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舟上のブロン

ミヨ 四村(旧太陽城)出身のマーキュリー種。いつのまにかシャシャートの街の代官のところで働いている。


 僕の名はブロン。


 与えられた仕事を頑張る獣人族の男だ。


 え?


 外見ビジュアルはまだまだ男の子?


 もう結婚しているから、成人(あつか)いでお願いします。



 さて、僕はシャシャートの街に来ている。


 シャシャートの街には港があるので当然ながら海が近く、潮の香りが鼻をくすぐる。


 が、それをすぐにカレーの香りが乗っ取ってくる。


 これがシャシャートの街。


 この街での僕の仕事は来客の出迎えなのだけど、まだ来ていないようだ。


 来客は船で来るらしいのだけど、船で予定通りに到着するのは難しいからね。


 十日ぐらいの日程の幅をみなければいけない。


 ……


 あれ?


 それって、船が到着するまで僕はずっとここで待っていなきゃいけないのかな?


 それはそれで面倒だなぁ。


 来客のほうも、到着したからと連絡をくれたりはしないしなぁ。


 どうしたものか?


 悩んだりしない。


 こういったときの冒険者だ。


 港を見張ってもらい、入港した船の名前をチェックしてもらう。


 お金はかかるけど、それで僕が自由に動けると考えれば、たいした額じゃない。


「いや、冒険者を雇うぐらいなら、こちらを頼ってくださいよ」


 冒険者ギルドに行こうとしたところで、待ちかまえていたミヨさんにそう言われた。


 ミヨさんはシャシャートの街の代官の秘書をやっている。


 船の入港情報なら、すぐに手に入るだろう。


 しかし、ミヨさんにはお願いしにくい。


 なぜなら……


「実はこちらからも、お願いしたいことがありまして」


 こういうところだ。


 面倒は困るんだけど。


「いえいえ、この街で行われるちょっとしたイベントに参加してもらいたいだけです」


 ちょっとしたイベント?


「はい。

 小型の舟での競争です。

 舟は八人でぐ舟なのですが、こちらの準備したチームに欠員がでまして、その代役をお願いしたいのです」


 代役って、舟に乗るの?


 僕は舟に乗ったことがほとんどないけど、それでもいいの?


「漕ぎ手が八人揃わないと、出場すらできませんから」


 チームワークに関しては?


「参加することが大事で、成績は気にしなくてかまいません」


 まあ、それならいいか。


 それで、そのイベントはいつあるの?


「今すぐです」


 ……


「今すぐじゃなかったら、代役をお願いしたりしませんよ」


 たしかに。



 僕はミヨさんとイベント会場に移動した。


 見物人がいっぱいだ。


 そして、その見物人目当ての出店もいっぱいだ。


 いろいろと美味しそうな香りがする。


「お腹が空いているのでしたら、適当に買って差し入れますよ」


 それは嬉しいな。


「チームはこちらです。

 シャシャートの街で生活する漁師の息子さんたちで構成されているチームで、チーム名は“フィッシャーマンズ”です」


 僕はミヨさんに連れられた舟で、チームに挨拶をする。


「代役、助かるよ。

 よろしく」


 こちらこそ。


 ミヨさんは漁師の息子さんたちと言っていたけど、全員が二十代半ばのベテラン漁師の風格がある。


「あははは。

 親父がまだ現役だから、いまだに息子扱いなんだ」


「独立して船を持てれば、また違うんだろうけどね」


「結婚してないってのもあるかもしれない」


「この競技でいいところを見せて、俺はあの娘に……」


「ちなみに、君が呼ばれる原因となった者は、突然に結婚した裏切者だ」


 突然?


「昨日の晩だ。

 許さん」


 いや、祝福してあげようよ。


 あと、僕も結婚しているから。


「はぁ!

 ミヨさん、どうして既婚者こんなやつを!」


「そういうことを言うから、代役がみつからなかったのでしょ。

 それともメンバー不足で不参加になりますか?」


「ぐっ……」


「あと、既婚きこん者を敵にするより、味方にして妻の友人を紹介してもらったほうが有益だと思いますが?」


「正論など聞きとうない!

 ……が、不参加は困る。

 よろしくお願いします」


 よ、よろしく。


 どうして僕が選ばれたのか疑問だったけど、こういったチームだったからね。



 なんだかんだで競技の開始時間になった。


 僕たちが乗る舟は帆のない細長い舟。


 八人が一列に並んで乗り込み、両手でオールを漕ぐスタイルなんだけど……


 これって、本気でチームワークが必要なやつだよね?


 代役、本当に僕で大丈夫?


 あと、この手の舟って進行方向は前じゃないの?


 進行方向が背面って……誰が進路を決めているの?


 でもって、僕の前にチームメイト七人の背中があるってことは、僕が先頭?


 え?


 ここって、一番危険なポジションじゃないかな?


 めちゃくちゃ怖いんだけど。


 軽くパニックになる僕に、チームメイトが振り返ってニッコリ。


 ……


 それだけ?


 ちょっ!



