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マルーラで散会 その二

ちょっと長くなったので、二話に分けての連続投稿です。


 昼過ぎ。


 無水調理のダイコンカレーが完成した。


 美味しい。


 ただ、作業時間と材料費を考えると、一般レギュラー販売は難しいようだ。


「食材を切る手間はありますが、調理自体は難しくないのですけどねぇ」


 マルコスは残念そうだ。


「なに、特別なカレーとして事前注文のみの販売にすればいい。

 一皿で銀貨一枚……は、言いすぎとしても、大銅貨二十枚ぐらいで販売すれば利はでるのだろ?」


「大銅貨二十枚ならば……なんとか。

 しかし、売れますかね?」


「この味ならば大丈夫だ。

 自信を持て。

 だが、不安であるなら販売する期間を限定にして希少性をあおり、インパクトのある商品名を付けよ」


「インパクトのある商品名ですか?」


「うむ。

 そうだな……“王太子おうたいしのカレー”というのはどうだ?

“ダイコンカレー”よりもインパクトがあるだろう」


「た、たしかに。

 参考にさせてもらいます!」


 ドライムがそうマルコスと会話していると、ドースが驚いていた。


「ドライムよ。

 いつのまに物の値段に……いや、商売に詳しくなったのだ」


「ふっ。

 父よ、いつまでも子供ではありませんよ」


 俺は知っている。


 ダイコンの販路や価格にも口を出したくて勉強したことを。


 短い期間でここまで成長したのは、さすがドラゴンということだろう。


 もしかしたら、俺よりも詳しくなっているかもしれない。


 俺はゴロウン商会や文官娘衆に任せている部分が多いからなぁ。



 さて、カレーを食べたことだし本題に。


 まず、この時間までマルーラにいたのは、店の営業を手伝っていたからではなく、魔王とイフルス代官、それとミヨのもとに報告が次々とやってきたから。


 帰るタイミングを逃したとも言う。


 開店時間はとっくに過ぎているのでマルーラの客が次々とやってきているが、俺たちがいるのは貴族とか偉い人たち用の隔離場所なので問題ない。


 本題その一、プギャル伯爵。


 まだ気絶中だが、王都にあるプギャル伯爵の屋敷に戻った。


 そのまま当面は安静に過ごすらしい。


 お大事に。


 そのプギャル伯爵だが、ベトンさんやプラーダ、エルメの話ではかなり戦えたらしい。


 見た目からは想像できないし、聞いた話からは進んで戦いに身を置くタイプではなさそうなのだけどなぁ。


 どうしてエルメに同行したのか、そのあたりを聞きたかったのだけど、まだちょっと時間がかかりそうだ。


「ああ、そのあたりは魔族の本能というか貴族の使命みたいなところがあるからだ」


 俺の疑問に、魔王が答えてくれた。


「現在の魔王国の貴族は、遥か昔にあった悪魔族との戦いで活躍した者の血縁の家が大半でな」


 遥か昔とは二千年ぐらい前だそうだ。


「魔王国の貴族は悪魔族の横暴を防ぐために存在すると言ってはばからん者は多い。

 プギャル伯爵もその一人だ。

 相手が悪魔族だと聞かされれば、出陣するであろう」


 そんなものか。


「うむ。

 まあ、まったく気にせん者もおるけどな。

 あと、プギャル伯爵は個人戦闘であるなら、それなりに戦える。

 私が魔王になる前に一度やりあったことがあるが、やつの格闘術には一目置いておる」


 へー。


「もちろんだが、私が勝ったからな」


 疑ってないよ。


 しかし、悪魔族と戦う力があるから飛び出したとして、それを悪魔族エルメから誘われているのはいいのだろうか?


「現在の悪魔族が大人しいことも、当然ながら知っている。

 危険な悪魔族をなんとかしてくれと泣きつかれたのではないか?」


 なるほどー。



 本題その二、ベトンさんの罰。


 魔王がベトンさんに与える罰は、労働。


 どんな労働になるのかなと思っていたが、シャシャートの街で行われる野球の観客席での売り子だそうだ。


 ……


 それを罰にすると、ちゃんと労働で売り子をやっている人が怒らないか?


 大丈夫?


 なぜ?


「あの者は普段から売り子をやっているからな」


 え?


 ジョローの商隊は、シャシャートの街で滞在するにあたり、メンバーの個別の資金稼ぎを認めていた。


 宿代や食事代などは商隊が出すが、酒などの嗜好品は自腹だそうだ。


 また、食事代に関しても、最低限であって、毎食マルーラで食べるとかは不可能。


 五村ごのむらに移動して、ラーメン通りを楽しむなど論外。


 シャシャートの街や五村で楽しもうと思うと、金がかかる。


 なので、メンバーは各地で働いている。


 そして、ベトンさんは野球の観客席での売り子をやっていたと。


「当面、賃金は半額でやることになった。

 無料だと、労働意欲が下がってろくなことにはならんし、生活に困るであろうからな。

 減らした賃金は、シャシャートの街に納められることになる」


 魔王はイフルス代官と、どれぐらいの金額でこの罰が終わるのかを相談した。


「野球が開催される頻度が現状のままであるなら、五年ほどになるだろう」


 五年。


 長い……のか?


