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秋の文官娘


 こんにちは。


 文官娘衆の一人です。


 名前?


 お気になさらずに。



 さて、村は秋も終わりに近づいてきました。


 秋の収穫も佳境かきょうを迎え、私たち文官娘衆の仕事量が増え続けています。


 まあ、収穫時期以外はのんびりさせてもらっているので、文句は言えません。


 頑張ります。


 っと、倉庫の記録と内容にズレがありますね。


 納める倉庫を間違えたのだと思いますが、勝手に判断して修正したりはしません。


 まずはほかの者に報告し、確認です。


 私がミスと思っても、なにかの事情でこの倉庫に納めているだけの可能性がありますからね。


 まあ、記録のズレがあるので、なにかしらのミスはあるのでしょうけど。


 ……


 私の予想通り、納める倉庫を間違えたようです。


 忙しいですから、仕方がありません。


 移動させましょう。


 おや、ザブトンさんのお子さまたち。


 手伝ってくれるのですか?


 ありがとうございます。


 ですが、無理をしてはいけませんよ。


 一つの箱を、複数で運ぶようにしてください。


 その小さな身体で、私たちを運べるぐらい力持ちなのは知っていますが、見ているほうはハラハラしてしまうものです。


 あ、はい、二つ向こうの二十二番の倉庫にお願いします。


 入ってすぐの右の棚です。


 ええ、あとで加工する作物の収納場所です。


 そうです。


 ドワーフのみなさんに渡して、お酒になる予定です。


 完成が楽しみですよねー。


 お酒より、そのまま食べるほうが好き?


 そうでしたね。


 お手伝いしてもらったお礼に、あとでいくつかお渡ししましょう。


 大丈夫です。


 調整用のストックがありますから。


 あれはいつもひと箱分ぐらいあまるので、貴方たちに渡しても大丈夫なのです。


 ええ、それぐらいの裁量権はあるのです。


 では、箱の移動をお願いします。


 私はほかにもミスがないかチェックしますので。



 ふう。


 私は村にある倉庫を全て確認し、収穫物の数のチェックを終えました。


 大きなミスは、収納ミスの一件だけでした。


 ありがたい話です。


 ただ、あの収納ミスは再発防止のために、どうして間違えたかを検証しなければいけません。


 うっかりミスはありますが、なぜうっかりしたのかを考えなければ成長しませんからね。


 それに、そういった検証をして対策した結果が、番号がつけられた倉庫であり、配置が同じになった倉庫の中の棚であり、作物ごとにサイズ調整された箱なのです。


 ええ、毎年、少しずつですがミスは減り、作業はやりやすくなっています。


 来年はさらによくなっているでしょう。


 期待です。



 トラブル発生です。


 山エルフのみなさまが作物の加工用工作機械を作って、作業効率をすごく上昇させたのですが、調子に乗って加工しなくていい分まで加工してしまったそうです。


「加工って、どんな加工?」


「トウモロコシの皮をき、つぶしんから離す加工です」


「ああ、粒だけにしてびんに詰めているあれ」


「そうです。

 瓶で二百本用意する予定が、三百本分の加工をしてしまい……」


「瓶詰めなら保存が効くのが幸いね」


「いえ、瓶が七十本分ほど不足して、詰められていない分があります」


「ええっ!

 どうするの?」


「トウモロコシの粒は、そのままでもそれなりに持ちますが……瓶に詰められなかった分は、そのままドワーフのみなさまにお渡しするしかないかと」


「なるほど。

 トウモロコシをお酒にするにも、芯から外さなきゃ駄目だもんね。

 それでいいんじゃない?

 ドワーフのみなさんからは、前々から量を増やしてほしいとお願いされていたわけですし」


「加工してしまったトウモロコシはそれでいいとして、加工前の状態で外に出す予定が狂ってしまって……」


「えーと、たしかあの瓶一本に、トウモロコシ十本分の粒が入っているんだっけ?

 つまり、瓶七十本分だから……トウモロコシ七百本が不足?」


「いえ、予定外に詰めた瓶三十本分も数えてください」


「あ、そうか。

 多く加工しちゃった分……瓶百本分だから、トウモロコシ千本の不足ね」


「そうなります。

 優先順位の低いところには、納入をお断りしなければいけません」


「優先順位の低いところ?

 どこになるの?」


「ドラゴン族のみなさまへ提供する分が減ります」


「……えっと」


「優先順位は村長が決めていますので、大丈夫です」


「よ、よかった……で、いいのかな?」


「よかったでかまいません。

 ただ、ミスをした山エルフたちへの罰をどうするべきかと」


「罰?

