩いたカッの音でジャンプする組に別れるように。
まだ列は作らなくていいから。
そうそう。
それじゃあ、いくぞー。
トン、カッ、トン、カッ、トン、カッ、トン、カッ……
おおっ、ちゃんとできているじゃないか。
それじゃあ、今度は列を作ってやってみようか。
トンの音でジャンプする組と、カッの音でジャンプする組で交互に列を作って……
うん、周囲に惑わされずにジャンプするんだぞ。
それじゃあ、いくぞー。
俺はザブトンの子供たちと一緒に機織りの練習をした。
……
山エルフよ。
ここで機織り機を持ってくるのは、違うと理解しているよね?
新機能とかそういう問題ではなく。
頑張っているザブトンの子供たちをみて、出せるのなら出してもいいぞ。
うん、わかってもらえて嬉しい。
その機織り機は、ゴロウン商会に持ち込んでおくよ。
休憩。
ザブトンやザブトンの子供たちも、無限に糸を出せるわけではない。
ちゃんと栄養を補給しなければ、しっかりした糸を出せないのだ。
よしよし。
わかっている。
ジャガイモを蒸かそう。
ああ、焼いたジャガイモも作ろう。
生がいいのは、そっちだ。
普段はジャガイモを齧りながら服を作っている一部のザブトンの子供たちも、俺がいればちゃんと休んで食事をとってくれる。
ならば、しっかりした料理を用意しないといけない。
イモ煮も作ろうか。
さすがに俺一人で調理するのは厳しいので、鬼人族メイドたちに協力を要請する。
量は多く作ろう。
料理を作っていれば、ここにいないザブトンの子供たちもやってくるだろうからな。
ザブトンの子供たちだけでなく、クロの子供たちも来るかもしれない。
「村長」
鬼人族メイドたちが俺に声をかけたあと、視線を横に動かした。
俺がその視線を追うと……俺の子供たちがいた。
どうやら、今日の勉強の時間は終わったようだ。
ザブトン、俺の子供たちも混ざっていいかな?
ザブトンたちは、歓迎のポーズをとってくれた。
ははは。
ありがとう。
たくさん、作るからな。
山エルフ、すまないが食糧庫からジャガイモを取ってきてもらえるか。
ここにある分では足りなさそうだからな。
ああ、大丈夫だ。
お前たちの分は、最初っから数に入っている。
機織り機はあれだったが、お前たちも頑張っているからな。
のけ者になんかしないさ。
褒めなくていいから、追加分を頼んだぞ。
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
助かってます。