衣装
グッチ 悪魔族。ドライムの執事。
プラーダ 悪魔族。五村で働いている。グッチの部下。
エルメ 悪魔族。ヴェルサの部下。
ベトン 悪魔族。グッチの元ライバル?
魔王とベトンさんの話が終わった。
ベトンさんとその仲間を狙う暗殺者たちへの対策はどうなったのかなと聞くと、問題ないと教えられた。
……
問題ない?
「村長からもたらされた密偵の情報が役に立った」
俺からの密偵の情報……
ああ、ラーメンが好きなクラウデンがラーメン女王に渡した情報。
ラーメン女王はその情報を俺に渡してきたが、俺は扱いに困ってビーゼルに渡した。
そのビーゼルから、魔王に渡ったのだろう。
ちなみに、最初ビーゼルは情報の受け取りを拒否した。
なのでしかたなく、そう、しかたなく俺の娘でありビーゼルの孫娘になるフラシアに頼んで、渡してもらった。
俺にははっきりと断ったビーゼルも、孫娘を相手には断れなかったようだ。
まあ、さすがに酷いとフラウから叱られてしまったけど、これは別のお話。
「あの情報には、こちらで把握していないものが多数あり、慌てて調査を行ったのだ」
密偵は情報の収集を主目的としているので、魔王国としては密偵とわかっても即逮捕せず、あえて泳がしてたそうだ。
そうすることで、魔王国の様子を人間の国々に伝え、理解を深めてもらう策。
未知であるよりも、ある程度の情報があるほうが安心感を与えられるから、わからなくもない。
なので、把握していない密偵がいてもそれほど慌てる必要はないのだが、問題というかビーゼルが受け取りを拒否した理由があった。
魔王国においてそれなりの地位の者の名前が、情報にあったからだ。
理解を深めてもらうためとはいえ、なんでもかんでも情報は渡せない。
たとえば軍の正確な規模や配置状況、各街の食料生産量や備蓄量。
戦局に影響が出る情報は、基本的に隠している。
なので、慌てて密偵を逮捕しなければいけないのだが、情報を鵜呑みにするわけにはいかない。
ちゃんと調査し、密偵であると断定できる証拠を集めたあとでの逮捕となる。
こういったことは、しっかりとしている魔王国。
感心だ。
で、問題はそれなりの地位の者が逮捕されたあと。
それなりの地位にいた者が逮捕で不在となり、問題がないわけじゃない。
すぐに代役を選ばなければいけない。
しかし、それなりの地位には能力が必要で、それに付随する利益や名誉がある。
貴族たちの派閥や縄張りも絡み、代役選びには時間がかかる。
そして、代役が不在のあいだ、仕事を止めるわけにもいかないので王都から人材が派遣される。
この派遣される人材が問題を起こしては意味がないので、優秀な者が選ばれて派遣されるのだが……
つまりは王都から優秀な者が一時的に減るということだ。
さらに貴族たちの派閥争いも激化する。
そのしわ寄せは、魔王や四天王をはじめとした大臣たちに寄せられるので、ビーゼルはそれなら放置しましょうと情報を見なかったことにしたかったらしい。
それでいいのか四天王?
「もたらされた情報は五村やシャシャートの街が中心であったが、広域で活動する者の情報もあったからな。
一時的に国家運営に影響はあったが、なんとかなった」
なんとかなったんだ。
「うん、なんとかなった。
ただ、それはティゼル、ゴール、シール、ブロン。
それとアサとアースの協力があったからだ」
だから、ティゼルの遊びにつき合ってくれたのかな?
「あー、それでだ。
把握していない密偵たちを捕まえたときに、新しい情報がいくつか入手できてな。
そのなかに、人間の国から派遣された暗殺者たちの情報も含まれていた。
さすがにそちらは証拠だなんだの前に確保したから、問題はなくなっている」
なるほど。
つまり、ベトンさんやその仲間の心配はする必要がないってことか。
よかったよかった。
まあ、ベトンさんがやっていたことは完全に無駄足だったけど。
本人が気にしていないなら、よし。
「ところで、村長は魔王の地位に興味があったりはしないか?」
え?
どうした急に?
いや、興味はないぞ。
大変そうだしな。
魔王はよくやっていると思うぞ。
そう褒めたのに、魔王はなぜか寂しそうだった。
なんだろ?
なんにせよ、把握していない密偵の情報によって魔王国がわたわたしているところに、今回のプギャル伯爵の行方不明騒動。
改めて、魔王たちは大変だな。
あ、料理が少し余っているけど、食べるか?
ドライムのダイコン料理はおいしいぞ。
「ありがたいのだが……その前に、その……」
なんだ?
「あれをなんとかしてもらえないだろうか?」
あれ?
魔王の視線の先は、シャシャートの街。
また誰かやって来るのかな?