 調子に乗ったのはいけませんが、罰を与えられるほどですか?」


「村への損害を出しているのですから、罰は当然かと」


「仕事をした結果のミスですから、厳重注意あたりでいいのでは?」


「甘いです」


「ですが、村長に報告してもそうなるかと」


「む……たしかに。

 村長なら笑って許しそうです」


「ですよねー。

 そこが村長のよさです」


「わかりました。

 村長に報告したのち、私たちから今回の件に関わった山エルフたちに厳重注意ということで」


「そうしましょう」


 対処可能なトラブルのようで、よかったです。


 それと、トウモロコシの加工用工作機械は需要がありそうです。


 山エルフさんたちにお願いして数台、用意してもらいましょう。


 ああ、そうそう。


 調子に乗ったミスですが、調子に乗らないためにはどうすればよかったかを考えなければいけませんね。


 失敗はかまいませんが、同じ失敗は避けるべきです。



 同僚が村長にトウモロコシの一件を報告した結果、予想通りに笑って許していました。


 私はそんな村長に、同じミスをしないための対策を報告します。


 基本方針は、山エルフの近くに監督者を配置することですが……


「待て待て。

 今回の一件、山エルフたちが調子に乗ったのが原因となっているが、実際の原因は加工するトウモロコシの近くに、加工しないトウモロコシを置いていたことだろ?

 それとも、山エルフたちはわざわざ別の場所にあるトウモロコシを運んで加工したのか?」


 していませんね。


「加工用と非加工用を、誰が見てもわかるように対策をするほうが効果があると思う」


 なるほど。


 承知しました。


 では、そのように対策します。


 とりあえずは、加工用、非加工用の看板を作るようにしましょうか。


 今年は無理ですが、来年からは保管場所を離すことにもしましょう。


「そうだな。

 任せても?」


 はい、お任せください。


 私の返事に、村長は満足そうに頷いてくれました。


 っと、村長の左右に控えていたクロさんとユキさんが吠えて、村長を呼びます。


 村長はクロさんとユキさんと散歩中だったのです。


 すみません、お邪魔しました。


「いやいや、仕事優先。

 こっちの仕事が終わったからって、のんびりさせてもらっているんだから」


 あはは。


 実は少し前、村長は自分の作業が終わったからと、私たちの手伝いを申し出てくれていました。


 ですが、これは私の、いえ、私たちの仕事です。


 村長が忙しいときにお手伝いできるわけでもありませんし、ここは私たちの活躍の場ですとお手伝いの申し出を断っています。


 それなのに、こうして相談事を持ち込んではいけませんよねー。


 まあ、だからと勝手に処理するなど言語道断なのですが。


 私は散歩を再開する村長を見送り……さらにそのあとを追うクロさんの子供たちや、ザブトンさんの子供たちを見送りました。


 あ、収納ミスした箱を運ぶ手伝いをしてくれたザブトンさんのお子さまたちが足を振って挨拶してくれたので、私も手を振って挨拶します。



 さて。


 反省は反省として。


 残っている仕事を頑張りましょう。


 今日の頑張りが、明日を楽にしてくれるのです。


 まあ、収穫関連が終われば、武闘会になりますが。


 それらが終わったあとは、のんびりできますからね。


 希望を持って、頑張ります。


 願わくば、村長の負担になるトラブルが起きませんように。






ラスティ「あれ? トウモロコシはないの? 楽しみにしているのだけど……ハクレンお姉さま?」

ハクレン「わ、私が全部食べたわけじゃないわよ」

山エルフ「…………………………………………すみませんでしたぁっ!」

村長「いやいや、仕事をした結果のミスだから。許してやって」



ドライム「トウモロコシだったから許すが、これがダイコンであったなら……」

山エルフA「ダイコンの洗浄と葉を落とす工作機械を設計しております」

山エルフB「さらには自動で皮を剥き、決まったサイズにカットする機能も追加予定です」

ドライム「……予算はこちらで用意しよう。急ぎ、製品を持ってくるように」


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― 新着の感想 ―
大根菜の味噌汁とか大根菜を刻んで御飯と一緒に炒めて菜飯にすると美味しいですよね。 大根菜の漬物もシャキシャキして大根菜特有のエグミが有るけど好きです。 店売りだと葉を落としてるのが殆どなので、新鮮な大…
[一言] 今回の話で気になって調べたら大根焼酎なんてものがあるのを知った、作ってもドライムに飲み干されそうだけど
[一言] 山エルフ達と妖精女王の立ち位置が好きです。
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