真夜中のブロン
僕の名はブロン。
宴会で芸を求めるのは悪い文化だと思い始めている獣人族の男。
まあ、多少ならつき合いもするけどね。
〝フィッシャーマンズ”の反省会という名の宴会から抜け出したら、真夜中になっていた。
僕はあらかじめ取っておいた宿に足を向ける。
シャシャートの街に設置された転移門を使えば、王都に戻ることも五村に行くこともできるのだけど、出迎えという仕事内容を考えるとね。
できるだけシャシャートの街にいたほうがいいだろうとの判断だ。
間違っていないと思う。
だけど、僕はすぐに後悔することになった。
……
いや、後悔はしていない。
うん。
流れに身を任せた結果だ。
受け入れている。
後悔はしていない。
反省しているだけだ。
宿の近くまで来た時、夜中なのに忙しく動く集団を見かけた。
怪しい。
けど、その服装はちゃんとした執事服やメイド服。
そして、なにかを探している様子。
そこから考えられるのは……彼らの主人になにかあったのではないだろうか?
倒れて、治癒魔法の使い手を探している?
それにしては、探している様子というか場所がおかしい。
ゴミ箱の蓋を開けても、治癒魔法の使い手は見つからないだろう。
なにか大事な物を間違えて捨ててしまったとかかな?
などと思っていたら、執事服の男性が僕を見ていた。
なんだろう?
こっちをじっと見ている。
「ブロンさま!」
あ、向こうは僕を知っているようだった。
えっと、どこで会ったかな?
僕は覚えていないのだけど……
「私どもはプギャル伯爵家に仕える者です」
プギャル伯爵家?
ゴールの奥さんであるエンデリの実家?
なら、どこかで会ったことがあってもおかしくない。
「すみません。
ご当主さまを見かけませんでしたでしょうか?」
ご当主さまって……プギャル伯爵?
いや、見てないけど……
まさか、プギャル伯爵がいなくなったの?
「はい。
お一人で部屋に居られたはずなのですが、忽然と……申し訳ありませんが、捜索のお手伝いをお願いできませんか?」
わ、わかった。
この街の代官には連絡してる?
「はい。
捜索の手を借りております。
ただ、イベントがあったため、大々的な捜索は明日以降ですので……」
だよね。
でも、ミヨさんあたりは捜索に動きだしているだろう。
この街の代官も優秀だと聞いているし、できる範囲で頑張ってくれているはずだ。
現在の捜索状況は?
転移門の使用の可能性は?
「転移門は使用されていないようです。
ただ、誘拐の可能性を考えると使用していないと断定は難しいです」
なるほど。
箱にでも詰められたら、使用したかどうかはわからないか。
転移門の問題点だな。
あとで、魔王のおじさんに報告しておこう。
だけど、誘拐は最悪の場合だよね?
自分で移動した可能性は?
「十分あります。
ご当主さまは、一人で行動されることを好みますので」
そうなの?
「はい。
仕事関係ではとくに」
なるほど。
プギャル伯爵がこの街に来た目的は?
「なんでも、この街の近くで大きな爆発事故があったらしく、その調査だと聞いております」
え?
あの爆発事故って、魔王のおじさんが調査して処理したって聞いているけど?
「ここだけの話ですが、なんでもその爆発現場から本が持ち出されたらしく、ご当主さまはその本に興味を持たれました」
本?
それは聞いていないな。
「不確かな噂が情報のもとですので、真偽はわかりませんが……」
ふーむ。
まあ、その情報の真偽はどうでもいい。
知りたいのはプギャル伯爵が行方不明になった原因となりうるかだ。
いまの話を考えると、プギャル伯爵は一人で爆発のあった現場に向かったのだろうか?
違うだろう。
プギャル伯爵が一人のときに、本の行方に関する情報を入手。
本を手に入れるため、一人で行動した。
これならありえるかな?
伯爵ともなれば、一人で動くとしても誰かしらに連絡すると思うけど……
とりあえず、僕はプギャル伯爵が本を探していると仮定して探すとしよう。
といっても、夜中だから本を扱う店の大半は閉まっている。
裏で本の取引しているような場所の心当たりなんてない。
捜索している執事さんたちがこの街の代官に連絡しているなら、多少は大事になってもかまわないのだろう。
手遅れでプギャル伯爵になにかあるほうが問題だしね。
……
でも、確認はしておこう。
大事になっても、大丈夫かな?
「大丈夫です。
すみませんが、よろしくお願いします」
了解。
僕は、五村のヨウコさんに助けを求める手紙を書いた。
急いでいるので簡潔に。
プギャル伯爵が行方不明。
捜索する人手がほしい。
転移門の使用状況の情報がほしい。
こんな感じで。
ヨウコさんなら、事態の重さを理解し、すぐに人手を送ってくれるだろう。
ところで、執事さん。
「なんでしょうか?」
捜索のために確認したいのだけど……
プギャル伯爵って、ゴミ箱の中に隠れることがあるの?
「プギャル家では、逃走は恥ではありません。
〝逃げるときは全力で〟が家訓です」
な、なるほど……つまり、なりふりかまわない場合はゴミ箱の中に逃げる場合もあると。
「ご当主さまはまだやったことがありませんが、何人かのお嬢さまはやったことがあります」
……
エンデリさんのことじゃないと願いたい。
さて、僕は一つ、忘れていたことがある。
五村の村長代理はヨウコさん。
これは間違いない。
だけど、夜になるとヨウコさんは大樹の村に戻っている。
現在は夜。
真夜中。
僕の手紙は転移門を使って五村に、そして五村から大樹の村に移動したそうだ。
結果。
村長が現れた。
「人探しが得意なわけじゃないが、こういう場合は数がものを言う。
頑張ろう!」
竜王が現れた。
「孫や曾孫にいいところを見せんとな」
門番竜が現れた。
「私が収穫したダイコンを味わってもらおう」
……
なぜこの三人が?
後ろにいるハイエルフのお姉さんたちや、リザードマンのお兄さんたちで十分なんだけど?
あ、グッチさんもいる。
なんだろう、頭を抱えているけど?
ん?
僕を呼んでる?
なんだろう?
「ブロンさま、事態は最悪です。
ですが、ご安心を。
村長はこの私が守ります。
なにがあっても守ります」
えーっと……
ドライムさんとかドースさんはいいのかな?
「あっちは放っておいても死にません。
ただ、ブロンさまにお願いがあります」
なんだろう?
「ここにいるのは第一陣です。
すぐに第二陣が来ます」
第二陣?
「村長の奥さまがたです。
このように遅い時間でしたので、殺気が増しています」
あ、あー。
夜は村長と語り合う大事な時間。
それを潰されたら、怒るか。
え?
まさか、僕にそれをなだめろと?
「いえ。
ことが収まったあと、なぜか私に責任が来た時に庇ってもらえればと」
ひょっとして……この騒ぎって、グッチさん関連?
「私ではなく、古の悪魔族関連です。
そのあたりを間違えてはいけません。
いいですね」
あ、はい。
えーと。
古の悪魔族が現れた。
全力で身を守っているようだ。
花粉症でゲホゲホ(咳)やっているので、コロナと間違えられないように外出自粛。
辛いです。
今朝、寝ているあいだに停電(冷凍庫の様子から十分ぐらい?)があったらしく、家電の大半がリセットされていました。
うーん、ネットで調べても停電の原因がわからず、もやもやします。