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グッチの事情


 グッチが原因で、エルメが自由になっている。


 エルメが自由になっているとはどういうことだろう。


 たしかに、エルメはヴェルサのメイドであり、大抵の場合に一緒にいるが、ヴェルサから離れられないということはない。


 なにせ、ヴェルサは引きこもり気質。


 それゆえ、生活必需品を補充するための買い物などにエルメは単独行動をすることはある。


 それはヴェルサが大樹の村や五村ごのむらで生活するようになっても変わっていない。


 俺の知らないヴェルサとエルメの契約があり、それをグッチが破棄したとかそういうことだろうか?


「あ、いや、そんなに難しい話ではなく……」


 グッチが説明してくれた。



 ことの発端は、シャシャートの街の北にあった街跡。


 以前、撮影に使おうとした街跡で起きた爆発が絡んでいる。


 なんでも、その街跡にグッチは大量の本や映像を隠していた。


 本や映像の内容は……ヴェルサが喜びそうなものと考えて間違いはない。


 グッチがそれらを隠したのは、若かりし頃のやんちゃというか、闇にほうむり去りたい内容というか……


 簡単に言えば、本や映像にグッチが登場しているのだ。


「主役ではありませんよ!

 脇役、脇役ですからね!」


 あ、うん、承知した。


 えーっと……グッチは脇役で登場しているのだ。


「い、いろいろと挑戦してみようとしていたころで、気の迷いというのはあると思うんです」


 そ、そうだね。


 まあ、グッチの名誉を考え、そのあたりはくわしく掘り下げない。


 ただ、グッチにとっては処分したい本や映像だった。


 だが、悪魔族がドラゴン族に仕えることになったときの契約に「文化を故意に破壊しない」という内容があり、本や映像を処分するのはそれに抵触するそうだ。


「何度も何度もお願いしたのに、駄目の一点張りで……」


 悪魔族にとって契約はかなり大事なもので破れないし、破る気もないとのこと。


 それで仕方なく、本や映像を隠して忘れていたのに、爆発で飛び出してきた。


 大半は爆発で燃えてしまったが、残念ながらそれなりの量の本と映像が燃えずに残った。


 それらを回収したグッチは、再び隠そうとした。


 しかし、隠す場所に心当たりがなかった。


 大樹の村が一番無難だが、ヴェルサのせいでそういった本や映像は持ち込みは禁止になってしまっている。


 五村やシャシャートの街では人が多く、常に見張りを置かないと気が休まらない。


 ドラゴン関係の施設は論外。


 あそこは暇を持て余している者だらけだ。


 内容はどうであれ、新しいモノには飛びついてくる。


 さらには、ヴェルサと同好の士である悪魔族もいる。


 考えるに値しない。


 森の中やダンジョンの中は……冒険者がやってくる可能性がある。


 冒険者はどんな危険な場所でも、お宝があるに違いないとやってくるやっかいな存在だ。


 おどしても逆効果だし、百年もすれば脅しは忘れられる。


 どこに隠すべきか。


 木を隠すなら森の中がベスト。


 では、本や映像を隠すなら……そういった物を保管している場所。


 そんな場所あるか!


 いや、待て。


 ある。


 あった。


 ヴェルサの家だ。


 行ったことはないが、家の様子は村長から聞いている。


 あそこに放り込めば、見つからない。


 問題は、持ち主であるヴェルサに気づかれるかどうか。


 ……


 …………


 発想の転換だ。


 私の目的は、あの本や映像を不特定多数の目に触れさせないことだ。


 不愉快だが、ヴェルサに見つかるのは前提にしよう。


 いや、ヴェルサを味方にすれば、あれらは二度と世に出ない。


 今後、同様の物を見つけたとしても、ヴェルサという保管庫があると思えば精神的に安らげる。


「あなた一人で楽しむのであればかまいません。

 ほかの誰にも見せず、大事に保管してください」


 そう条件をつけ、グッチは本や映像をヴェルサに渡した。


 これで話は終わるはずだった。


 しかし、グッチは見落としていた。


 エルメというメイドの存在を。


 エルメは、ヴェルサに仕えている。


 それは忠誠心からか?


