シャシャートの街に帰る
ベトンさんのところに行くと、ベトンさんが片膝をついて俺を迎えた。
ん?
ビーゼルの真似かな?
「これまでの無礼な発言の数々、申し訳ございません」
……
俺はベトンさんの周囲にいるクロの子供たちと、ザブトンの子供たちを見る。
クロの子供たちとザブトンの子供たちは、首や足を振って脅してないとアピール。
そうか、よかった。
まあ、お前たちがそんなことをするとは思わない。
となると……
魔王たち?
もしくは、ルーたち?
素直にドースが指摘した?
意外なところで、ブロンかプラーダ?
うーん。
誰がベトンさんの態度を変えさせたのだろうか?
「いえ、雰囲気で察したのですが……違いました?」
うん、最初のがよかった。
「そ、そうですか……えっと……すみません」
いや、いいんだ。
それで、話とは?
「は、はい。
改めて、シャシャートの街での騒動の謝罪を」
それはまあ、種族による常識の違いというやつだろ?
今後は周囲に迷惑のかからない方法を選んでもらえると助かる。
あと、謝罪は俺にじゃなくて……えっと、誰だろ?
魔王には謝ったんだよね?
「はい。
罰も決まっています」
罰。
ああそうか、身を守るためや、仲間を守るためでも、街中に魔法陣を仕掛けたことに関しては罰を受けるべきだろう。
さすが魔王。
「このあと、シャシャートの街の代官のところに事情説明と謝罪に行くことになりましたので、その前に村長にと」
なるほど。
ちなみに、罰の内容は?
「一定期間の労働です」
ふむ。
正直、それが妥当かどうかわからない。
なので魔王を信じよう。
それじゃあ、魔王の指示通りに。
俺への謝罪は不要……だと、まずいのか。
ブロンが受け取ってとアピールしている。
仕方がない。
謝罪は受け取ったよ。
プギャル伯爵は発見できた。
トラブルの原因も判明。
これで解決かな?
え?
まだある?
なんだろ?
クロの子供たちが移動したことによる、魔獣や魔物の移動?
ああ、縄張りが崩れちゃうのか。
そこまでは考えてなかったなぁ。
「そのあたりは大丈夫だ」
ルーたちへの話が終わったのか、ドースがやってきた。
「インフェルノウルフがどうこうしようと、それ以上の存在がいるからな」
それ以上の存在?
ドースの視線は、ドライムに向けられた。
……
あ、なるほど。
ドラゴンの巣が近くにあるのだから、クロの子供たちがちょっと動いた程度では問題ないということか。
「うむ。
そういうことだ」
よかった。
一安心。
帰るか。
そう思ったのだけど、クロの子供たちがドライムの作ったダイコン料理を見ていた。
ドライムのダイコン料理がまだ残っている。
食べていない人もいる。
しかし、人数と食材の残りを考えると……
アンたちが調理器具と食材を持ってきていた。
「当然の備えです」
その恰好でと無粋なことは言わない。
それじゃあ……
もう少し料理して、食べてから帰るか!
俺の決定に、誰も反対しなかった。
夜明け前。
シャシャートの街に向かうことにする。
その前に、クロの子供たちやザブトンの子供たちは騒ぎになるので、ビーゼルの転移魔法で五村のヨウコ屋敷に送ってもらった。
クロの子供たちやザブトンの子供たちは俺から離れるのを嫌がったが、あとでしっかりと遊んでやると約束したら、納得してくれた。
ドースやルーたちもついでに転移魔法で移動をと思ったけど、ビーゼルの負担を考えて諦める。
まあ、一緒に行動してなにも問題は……
魔王たちが一緒なうえにルーたちの派手な恰好のせいで、シャシャートの街に移動する俺たちは、ちょっとしたパレードみたいになってしまっている。
最後尾はクロの子供たちとザブトンの子供たちが捕まえた暴れていた人たちや、怪しい行動をしていた人たちだけど。
これは空飛ぶ絨毯に乗っている俺が注目されるんじゃないかな?
魔王のほうが注目されるから問題はない?
信じるぞ。
そして、夜明け前なのにシャシャートの街に入るか入らないかの場所で待っていたミヨとイフルス代官。
ミヨは俺たちの姿を確認したあと、なぜか魔王とブロックサインのやりとりを始めた。
なんだろう?
野球のサインかな?
こんな場面で送りバントとか、必要ないと思うぞ?
魔王も拒否している……いや、駄目だという感じのブロックサインかな?
素人の俺に読まれるサインは駄目じゃないかな?
「イフルス代官の言動をどうするかの確認だったので。
送りバントではありません」
ミヨにそう言われた。
イフルス代官の言動がどうにかする必要があったのか?
いつも通りで大丈夫……ああ、魔王に対する言動が違うのか?
「それでいいです」
ミヨになにやら呆れられたが、気にしないでおこう。
魔王はベトンさんと一緒にイフルス代官とお話。
クロの子供たちとザブトンの子供たちが捕まえた暴れていた人たちや、怪しい行動をしていた人たちの引き渡しはランダンやグラッツがやってくれている。
ミヨはティゼルを叱っているようだな。
ティゼルがなにかやらかしたのだろうか?
「情報は正確に。
行動は慎重に」
ミヨの言っていることは理解できる。
だから、俺にも刺さる。
人命がかかっているからと、急ぎ過ぎた。
もっと慎重に行動するようにしよう。
今回の場合は……
…………………………………………
どうしたらよかったのだろう?
悩んでいたら、ドライムに慰められた。
「村長が悩むことはない。
思うままに動けばよいのだ。
それで問題となったのなら、周りの者が少し多く働くだけだ」
それって……
「天使族の言葉を真似てみた。
似てたかな?」
少しだけ。
だが、ありがとう。
ん?
なんだ?
見知らぬ一団……じゃないな。
見知った顔がいる。
商隊のメンバーだ。
商隊のリーダーであるジョローもいる。
うん、間違いない。
ジョローの商隊のメンバーだ。
ここにいるってことは、プギャル伯爵を探すのを手伝ってくれたのかな?
人は探していたけど、プギャル伯爵じゃない?
じゃあ、誰を?
彼らの目的は、ベトンさんだった。
「夜になっても戻ってこなかったものですから、探していたんですよ。
商隊のメンバーですから」
……
なるほど。
ベトンさんはジョローの商隊のメンバー。
つまり、ベトンさんが守りたかったのは、ジョローの商隊だったのか。
知らなかった。
あ、ベトンさんが商隊のメンバーを見て慌ててる。
これは……
自分が悪魔族ってことを、メンバーに黙っていたのかな?
そのようだ。
わかっている。
変なことは言わないよ。
今回の騒動に関しても。
あとで、どこまで話していいか確認しておこう。
あとちょっとで、日常回に戻ります。