乗っ取り計画
事情を聞き終え、エルメを罰したが、これで終わりと考えてはいけない。
まず、街に残された危険な魔法陣はどうなったのだろうか?
「全て壊されました」
とのベトンさんの証言。
いまさらドースを相手に嘘を吐くとも思えないし、信じても大丈夫だろう。
となると、残る問題はベトンさんが力を欲した原因。
人間の国から派遣された暗殺者。
ベトンさんやベトンさんの仲間を狙う可能性があるとのことなので、これは急いで対処する必要があるだろう。
……
えっと、どうすればいいのかな?
警察に相談?
シャシャートの街に、警察かそれに類似する組織ってあるのだろうか?
聞いた覚えがない。
それにそういった組織があるのだったら、今回のプギャル伯爵が行方不明になったときに動いているだろう。
動いていた様子はない。
つまり、そういった組織はないのだろう。
そう断定するけど、ブロンに確認。
「えーっと、魔王国の正規軍がそういった役目を担います」
なるほど。
さすがブロン。
魔王国の学園で学んだだけのことは……違った。
学園で教えているだけのことはある。
頼もしい。
「ただ、シャシャートの街に駐屯している正規軍は昼間のイベントの警備に駆り出されていたので今すぐに動かすのは無理かと。
人数も五百人ほどのはずですし」
五百人が軍として多いのか少ないのかはわからないけど……街の規模を考えたら、少なく感じるな。
魔獣や魔物が襲って来たら、どうするんだ?
「街の防衛は、街の商会が持つ戦力と冒険者ギルドが協力する手筈になっています。
これだと、五千人ぐらいになるはずです」
なるほど。
それは海から敵が来た場合もか?
「人間もいる商業地ですので、直接の攻撃は考えにくいのですが……他国の侵略を受けた場合は街の大半は明け渡して、港の端にある砦に立てこもります。
この場合は、街の商会の戦力や冒険者ギルドは手を貸しませんが、海の種族が協力します。
あとは王都から援軍が来るのを待つのですが……転移門ができたので、そのあたりの防衛構想が変化しているかもしれません。
調べておきます」
いや、ちょっとした疑問だから調べなくてもいいよ。
しかし、シャシャートの街に砦なんてあったんだな。
「港の一部ではありますが、街の中心からはもっとも離れた場所ですから」
なぜそんな場所に?
「街の近くにあると、戦闘に巻き込んでしまいますから」
あー、危ない施設は遠くにってことか。
考えられているなぁ。
と、話がそれた。
戻して。
軍がすぐに動くのは無理でも、相談はしておいたほうがいいな。
幸いなことに、シャシャートの街のイフルス代官とは繋がりがある。
ミヨのお陰だ。
「あの、それよりも早い方法がありそうですが」
ん?
ブロンが街の方向を向きながら、そう言ってくる。
俺もブロンが見ている方向をみた。
夜なので、遠くに街の明かりがあるだけだ。
なにかあるのかな?
あ、街の明かりが点滅した。
違うな。
街の明かりが点滅したわけではなく、街の明かりの前をなにかが横切った感じか。
なんだろう?
こっちに近づいているのはわかるが……
ドースの魔法の光の範囲になにかが入って、俺はその正体をようやく理解した。
空飛ぶ絨毯に乗った魔王の一団だった。
魔王がどうしてここに来たか気になるが、その前に確認だ。
その空飛ぶ絨毯、うちの村のだよな?
魔王たちを降ろしたあと、丸まって俺にタックルしてきたもん。
まあ、そうじゃなくても絨毯の模様でわかる。
なんだ怒っているのか?
いや、たしかに置いて行った。
しかし、お前は小さい子供たちの揺り籠ならぬ揺り絨毯として活躍中だったじゃないか。
子供たちを放り出して来いとは言えない。
お前も放り出せなかっただろ?
うん、理解してくれたか?
よかった。
よし、仲直り。
それじゃあ魔王のほうだけど……
魔王と一緒に空飛ぶ絨毯に乗っていたのは、ビーゼル、ランダン、グラッツ、それとホウだ。
魔王と四天王が勢ぞろいしてやってきたのだが、それはどういった理由だろうか?