 否。


 ヴェルサの作品にれた、同好の士だからだ。


 つまり、エルメもグッチが渡した本や映像に興味を持った。


 しかし、ヴェルサはグッチからの条件がある。


 ヴェルサとエルメは喧嘩した。


 結果。


 エルメはヴェルサのそばを離れ、シャシャートの街に遊びに行っていたそうだ。


 グッチはそのことをヴェルサから聞いて、満足した。


 自分の判断は間違いなかったと。


 ヴェルサとエルメの喧嘩に関しては、申し訳なかった。


 だが、頃合いを見計らって仲裁すればいいだろう。


 ヴェルサが言うには、エルメとの喧嘩は珍しくはない。


 百年に一回ぐらいは喧嘩しているそうだ。


 半日で仲直りしたこともあれば、数年別れていたこともある。


 このまま喧嘩別れになる可能性は少ない。


 新作を完成させれば、戻って来るとヴェルサは自信を持っていた。


 だからグッチもそこまで深刻に考えていなかった。


 エルメがヴェルサから離れたあと、どんなトラブルを起こしたか聞くまでは。


 エルメは優秀だ。


 ただ、判断基準が独特。


 世の中の流れなんて無視。


 下手に優秀な分、トラブルは派手で大きくなっていく。


 そのうえで、エルメに悪意はない。


 トラブルの詳しい内容はまたにして、グッチは慌てた。


 急ぎ、ヴェルサとエルメの仲を取り持たなければと考え、行動していたところで、今回の騒動だそうだ。


「問題があるときにこそ、新しい問題がやってくる……

 ふふふ、プラーダからベトンの話を聞いたときは叫ぶだけで済みましたが、村長が夜中に出撃したとの報告を聞いたときには、思わず暴れそうになってしまいましたよ……」


 グッチが虚空こくうを見つめていた。


 あー、出撃じゃなくて捜索の手伝いな。


 誰が報告したか知らないけど、そのあたりはちゃんとするようにと指導するように。



 さて、一通りグッチから話を聞いたが……


 エルメが自由になった喧嘩の原因……いや、遠い原因といった感じかな?


 しばるほどではないと思う。


 なので解いてやる。


「ありがとうございます」


 いやいや。


 だからというわけじゃないが、できればエルメとヴェルサの仲直りをさせてもらえると助かる。


 これはお願いだ。


「もちろんです」


 ルーたちも、それでいいな?


「もとから諸悪の根源がグッチとは思ってないから、大丈夫よ」


 そうか。


 よかった。


 ……


 ちなみにだが、誰が諸悪の根源だと思っているのかな?


「プギャル伯爵」


 ……


 ……………………


 か、彼は被害者だぞ。


「立場を考えれば、エルメに連れ出されるときに抵抗するか、誰かに伝言を残すべき」


 そ、そ、そうかもしれないけど。


 そうだ、に、人間の暗殺者たち。


 彼らはどうだ?


「彼らは彼らで仕事をしていただけ。

 彼らを派遣した国が悪いと判断することはできるけど……」


 できるけど?


「滅ぼしていいの?」


 ……


 ……………………


 じょ、冗談がきついなぁ。


 ははははは。


 ほら、ルーたちも笑って笑って。


 俺が困っていると、ドースがやってきた。


「奥方たちとの話はそのあたりにして、ベトンの話を聞いてやってほしい」


 ベトンさんの?


 暗殺者の件は終わったんだろ?


 別の話か?


 いや、それも大事だけど、ルーたちとの話も大事だと思うんだ。


「わかっておる。

 奥方たちのことは、この竜王に任せよ」


 お、おおっ。


 頼もしい。


「前々から注意しようと思っていたこともあるしな。

 気にするな」


 注意?


「お主に負担をかけ過ぎるなという内容だ。

 ほれ、行った行った」


 わかった、任せた。


 グッチはエルメのところに……


「ああグッチよ。

 村長を使って無実を証明するのは、あまり褒められた手ではない。

 今回だけだぞ」


「はっ!

 承知しております!」


 ?


 どういうこと?


「お主の手で縄を解いたというのがな。

 まあ、村長はそのままでよい。

 気にするな。

 ベトンの話を聞いてやってくれ」


 よくわからないけど……わかった。


 俺はベトンさんのところに向かった。





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― 新着の感想 ―
たまげたなあ
エルメ≧妖精女王 取扱危険度
[一言] 相変わらず主人公は、政は蚊帳の外
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