吊るされるのは彼女だ
ダイコンの煮物を食べながら、プラーダとエルメ、それとベトンさんから事情を聞いた。
プラーダは、シャシャートの街に到着と同時に街に仕掛けられた悪意ある魔法陣に気づき、魔法陣の解除をしていたらベトンさんとここで戦闘することになったと。
「魔法陣を作ったのはベトンです!
あと、このことはグッチさまに報告して、援軍を要請しました!
援軍が来なかったのはグッチさまの怠慢だと思います!」
わかったわかった。
あとでグッチからも話を聞くから。
「よろしくお願いします」
エルメは、ここに怪しい結界があるので様子を見に来たら、戦闘中のプラーダとベトンさんを発見。
とある事情で戦闘には参加できないので、プラーダへの援軍としてプギャル伯爵を連れて来たと。
「近くにいる者で、もっとも戦えそうな者が彼でしたので」
ふむ。
戦闘に参加できない事情とは?
「ヴェルサさまのそばで働くための条件です」
なるほど。
ベトンさんは、街に仕掛けた魔法陣を壊されたので、壊していたプラーダを敵として戦っていたと。
「途中、そこの者がワトガングと名乗る魔族の男性を連れて来たので、戦闘が長引いてしまい……
拙い結界にてのお目汚し、失礼しました」
ベトンさんはそう言って、ドースに頭を下げる。
なぜか彼女は、俺が質問しているのにドースに対して返事をしている。
まあ、ドースは竜王。
そのことをベトンさんは知っているからだろう。
それはかまわない。
ただ、ドースが俺に伝言しているのはなんだろう?
「このように彼女は証言しております」
ことさら丁寧に言うのも。
やめてくれないかな?
ベトンさんが俺を変な目でみてるから。
さて、話をまとめると……
まず、街に魔法陣を張ったのが原因。
つまり、ベトンさんが悪い?
「はい、私もそう思います!」
「私もです」
プラーダとエルメが、手を挙げて賛成する。
今回の件で誰かが吊るされるとするならば、それは彼女だと。
だが、ここは多数決の場ではない。
ドースがベトンさんに、魔法陣を張った理由を聞いた。
「じ、自衛というか、仲間を守るためです」
そのベトンさんの意見に、プラーダが強く反論。
「彼女は嘘を吐いています。
あの魔法陣は他者に危害を加えるとても危険なもので、自衛に使うためのものではありません!」
ベトンさん、そうなの?
「あ、あの魔法陣に踏み入った者の生命力を奪いますが、疲労を感じる程度です。
長い時間、その場に留まれば、たしかに危ないですが、安全装置をつけています。
危なくはありません」
危なくないと。
「そんなはずありません!
安全装置があるなら、私が見つけています!
あの魔法陣に、そんなものはありませんでした!」
ここで意見に食い違いがあるな。
その魔法陣を調べればわかるだろうけど……
「シャシャートの街に設置された魔法陣は、全て潰されています」
ベトンさんは魔法陣の存在を感じられるらしく、何者かによって破壊されたそうだ。
実物がない状態では、双方の主張は平行線のまま。
まあ、個人的には安全装置があろうがなかろうが、危ない魔法陣を設置した段階でアウトなんだけど……
その魔法陣が、どうして自衛や仲間を守ることに繋がるんだ?
聞いた感じ、ただ他者を攻撃する魔法陣のようだけど。
「あの魔法陣で奪った生命力は私のもとに集まります。
私はそれを魔力として使うことができますので……」
つまり、自分のパワーアップのためと。
「はい。
そうでもしなければ、とても勝てる相手ではありませんので」
誰と戦うつもりだったんだ?
「説明すると少し長くなるのですが……」
できるだけ簡潔にお願いします。
「私は人間の国で生活をしていたのですが、仲間と一緒にシャシャートの街に来ました。
その仲間と一緒に、シャシャートの街で永住できたらなぁと考えているところで、人間の国から派遣された暗殺者が私たちを狙っていることが判明しました」
その暗殺者たちと戦うつもりだったと。
「はい」
なるほど。
そういった理由か。
しかし、だからと言って他者に危害が及ぶ魔法陣の設置は許されないと思うが……
ちなみに、面倒だから省いたけど、この俺とベトンさんの会話もドースの仲介がある。
ふむ。
ところでエルメ。
うん、エルメ。
君だ。
俺とベトンさんが会話しているあいだ、なにか言いたそうだったね?