「いや、ははは。
情報が錯綜していてな。
現場に来たほうが早いと判断しての行動だ」
魔王の話だと、村にいたグラッツが俺の行動を知って、慌てて魔王に報告に行ったそうだ。
なぜ報告にと思うが、プギャル伯爵が行方不明になることは魔王国にとって一大事。
知ったからには魔王に報告しないわけにはいかなかったそうだ。
たしかにそうだな。
そのあたりの考えがすっかり抜けていた。
うっかりだ。
報告を受けた魔王は、事態を確認しようとしたけど情報が錯綜していたので現地入りを決断。
そろっていた四天王を引きつれて、ここにやってきたと。
そうだったのか。
知っていると思うが、プギャル伯爵は発見した。
無事……だと執事さんは言ってたけど、あとで確認するようにしてくれ。
「うむ。
もちろんだ」
そして、よく来てくれた。
実は相談したいことがあって。
ああ、そう身構えないでほしい。
実は人間の国から派遣された暗殺者に狙われている人たちがいるんだ。
これに関しては、俺から説明するよりベトンさんが説明したほうがいいな。
彼女から話を聞いてくれないか?
うん、彼女。
そっちの石を抱えて座っているほうじゃなくて、ドースの近くにいるほう。
よろしく。
それで……ビーゼル、ちょっといいかな?
うん。
いや、個人的に気になったことを聞きたいだけだから、片膝をついて控えなくていいよ。
そんな態度、いままでしてたっけ?
しなくていいから。
立って立って。
えーっと、気になったのは君たちが持っているものに関してなんだ。
空飛ぶ絨毯に乗ってやって来た魔王たちは、全員が旗を持っていた。
それって大樹の村の旗だよな?
パレードのときに作ったやつ。
なにか意味があるのか?
「敵味方の識別用です」
識別用?
「インフェルノウルフの群れを率いられたと聞いていましたので」
ああ、クロの子供やザブトンの子供たち用か。
いや、魔王たちなら覚えていると思うけど。
「ははは、万が一に備えてです」
なるほど。
この用心深さが、上に立つ者の資質なのだろう。
見習わなければ。
ん?
魔王たちに続いて、別の一団がやってきたようだ。
誰だろう?
……
アルフレートだ!
おお、久しぶりだな。
元気にしていたか。
ウルザも。
よしよし。
シールも来てくれたのか。
こんな夜中にすまないな。
アサとアースも。
メットーラは王都の家に残っているのか。
まあ、全員で来る必要はないからな。
一声あれば、すぐに動ける?
いやいや、プギャル伯爵はすでに見つかっているよ。
あー……
ところで、なぜティゼルはロープでグルグル巻きにされているんだ?
「えーっと、ちょっと暴走して」
暴走?
俺がどういったものか確認すると、アルフレートとウルザが相談して、アルフレートがティゼルのモノマネをしてくれることになった。
「お父さまが立ち上がった!
いまこそ魔王国を乗っ取るとき!
各位、軍勢をまとめ上げ、大樹の村のために行動しなさい!」
おお、似てる。
さすが兄妹。
それでどうなったんだ?
アルフレートが諫めたのか?
答えてくれたのはウルザ。
「檄を飛ばす前にメットーラが腕力で抑えたので、家の中だけで収まったわ。
でも、声が大きかったから、ちょっと学園内が騒がしくなったけど。
大きな問題にはなってないと思う」
小さな問題にはなっているのかな?
まあ、魔王国内で、魔王国を乗っ取るときなんて冗談でも言ってはいけないと思う。
叱っておこう。
あと、魔王や学園長にも謝っておかないと。
この件でティゼルが虐められでもしたら、困る。
うん?
ティゼル、なにか言いたいことがあるのか?
「乗っ取り計画はビーゼルおじさん、グラッツおじさん、ランダンおじさん、ホウお姉さんと一緒に考えていて、魔王のおじさんの承認もあったのに……
メットーラが、お父さまからの直接の言葉があるまでは、絶対に動いちゃ駄目だって」
……
魔王たちには、子供の遊びにつき合うにしても、もう少し冗談とわかる内容にするように言っておこう。
うん。
それとメットーラには、なにか贈り物をするとしよう。
苦労をかけて、すまない。
今年の花粉症は、腹に来る。
あと、いろいろあって更新が遅れました。
ごめんなさい。
書籍やコミックの発売日が近いから、もっと更新して盛り上げないとと思うのに、まとまった時間がとれない。
でも、頑張ります。
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