「毎日、野球をやっているわけではないからな。

 五日に一度と考えれば、妥当な期間だと思うぞ」


 そう言われるとそうか。


 俺が頷いていると、ミヨが参加してきた。


「ただ、それだけでは正直な話、罰が甘いと思うのです」


 罰が甘いか。


「ええ。

 なので、追加の罰を考えました」


 ミヨが持っていたのは、売り子の衣装。


 ずいぶんとかわいらしいデザインだが……


「前々から、売り子の衣装が検討されておりまして、シャシャートの街の服屋に依頼した試作品です。

 ただ、悪くはないのですが、年配の方からちょっと厳しいとの意見を頂き、没となってしまったのです。

 だからと言って、処分するのはもったいないですよね!」


 つまり、それをベトンさんに着せて、売り子をしてもらうと。


 ま、まあ、それで罰を与えるほうが納得するなら問題ないだろう。


 たぶん。



 本題その三、グッチとベトンさんの関係


 用事を終わらせ、食事に戻ってきたプラーダに聞いた。


「方針の違いで喧嘩してたんですよー」


 方針?


「ドラゴン族から臣従の話がありまして、それに従うか、逆らうかで」


 えーっと……


「グッチさまは従うほうの臣従派の代表で、ベトンは反対派の代表だったんです」


 へ、へー。


「まあ、臣従の話が、悪魔族の未来をうれいて出された提案なので、臣従派のグッチさまが正解なのですけどね」


 つまり、グッチが臣従派を従え、ベトンさんが反対派を従えて喧嘩したと。


「あー、ちょっと違います」


 え?


「グッチさまとグッチさまの部下が一団となり、反対する悪魔族を個々に殴り倒していったんです」


 ……


「反対派は、基本的に誰にも従いたくない、指示されたくないってタイプの者ばかりでしたので、集団でまとまるということはなかったので。

 合理的な行動かと」


 悪魔族の名に相応しいなぁ。


「ただ、ベトンは手強く、グッチさまの一団と拮抗きっこうしたのですが……私が横からゴンッと」


 ……あれ?


 プラーダは一団の中にいなかったの?


「あのときの私は従っても逆らってもかまわない中立派だったので。

 横から殴ったのは、ベトンがちょっと過激なことを言ってたので、放置はできないなーと。

 あ、私が横から殴ったおかげで、グッチさまはベトンに止めを刺せず、封印になったのです。

 これは感謝されるべき事案だと思います」


 ま、まあ、そういったことは本人同士で話し合ってくれ。


 ん?


 その話だと、ベトンさんはグッチよりもプラーダに恨みを持たないか?


「持ってるでしょうねー。

 と、思っていたのですが、向こうは私を引き入れようとしましたからねー。

 昔の恨みより、いまに大事なものがあるのでしょう。

 ちょっとうらやましいです」


 ベトンさんの大事なもの。


 ジョローの商隊か。


「いつ封印から解かれたかは知りませんが、力が戻っていませんでした。

 魔法陣を使って必要な力を戻したいという気持ちもわからなくはないのですが……そのあたりの感覚は、昔のままですよねー」


 指導できるなら、指導しておいてくれるかな。


「報酬は出ますか?」


 抜け目がないな。


 まあ、ちゃんと渡すよ。


「ありがとうございます。

 できる範囲で頑張ります」


 よろしく。



 こんな感じで情報収集をしていたら、ガルフとダガが俺の護衛としてマルーラにやってきた。


 違う?


 迎えに来た?


 帰ってくるのが遅い?


 す、すまない。


 ティアたち天使族が、俺に見せるんだと武装したまま待機している?


 クロとユキも?


 アラクネのアラコも?


 えーっと……


 俺は空飛ぶ絨毯をみた。


 広がって、乗れとアピールしている。


 目立つのは困るんだけどなぁ。


 仕方がない。


 ルー、アンたちをまとめてくれ。


 ドース、ドライム、村に帰ろう。


 俺は魔王とイフルス代官に挨拶し、村に戻った。





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― 新着の感想 ―
プギャル伯爵≒サモ・ハン・キンポー
[気になる点] 最初の会話 村長とマルコスだと思ったら ドライムだったんですか 冒頭に二人が会話していると付け加えたほうがいいと思います
[一言] ベトン「このかわいらしい衣装のおかげでしょう。 売上が大きく伸びて、以前と賃金が変わりません」
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