倒れたワトガング
エルメ ヴェルサの悪魔族メイド。
プラーダ 五村で働く悪魔族。ギャンブル好き。
私の名はベトン。
ベトン=グリ=アノン。
グッチやプラーダと同じ、古い時代を生きた悪魔族です。
「よし、完成。
簡単な汁物で悪いけどね。
ドースのほうはどう?」
「こっちもできあがった。
……村長、そう意外そうな目でみるな。
これでも若いときは自分で料理をやっておった。
これぐらいはできる。
ドライムはどうだ?」
「もう少しダイコンに味が染みるのを待つのがよいかと。
こちらは私が見てますので、お先にどうぞ」
「そうだな。
それじゃあ、椀と皿を用意して……すまないが、そこの箱に入っている。
取ってくれるかな?」
「箸は使えるか?
駄目ならフォークがあるぞ」
現在、私は見知らぬ男性たちと一緒に、夜の野外で食事の準備をしています。
……
どうしてこうなった?
あ、モチなる物は美味しい予感がします。
二つ、お願いします。
え?
三つでもかまわない?
ありがとうございます。
では、三つで。
うん、やっぱりモチは美味しかった。
四つと言うべきだったと少し後悔します。
……
違った。
えーっと、なぜ私は見知らぬ男性たちと一緒に食事をしているのでしょうか?
少し前まで、プラーダとワトガングなる魔族と戦っていたはずなのに。
あの戦いは大変でした。
戦いの技量では私のほうが二人よりも上でしょう。
ですが、プラーダが防御に専念し、ワトガングが攻撃に専念するスタイルに苦戦しました。
正直に言えば、負けてしまう可能性が頭をよぎる程度には。
だが負けません。
負けるわけにはいかないのです。
私は距離を取り、改めて構えました。
ワトガングは追撃せず、その場で構えます。
プラーダはそのワトガングの背に隠れました。
少しの間。
私が意を決して踏み込んだ瞬間でした。
ワトガングが大きく横に吹き飛んで転がり、倒れました。
なにが起こったのか、私には理解できませんでした。
ワトガングの背に隠れていたプラーダも同じでしょう。
ワトガングは伏せたまま、ピクリとも動きません。
プラーダが、私がやったのかとジェスチャーで聞いてきますが、私は頭を横にふります。
私じゃありません。
プラーダがやったのではないですか?
私がそうジェスチャーで聞きましたが、プラーダは全身で否定してました。
嘘ではなさそうです。
しかし、そうなると……
ほかの者がいる?
戦闘に関与してこないので私の意識から消えていましたが、この場にはもう一人います。
プラーダがエルメと呼んでいた悪魔族が。
プラーダもそれに気づいたのでしょう。
私とプラーダはエルメを見て、貴女が犯人ですかとジェスチャーで聞いたら、否定されました。
まあ、そうですよね。
彼女がワトガングを連れてきたのです。
彼女がワトガングを倒したのでは、なにをしたかったのかとなります。
つまり……
さらに誰かがいる?
周囲に張ってあった私の結界はすでに解除しています。
誰かが近づいても、発見は難しいでしょう。
しかし、いると仮定しても疑問が残ります。
なぜワトガングを?
私を助けてくれたと考えても、それならワトガングではなくプラーダを狙うべきです。
そして、戦いに介入したのなら、なぜ姿を現さないのでしょうか?
目的がわかりません。
本当にいるのでしょうか?
それゆえ、私はプラーダと戦闘を続けるという判断にはなりません。
プラーダも同じようです。
まいりました。
膠着状態は、私に有利にはなりません。
グッチが来たら、今の私では勝負にならないでしょう。
まあ、グッチも昔のままではないと思いますが……
遠くに松明の光を発見しました。
こちらに近づいてきます。
ワトガングを攻撃した者でしょうか?
松明を持って、すごい勢いでこちらに向かって走っています。
敵か味方かは不明ですので、私は構えました。
プラーダとエルメも構えました。
走ってきたのは、執事服を着た中年の魔族でした。
知らない人物です。
プラーダとエルメを見ますが、二人も知らない人物のようです。
その執事服を着た中年の魔族は、一直線に倒れているワトガングに向かいました。
ワトガングの関係者のようです。
「ご当主さま!
