動き出す村長
ヨウコ 九尾狐。五村の村長代行をやっている。
フタ 四村(太陽城)出身のマーキュリー種。大樹の村~五村間の転移門の管理をしている。
秋の収穫に目途がつき、俺の手が空いたので中庭に新しい茶室を作った。
今回は事前にアンによって鶏たちに通達してもらったので、茶室を乗っ取られることはなかった。
よかった。
俺は茶室の畳の上でごろごろする。
うーん、満足。
おっと、畳だけじゃない。
今回は景色にも拘ってみた。
障子を開けて中庭を見る。
そこには白い砂を敷き詰めて整え、岩を配置し、海をイメージした枯山水モドキが……
そこには鶏たちが群れていた。
……
鶏たちのリーダーの目はこう語ってる。
アンには従うから建物には入らない。
だが、ここで群れるのはセーフのはず。
……
なるほど。
なるほどなるほど。
俺と鶏たちのリーダーは睨み合う。
先に目を逸らしたほうが負けだな。
などと思っていたら、アンがやってきて鶏たちを問答無用で追い払った。
「あとで、躾け直しておきます」
ほどほどにね。
鶏たちが従順だと、逆に気持ち悪い。
翌日。
俺は中庭で、牡蠣の殻を粉になるまで砕いていた。
鶏たちの飼料に混ぜて与えるためだ。
こうすると生む卵が丈夫になるらしい。
牡蠣は海の種族たちのあいだでもよく食べられているらしく、頼んだらすぐ手に入ったので昨日の夕食で頂いた。
大粒の牡蠣で美味しかった。
いま砕いている殻は、そのときにでたもの。
鶏たちは殻よりも身を寄越せと言うが、気にしない。
昨日の夜、鶏たちによって一箱分の牡蠣をつまみ食いされているからだ。
収穫の打ち上げで、中庭でのバーベキューだったので油断した。
牡蠣はアンも好んでいたので、かなり厳しく叱られたのに……それを感じさせない今日の態度に、ちょっと感心する。
いや、鳥だからかな。
ちなみに、アイギスは殻を食べず、身しか食べない。
昨日なんか、自分で焼いて食べてた。
レモンを搾る器用さは、凄いと思った。
ん?
どうしたアイギス?
……牡蠣をもっと食べたいと。
仕方がないな。
また頼んでおくよ。
俺がそう答えると、アイギスだけでなく鶏たちも喜んだ。
まったく……
鶏たちの分も、頼んでおくよ。
そんな風に過ごしていた日の夜だった。
風呂上りのまったりタイムに五村から緊急の手紙が届けられた。
ヨウコ宛だったが、ヨウコは娘のヒトエと入浴中なので俺が代わりに目を通した。
手紙はブロンから手助けを求める内容だった。
プギャル伯爵がシャシャートの街で行方不明?
プギャル伯爵って、ゴールの奥さんのお父さんだよな?
いや、それだけじゃない。
文官娘衆にも娘がいる。
これは放置はできない。
探す手伝いをしに行こう。
俺はそう決断し、行動を開始しようとしたら、文官娘衆から止められた。
プギャル伯爵の娘だ。
「父の心配をする必要なんてありませんよ。
どんな状況でも生き延びますから」
それは信頼からくる言葉だろう。
しかし、だからといって探しもしないのはどうなんだろう?
知ってしまったからには、行くべきだと説明。
夜だけど、協力者を募ったら、ハイエルフたちとリザードマンたちが参加してくれることになった。
捜索は数が命。
助かる。
ん?
ドースやドライムも?
「孫や曾孫にいいところを見せんとな」
「ダイコンの味を広めるいい機会だ」
いや、なにをしに行く気だ?
行方不明者を探すのが目的だぞ?
「いいからいいから。
我らと一緒のほうが面倒が少ないはずだ」
そうなのか?
まあ、手伝ってくれるなら頼もう。
ルーやティア、アンたちも手伝ってくれるそうだが、準備に少し時間がかかるそうだ。
女性が外出するには準備が必要なのは仕方がない。
先に出発させてもらう。
ああ、ヨウコへの伝達と転移門の通行情報を集めるのはそっちに任せていいかな?
