戦うプラーダ
プラーダ 五村で働く悪魔族メイド。
ミヨ シャシャートの街で働く、四村出身者。幼女メイド。
ブロン 王都在住の獣人族の男の子の一人。
私の名はプラーダ。
グッチさまの部下ですが、現在は五村で働いています。
どうしてそうなっているかは……まあ、どうでもいいじゃないですか。
五村はいいところですよー。
なんといっても、ご飯が美味しい。
私に許された食費でも、それなりの美食を楽しむことができるのは嬉しいですね。
そして、娯楽もたくさんあります。
とくに麓のイベント会場はいいですね。
時間が許すなら、毎日通いたいところです。
もし、引っ越し先を考えているのであれば、五村を候補に入れることをお勧めします。
さて、私はシャシャートの街に移動することになりました。
シャシャートの街で行われるイベントに、五村の代表として参加するためです。
なぜ私がと思いましたが、どうやらシャシャートの街の経済に関してアドバイスがほしいので、指名されたそうです。
なるほど、こうみえても私は経済関係は強いですからね。
シャシャートの街に滞在しているあいだの費用は出してもらえるので、断ったりはしません。
なんだかんだ言って、一ヵ月ぐらいお世話になろうと思います。
そんなことを考えていたのが悪かったのでしょうか。
シャシャートの街に到着し、出迎えてくれたミヨさんと挨拶をした直後でした。
妙な気配を感じました。
嫌な感じです。
そして、私はその妙な気配に覚えがありました。
気付かなかったふりをするのも手なのですが、気付いていたのに放置したことがバレると怒られますよね。
バレるわけないと思うのですが、こういったことはなぜかバレるんです。
私は学習しています。
なので、対処します。
「ミヨさん。
緊急事態です。
残念ですが、イベントに参加できなくなりました」
「え?」
「ところで、この街で殺されて困る人物は誰ですか?」
「は?
急になんですか?
どんな人物でも困りますよ」
「あー、では、殺されることで村長、もしくはドラゴンが怒る人物を教えてください」
「あの、冗談……ではなく?」
「あはは、冗談ですよ。
冗談。
それで、誰がいます?」
「……村長関係だと、マルーラの従業員とゴロウン商会のマイケル氏。
もう少ししたらこちらを訪れる予定になっているブロンさん。
ドラゴン関係はわかりません。
あと、村長の奥さまのルーさまに関わりがあるのが、イフルス学園の教師や生徒です」
「それなりの数になりますね。
ですが、タイミングよくイベントがあります。
できるだけそのイベントに、そういった人物を集めておいてください」
「どうするのですか?」
「どうもしません。
ただ、なにかあったときに、探し回らなくて済むでしょ?
それだけです」
「……」
「怖い目で見ないでくださいよー。
私は村長やドラゴンに迷惑をかけたくないだけですから」
「……わかりました。
こちらはこちらで勝手に警戒しておきます。
そちらに援軍は必要ですか?」
「これでもかってぐらいに欲しいですが、殺される可能性があるので人選は慎重にしてください。
村長やドラゴンに恨まれるのは勘弁です」
「正直、プラーダさんの感じている脅威が私にはわかりません。
プラーダさんは、どれぐらいの危機感をお持ちなのです?」
「うーん、寝ているドラゴンに錆びた剣でちょっかいをかける子供の冒険者を見た感じです」
「……私なら全力でその場から逃げますね」
「私もそうしたいです。
が、なかなかそうもいかなくて……
なにも起こらないことを祈っていてください」
「わかりました。
ご無事で」
「ありがとう。
頑張ってみます」
私は妙な気配のもとに向かいます。
シャシャートの街の大きい通り。
それなりに目立つ場所ですが……堂々とありますね。
魔法陣。
まあ、認識阻害の効果も付与されているので、知らない人にはただの模様に見えますか。
ですが古式の正当な魔法陣です。
この魔法陣の上を通行するだけで、生命力を吸われます。
警戒されないようにか吸収量は少ないですが、一時間もこの場に留まれば倒れるでしょう。
二時間で死ぬかな?
私は魔法陣の一部を消して、無効化します。
全部を消す時間はありません。
なにせ、私が察知しているだけで、この街に四十近い数の魔法陣が仕込まれているのですから。
イベントのある港側から無効化していきましょう。
すでに、いくつかの連絡手段を使って、グッチさまに連絡はしています。
そう時間もかからずに手勢を引きつれて来てくれるでしょう。
私の役目は、魔法陣を無効化しつつ、この魔法陣を仕込んだ者の探索。
戦闘は避けたいですねー。
相手が相手ですから。
ああ、まだ確定じゃありませんが……魔法陣の置き方から、ほぼ本人でしょう。
もしくはその弟子か。
弟子なら私でもなんとかなるかな?
