働くヨウコ
ヨウコ 五村の村長代行。九尾狐。
ティゼル 村長とティアの娘。天使族
ロク 太陽城のマーキュリー種。文官。
ナナ 太陽城のマーキュリー種。村娘姿の密偵。
フタ 太陽城のマーキュリー種。占い師風の魔法使い。
ミヨ 太陽城のマーキュリー種。幼女メイド。
ベイカーマカ商会 ダルフォン商会(連合体)に参加しているリドリーの商会。
ニーズ 酒肉ニーズの店長代理。蛇の神の使い。
我の名はヨウコ。
九尾狐のヨウコと名乗れば、それなりに畏れられる存在……であったと言うべきか。
「ヨウコさま!
こちらの案件、決裁が今日までです!
急ぎお願いします!」
「ヨウコさま!
これ、三日前が締めのやつじゃないですか!
なにやってるんです!」
「ヨウコさま!
今日の働きが、明日の安寧に繋がるのです!
頑張ってください!」
最近は、ヨウコさま、ヨウコさまと気安く呼ばれている。
これも五村の村長代行などということをやっているからだろう。
昔は我の名を呼ぶのも憚られたものだが、まあ……
これはこれで悪くはない。
「ヨウコさま、思案するのはかまいませんから、手を動かしながらにしてもらえませんか?」
う、うむ、頑張る。
秋は畑の収穫時期であることに加え、冬の備えでなんだかんだと税が動く。
五村の住人のほとんどが税を納めることに抵抗がない部分は楽なのだが、こちらが求める以上に納められるのは少し困る。
倉庫にも許容限界というものがあってだな……ああ、これは駄目だ。
倉庫を新しく作らねばならん。
どこに建てる?
考えるまでもない。
麓しか空いている場所がない。
大工の手配は……ああ、手の空いている大工はいないか。
では、当面はテントでも張らせて凌がせよう。
テントはどこから調達する?
ゴロウン商会は……地下商店通りで稼がせた。
あそこばかり頼りにするとほかの商会がうるさい。
しかし、大量のテントを用意できるところなど……
そういえば、ティゼルから紹介があったな。
ダルフォン商会系列のベイカーマカ商会。
規模も十分。
テントも一軍を収容できる程度には持っているか。
うむ。
与える利は少ないが、信用調査を兼ねて今回は任せてみよう。
我は近くに控えている部下の一人に方針を書いた木札を渡す。
部下はその木札を担当する者に渡してくれるだろう。
部下たちはよくやっている。
だが、それは与えられた権限内でだ。
権限外を意識して仕事のできる文官は、我の部下でも数えるほどというか、文官として四村から派遣されたロクだけだ。
これではいかんのだが、文官はすぐには育たない。
なので、五村を内偵しているナナ、転移門の管理をしているフタを動員して、なんとかしている状況。
うーむ。
村長に相談だな。
あと、ティゼルが学園を卒業したら五村で働くように要請しよう。
駄目ならシャシャートの街にいるミヨを。
などと、我がそれなりに忙しく働いているところに邪魔が入った。
「たすけてー」
蛇の神の使いだ。
涙目なことから、神からの案件だろう。
我は全力で逃げ出したかったが、まわりにいる部下に止められてしまった。
お前らな、神からの案件に関わるほうが時間を取られるぞ。
まあ、いい。
話だけは聞こう。
ん?
人払い?
ああ、そうだな。
聞かれるわけにはいかんな。
では隣の部屋で……は無理っぽいので、しばらく我とニーズだけにしてもらえるか?
大丈夫だ。
逃げん。
お昼のお稲荷さんを賭けてもいい。
……
お前ら、それで信用するのはどうなんだ?
いや、逃げんぞ。
逃げんがな。
わかった。
手早く終わらせる。
事情を聞いた。
頭が痛くなる。
猿がらみだ。
猿は面倒だ。
だからといって、放置もできんか。
世界樹の葉はこの五村に十枚、保管されているが渡せん。
これは五村のために使わねばならん。
高品質の治癒薬なら用意できるが……容体がわからんからな。
村長に言って、世界樹の葉を何枚かもらうのがいいだろう。
我はこの場を離れられん。
勝手に……って、フタをこっちに呼んでいるから、転移門のところは閉めてた。
ええい、フタを転移門に戻す。
大樹の村に行ってこい。
我にできるのはここまでだ。
フタ、ニーズが戻ったらすまないがすぐに帰ってきてくれ。
頼むぞ。
絶対、絶対だからな。
夜。
やっと解放されて我は大樹の村に戻った。
夕食の最中、村長から労いの言葉をいただきながら、酒を注いでもらった。
村長も秋の収穫や武闘会の準備で忙しくしている。
我だけではないのだ。
文句は言わん。
我も村長のカップに、酒を注ぐ。
まあ、我が忙しいのはいまだけだ。
冬になれば、仕事も楽になる。
それを希望に頑張ろう。
「ところでヨウコ、ニーズの件を聞いていいか?」
ん?
