マルーラで散会 その一
マルコス マルーラの店長代理。一村の住人。人間。
夜が明けた。
徹夜になってしまったな。
しかし、ビッグルーフ・シャシャートのマルーラで行われている魔王とミヨ、イフルス代官の話し合いは、まだ終わっていない。
俺としては先に帰ることも考えたが、どうせあとで報告を受けるのだったらと、この場で待機することになった。
聞きたいこともあるしね。
ただ、全員がそれにつき合えるわけではない。
まず、グッチ、プラーダ、エルメは個々に用事があると足早に去った。
用があるなら遠慮なく呼び出してかまわないと言われたけど……
どうやって呼び出せばいいんだろう?
昔やったグーロンデの鱗で作った鏡で呼び出せばいいのかな?
二度と作らないようにと強く言われたけど。
まあ、連絡はドースかドライムに任せよう。
ベトンさんは迎えに来たジョローの商隊のメンバーたちと一緒に、事情説明のためにシャシャートの街の行政施設……イフルス代官の屋敷に向かう。
イフルス代官はここに残っているけど、行く意味ってあるのかな?
イフルス代官には事情説明と謝罪をしたんだろ?
ああ、実務担当者がいるのね。
しかし、実務担当者だって、こんな時間から仕事をしてくれるとは思えないが……
玄関前で待つのか。
まあ、ちょっとでも早く説明して、心証をよくしなければいけないのはわかるが、やりすぎると逆効果だぞ。
無理しないように。
イフルス代官とミヨが、木の板になにか書いてベトンさんに渡していた。
魔王からの罰もあるし、さらになにかとはならないと思いたい。
アルフレート、ウルザ、ティゼルは学園に戻った。
授業があるからな。
当然だ。
学園が休みになったら村に戻ってくる予定なので、そのときにまたゆっくりと話をしよう。
子供たちはビーゼルが転移魔法で送ってくれた。
疲れているのに、申し訳ない。
ありがとう。
そのビーゼルが転移魔法で戻って来ると、今度はランダン、グラッツ、ホウの三人と一緒に転移魔法で王都の王城に帰った。
お仕事、頑張ってください。
でも、魔王を置いていっていいのかな?
まあ、転移門があるから一人でも戻れるだろうけど。
続いてブロン。
このあとに出迎えの仕事があるらしく、ちょっとでも寝たいと宿に向かうことになった。
遅くまでつき合わせて申し訳ない。
あと、ハイエルフの半数とリザードマン全員が転移門を使って村に戻った。
それなりの人数が村から出てきたからな。
今日の仕事を考えると、早めに戻って休んでもらいたい。
……
休むんだぞ。
働くのはあとでいいからな。
村に戻ったわけではないけど、こちらにつき合っていないのはドース、ドライム、それとアンたち鬼人族。
彼らはエプロンを装備し、マルーラの設備を使って料理をしている。
作っているのは朝食ではない。
俺たちはシャシャートの街に来る前に食べているからな。
場所を借りた迷惑料的なものだろう。
ああ、もちろん場所を借りる前にちゃんと店長代理であるマルコスの許可を取っている。
というか、マルコスも一緒に料理を作っているけどいいのかな?
「勉強になりますので」
あ、作っているのは新作のカレーなのね。
なるほど。
ちなみに作っている新作カレーは、ダイコンをメイン具材にしたダイコンカレー。
おっと、ただダイコンを入れただけのカレーではないぞ。
水を使わずに調理された、無水カレーだ。
水を使わないので水分を野菜に求めるのだが、そのためにメイン具材のダイコンが崩れてしまう。
メインとダイコンを別々に調理してしまうと、ダイコンに味が染みない。
これはアンたちが主導しているからできる、技術のいる料理だな。
ドライム、アンを「師匠」と呼ぶのはどうなのかな?
ドースが変な顔をしているぞ。
あと、無水調理って時間がかかるよな?
いや、かまわないけど君たちも徹夜だからね。
ドースやドライムはドラゴンなので、一日や二日の徹夜は大丈夫だろうけど、アンたち鬼人族メイドは……あ、アンたちも大丈夫なのね。
頑張れば七日はいける?
あー、頑張らないように。
徹夜した俺が言うことではないが、夜はちゃんと寝よう。
残りは俺の護衛としてそばにいる。
ハイエルフたちは隠れているので、俺とルーが二人でいるように見える。
まるでデートみたいだな。
……
空飛ぶ絨毯よ。
俺とルーのあいだに入ってくるのはどうなのかな?
ルーの顔が見えないんだけど。
デートの邪魔はよくないぞ。
ルーが武装しているからデートに見えない?
俺が尋問されているように見える?
ははははは。
ルー、従業員の控室を借りて着替えてくるように。
あと、鬼人族メイドたちの日本刀らしき剣も持って行ってあげて。
料理の邪魔だからって机の上に置かれているけど、不用心だから。