言ってみなさい。
「い、いえ、そんなことは……」
怒らないから言ってみなさい。
「シャシャートの街に設置されていた魔法陣ですが、その……不完全だったので手を加えました」
……
嫌な予感がする。
いや、待て。
慌てるにはまだ早い。
エルメを、エルメを信じるんだ。
そ、それで、手を加えたってどういう方向に?
「万全に力が発揮できないように妨害されていたので、その妨害部分を取り除きました」
駄目だった。
つまり、こういうことだ。
ベトンさんは安全装置付きの魔法陣を設置した。
その安全装置付きの魔法陣の安全装置はエルメによって解除された。
安全装置が解除された状態の魔法陣をプラーダが発見して慌てた。
という流れ。
プラーダもベトンさんも間違っていなかった。
あ、エルメは正座。
正座というのは足を揃えて……そう、そんな感じで座っているように。
えーと、それで、エルメはどうして魔法陣に手を加えたんだ?
「歪んでいるものを見て、それを簡単な労力で正せるなら、やりませんか?」
……
気持ちはわかる。
わかるが、行動する前に少し考えるように。
「ヴェルサさまからも、よく言われます」
だったら、考えるように。
今回の件は酷い。
ヴェルサに伝えるので、ちゃんと叱られるように。
そうエルメに言ったら、凄い顔でショックを受けていた。
かわいそうだが、仕方がない。
ああ、プギャル伯爵を連れ出したこともあった。
そのこともしっかりと伝えておこう。
しかし、プラーダはグッチに報告して援軍を求めたそうだが、どうしてグッチは援軍を送って来なかったのだろうか?
グッチのこれまでの行動から考えて、そういったところに手を抜くとは思えないが……
うん、エルメ。
なにか言いたそうだね。
全部、言っておこう。
あとで発覚したほうが大変だと思うから。
うん、可能なら庇うよ。
「えーっと、魔法陣を直しているところで、グッチさんの部下らしき方たちと遭遇しまして……」
まさか、蹴散らしたの?
「いえ、手を引けと言われたので、引きました」
とくに戦ったりもせず?
「はい。
戦うのは禁止されていますから」
なるほど。
グッチの援軍はシャシャートの街には来ていたわけだ。
でも、プラーダと会えない状態なら、そのまま捜索しそうだけどなぁ。
「あの、意見、いいですか?」
プラーダが渋い顔をしながら手をあげた。
なにかな?
「グッチさまの援軍は、エルメさんが魔法陣の設置犯と思ったんじゃないですか?」
……
「でもって、エルメさんが素直に手を引いたものだから戦意はないと判断して、残っている魔法陣を壊して事件解決とし、帰ってしまったのではないかと」
…………
えーっと、まとめると。
ベトンさんが無数の魔法陣を設置。
エルメが魔法陣を直して、それを追いかけるように壊してまわるプラーダ。
魔法陣が壊されていることに気づいたベトンさんがプラーダを連れ出し、戦闘。
エルメは魔法陣を直すことを続行。
グッチの援軍がエルメを止め、魔法陣を全て破壊。
グッチの援軍は帰ったけど、ベトンさんとプラーダの戦闘は継続。
そのあと、エルメはベトンさんとプラーダの戦闘に気づき、プギャル伯爵を連れ出して参戦させた。
こんな流れかな?
うん、間違いないようだ。
よかったよかった。
ところでエルメ。
この米俵ぐらいの大きさの石を抱えてくれないかな。
うん、正座したまま。
大丈夫、俺は怒ってないよ。
遅くなってすみません。
体調不良です。
三月に入ってから、なぜか熱っぽく(でも計っても平常)、常に頭がぼーっとしていました。
冷静に考えると、この症状は花粉症です。
いつもは鼻水で判別していたのですが、なぜか今年は鼻が無事です。