「ニーズはそれなりに慌てていたみたいだから詳しくは聞かなかったのだけど……猿の揉め事にニーズが呼ばれるものなのか?」
あー、うむ。
本来なら、呼ばれるはずはない。
ニーズは蛇の神の使いだからな。
蛇関連でないと動かん。
しかし、猿の神が蛇の神に頼んだことで、動かざるを得なくなった。
「頼んだだけでか?」
神の事情は知らぬが、頼まれるだけの貸し借りがあるのだろう。
狐の神に聞けば事情がわかるかもしれんが、そのために連絡を取ろうとは思わん。
面倒が増える。
その点、ニーズは真面目だ。
そこは感心する。
まあ、我は関わりたいとは思わんがな。
「しかし、猿の神の使いはいるんだろ?」
うむ。
それなのだが……いるといえばいる、いないといえばいない状況でな。
「どういうことだ?」
猿の聖獣セイテンの話はしたな?
「ああ、神域に近づいた獣のことだろ?」
うむ。
聖獣が進化し、神の使いとなる。
猿の聖獣ならば、猿の神の使いとな。
現在、猿の聖獣と猿の神の使いは同一だ。
「……どういうことだ?」
つまり、猿の聖獣と猿の神の使いは兼任中なのだ。
「…………それに、なにか問題があるのか?」
大きな問題だ。
猿に限らず、聖獣は人の言葉を解し、人の営みを知り、ほかの生き物の理を学ぶ。
強かったり、頭がよかったから聖獣になるのではなく、他種族への理解を深めることができるのが聖獣なのだ。
そうして他種族への理解を深め、神への信仰を持ち、聖獣は使徒に……つまり使いとなる。
のだが、猿の神はまだ未熟な猿の聖獣を、猿の神の使いとした。
「なんでまた?」
使いがいるのといないのでは、神の影響力が違う。
猿の神はなんとしても影響力を強めたかった。
「それこそ、どうしてだ?」
神の縄張り争いだな。
「え?」
少し前、狐の神が幅を利かせていたのだが、その狐の神の使いが逃亡して、力を落としたのだ。
狐の神をよく思っていなかった猿の神は、台頭の好機と未熟な聖獣を使いに昇格させたのだ。
だが、未熟ゆえに使いとしての役目は満足に果たせず、いまだ聖獣として修行中。
猿の聖獣は悪い猿ではないのだが、環境に振り回されている。
「へー」
ちなみに、その逃げた狐の神の使いが我なのだがな。
「知ってるよ。
少し前って、何百年前の話なんだよ」
はははは。
「笑っているが、ニーズは大丈夫なのか?」
ニーズは正しく使いに至った逸材。
なにも問題はない。
蛇の神の使いを辞めるのであれば、いつでも部下に迎えたいぐらいだ。
「ヨウコの部下?
酒肉ニーズの店長を辞められるのは困るなぁ。
副総支配人とかもやってもらっているし」
はははは。
まあ、その心配は必要あるまい。
あのニーズが、蛇の神の使いを辞めるとは思えん。
それに、我の部下ではニーズが嫌がるであろう。
村長が拒絶せぬかぎり、ニーズは酒肉ニーズの店長……店長代理だったな。
押しつけるのは感心せんぞ。
「反省」
反省しているなら、和を乱す猿の神に天罰がくだるように……は、少しかわいそうか。
猿の神は猿の神なりに、今回の件が無事に収束するように動いているようだからな。
今回の件で、蛇の神が猿の神の上に立てば、ニーズも少しは楽になるかもしれん。
ああ、楽になるで思い出した。
村長。
五村の件でいくつか相談が……
狐の神「我が世の春!」
狐の神の使い「人使い荒い。おさらばです!」
狐の神「え? なんで? え? なんでぇっ!」
猿の神「チャンス、使いを増やして発言力アップ!」
猿の神の使い「無茶言わんでくださいよー」
(猿界混乱)
猿の神「とりあえず、猿は暴れないように。周囲に迷惑をかけないように。ほかの神からクレーム来てるから」
猿「了。……魔族の女性、保護しました」
猿の神「魔族の? 上の神の眷属やん。よーやった!」
猿「魔族の女性、体調を崩しました」
猿の神「なにやっとん! 誰か、誰かお医者さまはいませんかー! そこの蛇の神、ヘルプミー!」
蛇の神「えー、ウチ関係ないやん」
猿の神「世界樹にコネ、あるんやろ?」
蛇の神「上の神から言われて、ちょっと話をしただけや。いやや、かかわりとうない!」
猿の神「ええからええから。ちゃんと代金払うし」
蛇の神「ええからちゃうわ。代金かていつ払うかわからんやろ」
猿の神「ちゃんと払うて。うちの使いが一人前になるまで、大事にはしたくないんや」
蛇の神「そのへんはわかるけど……」
猿の神「次の会議では、そっちの意見を通すから。こっちの派閥にも話するし」
蛇の神「ホンマやろな」
猿の神「ウソは言わへん、だから今回は助けてーや。上の神との喧嘩なんて、考えたくもあらへん」
蛇の神「しゃーないなー。ウチの使いは優秀やから」
蛇の神の使い「……」(死んだ目)
蛇の神「まずい、逃げる準備してはる」