夕寝
俺は村に戻ってきた。
時間は昼過ぎだが、昨日の夜は寝ていないので自室のベッドで横になる。
神様からもらった【健康な肉体】があるからと、それに頼って無茶な生活をするのもよくないからな。
希望としては夕食のタイミングで起きて、食事のあとにまた寝たい。
まあ、夕食で起きられず、思いっきり寝て生活リズムが狂ってしまうかもしれないが……そのときはそのときだろう。
しかし、帰りが行進みたいになったのは驚いた。
魔王たちが見送るって言うからだ。
そういえば魔王の人気は凄かったな。
歩くだけであんなにも声が上がるなんて。
さすがは魔王だな。
魔王の前を行く俺は、何者と思われたのだろうか。
誘導員あたりかな?
誘導員は空飛ぶ絨毯に乗っているだろうか?
いや、乗っていても大丈夫だろう。
うん。
ああ、そうだ。
ドースとドライムがドラゴン姿で行進に参加すると言ってきたので断ったら拗ねられた。
仕方がないだろう。
シャシャートの街の道幅はドラゴンが移動できるほど広くないのだから。
行進参加の代案として、転移門の左右で待機するというミヨの意見が採用されたが、ドースたちはそれでよかったのだろうか?
機嫌は直っていたから、よかったのだろう。
ただ、急にドラゴンが現れたらシャシャートの街の住人が驚くかなと思ったけど、静かなものだった。
ドライムの巣が近くにあるし、いまさらドラゴン程度では驚かないということか。
肝の太さが羨ましい。
あー、そういえば一つ失敗があった。
ゴロウン商会。
ゴロウン商会はシャシャートの街が本拠地なのに、どうして連絡をくれなかったのかとマイケルさんに言われてしまった。
人探しをするにしても、行進をするにしても連絡がほしかったと。
そう言われてもなぁ。
人探しに関しては、手伝いで行った俺が連絡するわけにはいかない。
プギャル伯爵の関係者かイフルス代官からの連絡や要請が正しいだろう。
行進に関しては、俺はする気はなかった。
自然発生的なものだ。
だから、連絡と言われても困る。
まあ、シャシャートの街に顔を出したのだから、マイケルさんに連絡しておいてもよかったかもしれない。
マイケルさんが俺がいることを知ってやってきたのは昼食時だったので、あまり話せなかった。
ただ、帰りの行進にはしっかりと参加していた。
参加できなかったら危なかったと言っていたが、どういうことだろう?
参加しなくても、危険はないと思うが?
村に戻ってからは、天使族たちの武装姿を見た。
見ないわけにはいかなかった。
天使族のみんなは意気揚々と完全武装してシャシャートの街に向かおうとしたが、魔王国の国民感情を考えて止められた。
数百年前まで普通に戦争していたらしいし、魔族は長生きしている者も多いからな。
止めたのは、いい判断だ。
武装姿を見た俺も止める。
見てるだけで、殺気が伝わる感じだったからな。
無用なトラブルを呼び込むのは避けたい。
そして、普段、武装しているグランマリア、クーデル、コローネの格好はかなり控え目だったんだなぁと改めて思った。
なにせ武装は全て黄金でできていた。
本来、金属としては弱い部類の黄金だけど、そんな現実を払拭する神秘性があった。
天使族が神人族を自称していたときのものらしい。
よくみれば、天使族の翼にも黄金が仕込まれていた。
これは飾り……だけではなく、実用面もあると。
魔法防御用なのね。
へー。
服も普段とは違った。
黄金の装備を引き立てるように、白と黒の服装。
魔術的な模様が入っており、この服だけでもそれなりの防御力を誇るらしい。
この装備の天使族が空を飛んで敵としてやってくると考えると、なかなか恐怖の対象だな。
味方なら頼もしいだろうけど。
ただ、疑問だったのは、ティアの二人目の娘であるオーロラも似たような武装をしていたこと。
小さい身体にちゃんとフィットしている。
……いつの間に作ったの?
いや、似合っているけど。
ああ、作ったのではなく、ティアが小さかったときのか。
なるほど。
重くはないか?
よしよし。
似合っているぞ。
正式なのは、成人してから?
ティゼルの分も含めて、用意したい?
天使族の伝統装備とか言われると、断れないな。
もちろん、グランマリアの娘であるローゼマリア、クーデルの娘のララーデル、コローネの娘のトルマーネの分も作ってかまわない。
そうか。
そういった種族的に必要なものがあったら、用意してあげないとな。
そのあたり、ルーたちにまかせっきりになっていた。
反省。
夕食前に、ちゃんと起きることができた。
一人で寝たはずだったが、ベッドにはクロとユキが潜り込んでいた。
クロもユキも仰向けだな。
不用心だぞ。
クロとユキの額の角にはちゃんとカバーがされている。
ベッドに潜り込む前にしたんだろうけど……誰にやってもらったんだろう?
ザブトンの子供たちか。
部屋の梁には、ザブトンの子供たちが並んでいた。
うん、おはよう。
まあ、夕食後にまた寝るけど。
わかっている?
挨拶だけ?
そうか。
シャシャートの街に一緒に行ったメンバー以外は、今日は挨拶もしていなかったか。
すまなかった。
明日は、ザブトンの子供たちと遊ぼう。
そう答えると、いつのまに起きたのかクロとユキが俺を見つめていた。
わかっている。
お前たちとも遊ぶさ。
村に戻ってきた村長です。