うん、頼むよ。
屋敷を出たところでクロの子供たちやザブトンの子供たちが準備万端で待っていてくれた。
が……
五村ならともかく、シャシャートの街には連れていけない。
魔王とかビーゼルが困るから。
……いや、待て。
行方不明者を探すとなると、クロの子供たちの力は頼りになるはずだ。
鼻がいいしな。
また、シャシャートの街の中を探すことを考えると、ザブトンの子供たちの力も頼りになる。
うん、絶対に。
これは人助け。
手遅れになって、万が一があっても困る。
……
あとで俺が魔王とビーゼルに謝ろう。
俺はクロの子供たちとザブトンの子供たちを連れて行くことにした。
あ、でもできるだけ住人に見られないようにね。
五村への到着は問題なかった。
転移門の管理をしているフタに「どこを攻めるのですか?」と聞かれたのは心外だけど。
五村の麓にあるシャシャートの街への転移門に近づいたところで、グッチが合流した。
グッチの第一声が「どこを攻めるのですか?」だったのは、フタと話し合った冗談なのだろうか?
俺が必要以上に真面目な顔をしていたから気を使わせてしまったのかもしれない。
行方不明と聞いたから、どうしても誘拐とか事故などの悪い想像をしてしまう。
悪いことを考えていると、それを引き込む。
もっと気楽に挑むとしよう。
近くに買い物に行っているだけの可能性もあるわけだし。
うん。
グッチも手伝ってくれるとのことで、一緒に行動。
五村の麓の転移門と、シャシャートの街の転移門で問題が発生。
街中では屋根や物陰などを使って隠れながら移動していたクロの子供たちとザブトンの子供たちだけど、転移門を通るときは隠れられなかった。
それゆえか、転移門を警備している者たちや通行者がクロの子供たちとザブトンの子供たちの姿を見て、気絶してしまった。
そんなに怖くないのに。
バタバタと気絶しないでほしい。
だけど、怒るのはあと。
ほぼ全員が気絶したから、騒ぎにならなかったのはよかったけど、ハイエルフとリザードマンの一部が気絶者の介抱に手を取られてしまったのは失敗だった。
だが、反省もあと。
プギャル伯爵を探さないと。
ん?
クロの子供たちとザブトンの子供たちが独自行動を求めてきた。
かまわないが、プギャル伯爵の顔とか匂いを知っているのか?
顔は前に映画で見たと?
そういや、出演していたな。
匂いに関しては、珍しい匂いや怪しい匂いを探すと。
悪意ある匂いも判別できる?
なるほど。
よし、なら頼む。
緊急時の判断も任せた。
攻撃してもかまわない。
クロの子供たち、ザブトンの子供たちは理由もなく暴れまわったりはしない。
それぐらいの信頼はしている。
ただ、危険なときは逃げるように。
死ぬのはもちろん、怪我しそうなときは無理しちゃ駄目だぞ。
頑張りすぎて怪我をしてしまうという心配はある。
プギャル伯爵を探すのも大事だけど、怪我をしないのも大事だ。
クロの子供たち、ザブトンの子供たちは、俺の言葉に頷いて行動を開始した。
うーん、速い。
まるで夜の闇に消えるようだ。
おっと、俺も動かないと。
えっと……まずはブロンとの合流だな。
最新の情報を聞こう。
すでにプギャル伯爵が発見されていたら肩透かしだけど、それが一番なんだよなぁ。
無事であってほしい。
ドース、ドライム、グッチ、ハイエルフたち、リザードマンたちもそこまでは一緒に行動しよう。
Q.フタは夜でも転移門の管理をしているの?
A.自由勤務です。なので、いるときもあれば、いないときもあります。
フタ不在時は、置かれているノートに通行者が自分で名前を書きます。
(大樹の村側にアラクネのアラコがいるので、不在でも防犯面に不安はありません。
……五村側には銀貨とか無造作におかれてるけど)
ちなみに、フタは五村の文官仕事の手伝い仕事を転移門のところでしてます。
それゆえ、転移門を知る者しかフタに手伝いを頼めません。
花粉症の心配、喉の対策、ありがとうございます。
かなり改善してきております。