弟子であってほしいなぁ。
などと考えながら、半数ほどの魔法陣を無効化したぐらいでした。
……
発見。
はい、本人でした。
魔法陣が無効化されていることに気づいて、様子を見に出てきたようです。
私には……気づいてない?
そんなわけありませんよねー。
はいはい、そう睨まないでください。
私は戦い向きじゃないのですよー。
あー、この場ではなんですから、移動しましょうか。
できれば街の外が嬉しいですねー。
ここで暴れると、いろいろと面倒なので。
シャシャートの街の北西にある草原。
シャシャートの街が遠目に見えます。
本当はもっと離れた場所に移動したかったのですが、相手があるので仕方がありません。
「プラーダ。
私の邪魔をする気?」
「邪魔をする気もなにも、あんな危険な魔法陣を放置できないでしょう」
私の目の前にいるのは、私と同じ悪魔族の女性。
名はベトン。
ベトン=グリ=アノン。
かつて、グッチさまと覇を争った者です。
まあ、グッチさまが勝ったのですけどね。
つまり、グッチさまより格下。
いえー、格下ー、格下ー。
「プラーダ、私を本気にさせたいの?」
「いえ、私はなにも言ってませんよ」
「馬鹿なことを考えたでしょ?
わかるわよ」
「あれ?
私、そんなにわかりやすいですか?」
「そりゃね。
ねえ、プラーダ。
私の手伝いをしない?」
「お手伝いですか?」
「ええ、そうしてくれたら昔のことは忘れてあげるわよ」
昔のこと。
ベトンがグッチさまと戦っているとき、私が横槍を入れたことですね。
あれが勝敗を決めたといってもいいですから……まずい。
恨まれている可能性が大。
ここはベトンに味方したほうが正解でしょうか?
なーんてね。
手伝ったぐらいでベトンが昔のことを忘れたりするわけないじゃないですか。
執念の塊みたいな悪魔なんですからー。
ですが、ここはグッチさまの手勢が来るまでの時間を稼ぐために、仲間になるふりをしましょう。
「いいですよー。
なにをすればいいんですか?」
「プラーダ。
ふざけてるの?
わかりやすいって言ったでしょ」
ベトンの足元から伸びた影が消えたと思ったら、私の背後から出てきて私を包み込もうとしてきます。
これはまずい。
ベトンの誘導でこの場に来ましたけど、ベトンがあらかじめ魔法陣を用意していた場所のようです。
そんな場所に私はのこのことやってきて、のんきに話をしようとしていたようです。
自分の迂闊さに、思わず笑ってしまいます。
あははははは。
迂闊さを取り戻すため、代価を払いましょう。
とりあえず、金貨三枚でいいですかねー。
私は金貨を取り出し、放り投げます。
私の放り投げた金貨は光り輝き、ベトンの影を押し返します。
そのあいだに私は安全な場所に移動。
役目を終えた金貨は泥に変化し、地面に落ちます。
「ちっ。
いつも金がないと喚いていたのに、よく出せるわね。
いい就職先でも見つけたの?」
「いえいえ、安い給金でこき使われてます。
ですが、生活費と戦闘用は分けるようにしていますので……戦闘で困ることはありませんよ」
「あら、そう?
それじゃあ、どれだけ貯め込んだか試してあげるわ」
「あはは。
遠慮したいです」
発動する前の魔法陣なら、銀貨でなんとかなるかな?
でも、ここで銀貨を出すとベトンに笑われる。
見栄えを考えて、金貨を出して構えましょう。
うん、見栄えは大事。
悪魔族は見栄えを気にするのです。
手持ちの金貨、残り十七枚。
……思っていたより少ない。
どうしよう。
ベトンを相手に、どこまで耐えられるかなー。
金貨が尽きる前に、グッチさまの手勢が来てくれたらいいのだけど。
のんびり「すまない……俺はここまでのようだ……」
異世界「ば、馬鹿なことを言うな! すぐに元に戻るさ」
のんびり「ふ……そういえば、農家のやつはどこに行ったのかな? 最後に会いたかったな」
異世界「の、農家は……かなり前に旅立ったきり……だからな」
お待たせしました。
年末というか十一月の後半から、いろいろとありました。
すみません。
次話で、プラーダとベトンがどうして戦っているかとか説明できると思います。