あ……
クロの子供たちとザブトンの子供たちだ。
クロの子供たちにザブトンの子供たちが乗って、こちらに駆けてくる。
暗い中、遠方でもわかったのは、クロの子供たちが三メートルの大きさに巨大化していたからだ。
なぜ巨大化しているのかなと思っていると、理由がわかった。
クロの子供たちは、誰かをくわえていた。
人間サイズをくわえて運ぶには、あの大きさになるしかなかったのだろう。
ザブトンの子供たちの糸で縛って、引きずって運ばなかったのは偉いぞー。
で、そのくわえられている人たちは?
全員、気絶している様子だが?
ふむふむ。
シャシャートの街で暴れていた人たちや、怪しい行動をしていた人たちか。
それらを捕まえたと。
なるほど。
よくやった。
頭を撫でてやろう。
ああ、人は放してやってくれ。
魔王たちに引き渡すから。
よしよし。
「あなたが言うと、すぐに放してくれるのよねー」
ん?
聞きなれたルーの声がすると思ったら、ルーがいた。
クロの子供たちの後ろにいたのかな?
……
ルーはいつもの身体のサイズではなく、大人バージョンの身体サイズだった。
そして服装が見慣れない衣装。
なんと形容すればいいのだろう?
第一印象は、魔法戦士かな?
布を何枚も重ねた服に、魔術的な装飾を多く備えている。
そして、魔法で身体の周囲に浮かせている六枚の盾。
……
誰と戦う予定なんだろう?
「夜の外出用よ。
これでも女の子だからね」
な、なるほど。
でもって、ルーの後ろにいるのは、これまた見慣れない衣装をお揃いで着たアンたち鬼人族メイド。
こちらの第一印象というか、これは理解できた。
白服に緋袴、その上に着ているのは千早かな?
つまり、巫女服だ。
ただ、当然ながら俺の知っている巫女服そのままではなく、要所に改造がある。
とくに上に着ている千早は、魔術的な模様が光っている。
布なのに、頑丈そうだ。
そして左右の腰に日本刀らしき剣が四本。
こちらも、誰と戦う予定なのだろうか?
「ザブトンさんが、次の春のパレードのために用意してくださったものです。
少し早めのお披露目と思いまして……」
は、はぁ。
さらにアンたちの後ろにいるのがリアたちハイエルフの後発組。
……
えっと、彼女たちも普段とは違う衣装だった。
肌を極力隠した黒の上着と黒のズボン、黒のブーツに黒の帽子。
顔にまで黒い塗料を塗っていて、存在がわかりにくい。
あ、剣や槍の先も黒に塗っているんだ。
へ、へー。
夜間戦闘員みたいな出で立ちだけど、捜索の手伝いに来たんだよね?
次は……フラウ?
一人?
文官娘衆はいないの?
まあ、夜中に動くには危ないか。
フラウの服装は……完全武装?
厚手の衣服に、胸当てや脛当て、前腕部と手首を守る手甲をつけている。
武器は剣と槍。
なんでまた?
「よ、用心です」
そうなのか?
村ならともかく、夜はまだまだ物騒ということか?
気楽に同行を求めすぎたかな?
反省だ。
……
俺はきょろきょろと周囲を見回す。
あれ?
ティアたちはいないのかな?
姿がみえないけど?
「あー、ティアたちも来る予定だったのだけど。
ちょっと刺激が強いとヨウコや文官娘たちに止められてね」
ルーがそう教えてくれる。
刺激が強い?
どういうことだろう?
「いまはぜんぜんだけど、五百年ぐらい前まで天使族は魔王国とやりあっていたから。
戦闘装束での移動はちょっとね」
魔王国だと、五百年以上生きている者もそれなりにいるので、配慮したらしい。
へー。
なぜ戦闘装束で来ようとしたんだ?
「本気でやるときは、纏うのが伝統だって」
で、伝統なら仕方がないか。
うん。
本気でプギャル伯爵を捜索しようとしてくれたわけだしな。
……
捜索に来たんだよな?
「もちろんよー。
あははははははは。
大丈夫。
面倒をかけるシャシャートの街を締めようと思ったわけじゃないし、これを機会に面倒に対処する組織を構築しようとしたわけじゃないから」
だよな。
よかった。
えーっと……
ハクレンやラスティは?
あ、残って子供たちの世話ね。
それも大事。
それじゃあ、最後に。
グッチが縛られているけど、どうしたんだ?
グッチはなにも悪いことをしてないだろ?
たしかにプラーダへの援軍が届かなかったけど、それは現場の混乱のせいなわけだし。
悪いのはエルメだと思うぞ。
たぶん。
「そのエルメが自由になっている原因がグッチだからかな。
あ、縛ったのは私たちじゃないわよ。
反省を体現すると言って、自分で縛ってたわ」
……
日の出には、まだ少し時間がかかりそうだ。
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