 さすがに冗談だった。


 よかった。


 各船には、進路指導役の舟頭せんどうが乗り込むそうだ。


 つまり、一つのチームは八人の漕ぎ手と一人の舟頭。


 舟頭は競技開始の合図として、乗り込んでくるらしい。


 乗り込んでくるって、どこからだろうと思っていたら舟の近くの海面から顔を出した。


 なるほど、どうしてそんな面倒なことをするのかなと思ったら、舟頭は海の種族なのか。


 そして海の種族なら舟頭としての実力はたしかだろう。


 なにせ、文字通り海で生活しているのだから。


 頼もしい。


 僕がそう感心すると、海の種族が次々に海面から飛び出して舟に乗り込んだ。


 僕たちの舟にも乗り込んできた。


 細身の海リザードマンだ。


 うん、重量的にもそれほどでもなさそう。


 よろしく。


 彼は頷き、そして指で進路を指示した。


 ……


 喋ってくれないと、したがえなくない?


 困惑している僕を放置して、舟は移動を開始した。


 いいの?


 これでいいの?


 いや、たしかに舟頭が乗ったらスタートって聞いてるけど。


 え、ええい、どうなっても僕は知らないからな。


 僕は目の前のチームメイトに合わせ、オールを漕いだ。



 競技の内容は、海上に設置された浮き(ブイ)の間を通ったあと、ゴールに向かうもの。


 浮きは赤、黒、白の三色あり、ゴールはスタート地点。


 つまり、三つのチェックポイントを通過して、スタート地点に戻ってくればいい。


 ただ、進行方向が背面であることを無視しても、僕には浮きが見えない。


 舟頭の指示を信じて、進むだけだ。


 それと、もちろんながらこの競技は競争なので同じように行動している舟がそれなりにいる。


 目立つところでは……


 シャシャートの街の商工会の若手メンバーで構成されたチーム“マネーワールド”。


 イフルス学園の教師と生徒で構成されたチーム“イフルス・カレー”。


 シャシャートの近郊の村の青年たちで構成されたチーム“スローライフ”。


 五村ごのむらからやってきたチーム“プラーダ御一行”。


 ……


 プラーダ御一行とあるのに、プラーダさんは乗ってないんだな?


 おっと、舟同士がぶつかって転覆てんぷくしている。


 同じチェックポイントを目指しているのだから、ありえることだ。


 転覆した舟の乗組員は、海の種族の救護隊が助けているようだ。


 ある程度の安全面は確保しているわけだ。


 ちょっと安心。


 って、横波が僕たちの舟を襲う。


 うーん、この細い舟。


 どう考えても川とか池用。


 海の荒波に抗うには、細長すぎる。


 絶対に転覆する。


 ほら、横に並んでいた舟が転覆した。


 次はこの舟の番だ。


 そんなことを考えていたら、チームメイトから声をかけられた。


「ブロンくん。

 海の上で一番やっちゃ駄目なことは、弱気になることだ!」


「そんな気持ちじゃ、どんな舟だって沈む!」


「沈みたくなかったら、自信を持て!」


「あと、これは余計な情報かもしれないが、僕たちは泳げない」


 ……


 漁師の息子なのに?


 ってか、泳げないから息子扱いなんじゃないかな!


「ええい、正論など聞きとうない!

 だいたい、海って怖いだろ!」


「怖い、うん、怖い!」


「どうして海なんて存在するんだろうな。

 全部、陸地でいいと思うんだが?」


「まったくだ」


 シャシャートの街の漁師の未来は暗いようだ。


 だが、とりあえず沈みたくない気持ちは同じなようで、一生懸命に僕たちはオールを漕いだ。



 僕たちの順位は九位だった。


 参加したチーム数は三十三だったので、半分よりは上でまあまあの順位だろう。


 いや、完走できたことに感謝だ。


 それもこれも舟頭のお陰。


 認めたくないけど。


 無口なのはどうかと思うよ。


 今日、出会ったばかりで信頼関係とかできるわけないし。


「ブロンくん。

 ご苦労さま。

 このあと、反省会をやる予定だから参加してもらえると嬉しいな」


 反省会ですか?


「反省会の名を借りた宴会だよ」


「宴会って言うなよ。

 商工会に対抗して、漁師たちが一致団結する場だ」


「ははは。

 そういった意味合いがないとは言わないけど、そこまで商工会とは敵対してないから」


「怪我なく終わってよかった、という意味合いの宴会だよ。

 参加者は俺たちと俺たちの家族、友人になる」


 それなら、まあ。


「よかった。

 ああ、そうだ。

 ミヨさんから伝言。

 目的の船を沖合いで確認。

 ただ、このイベントで船の入港数が制限されているから、目的の船が入港するのは早くて二日後ぐらいだって」


 ……


 なるほど。


 ミヨさん。


 この情報を知ってて、隠してたな。


 まったく……


 無駄に日焼けしてしまった。


 まあ、それなりに楽しくはあったけど。


 ちなみに、競技の優勝チームは旅の商人有志で構成された“頑張れジョロー”。


 凄い操舟だった。


 見習いたいものだ。






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― 新着の感想 ―
確かにジョローさんは密偵とは無関係だねえー(白目)
[一言] ジョローかい!( ^▽^)ノ☆ めっちゃこの町に溶け込んどるやないかい!( ^▽^)ノ☆⭐︎
[一言] ジョロー商隊、めちゃくちゃエンジョイしてるwww
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