こ、こ、これはいかん!
急いで治療しなければ!」
彼はそう言ってワトガングを乱暴に肩に担ぐと、来た方向に走って帰っていきました。
私とプラーダ、それとエルメはそれを邪魔することなく、見送って……
顔を見合わせました。
えっと……
あの様子から、ワトガングを攻撃した者じゃないよね?
互いに頷き合います。
じゃあ、膠着状態は継続?
そう思っていたら、別の者が近づいてきました。
今度は複数人。
こっちが本命でしょうか?
魔法の光で周囲を照らしています。
四人組のようですね?
冒険者……にしては軽装。
人間三人と、獣人族一人?
……
………………
………………………………………………………………
この気配っ!
人間のうち二人は神代竜族!
神代竜族は悪魔族の天敵。
どうあがいても、悪魔族は神代竜族に勝てません。
努力が足りないとか、工夫が足りないとかの話ではなく、種族としての相性の問題です。
それが一人でも大問題なのに二人いる?
まずいまずいまずい……
この場から逃げる?
どうやって。
視認できる距離です。
私が全力で逃走しても追いつかれるでしょう。
いや、追いつく必要もありません。
すでに攻撃距離です。
神代竜族が本気になれば、すでに死んでいます。
まだ死んでいないことから、神代竜族がいるのは私を倒すためではないと判断します。
つまり、偶然。
すごく私の運が悪かった。
であるなら、会話でなんとかなるかもしれない。
光明。
あ、待って。
プラーダやエルメがなにか言ったらまずいかもしれない。
同じ悪魔族ということで見逃しては……
私は希望の目でプラーダとエルメを見ました。
プラーダは驚愕していました。
ありえない存在を見たような感じです。
気持ちはわかります。
神代竜族が二人ですからね。
ですが、プラーダの口から発せられたのは違う言葉でした。
「なぜ、ここに村長がっ!!!」
……村長?
プラーダ、混乱しているのですか?
驚く場所を間違ってますよ。
あとエルメ。
私の背に隠れないでください。
……
いつのまに移動したのですか?
反応できませんでした。
ひょっとして、エルメと戦っていたら、私はすぐにやられていたのでしょうか?
めちゃくちゃ強い?
そのエルメが、なにか悪いことをして見つかったかのような様子で焦っています。
あの神代竜族はエルメを追いかけているという考えで正解でしょうか?
つまり、私がエルメを庇っているように見える現状は最悪ということ。
は、離れなさい。
「いやです。
一緒に、一緒に怒られましょう!」
なぜ私が!
「シャシャートの街に危険な魔法陣を張ったじゃないですか!」
たしかに危険ですが、あれには安全装置をつけてます。
気づかれない程度しか効果がありません。
私とエルメが争っていると、いつのまにかプラーダは四人に駆け寄ってこう言ってました。
「私は悪くありません。
あの二人が悪いです」
…………
この時ほど、プラーダを殴りたいと思ったことはありませんでした。
それと、あとで知ったのですが、ワトガングに関して。
ワトガングを攻撃した者はいませんでした。
あれは、ワトガングが自分で飛んで倒れただけです。
つまり、演技。
奥義、“やられた振り”だそうです。
なぜあのタイミングでやったのでしょうか?
「すごく嫌な予感がしたからな。
あのタイミングが最善だった。
近くに我が家の執事がいたのもわかっていたし」
まあ、たしかにワトガングは綺麗に現場から離脱しました。
羨ましいと思うぐらいに。
それに、ワトガングのやられた振りで戦いは止まり、村長と神代竜族二人の介入はなく、話し合いに持ち込めたわけですので……
結果はよかったのかもしれません。
花粉の咳で喉が荒れて苦しいです。
花粉症の薬って、鼻水とか頭痛には効果あるのですが咳に効くのがない。(見つけられないだかな?)
浅〇飴とヴィッ〇スドロップで、なんとかしてます。
遅くなりましたが、レビューありがとうございます。
これからも頑張ります。