小屋
修正)アイギスが扱っている木材は、五村産とわかるようにしました。
村の住居エリアにある世界樹の根元で、フェニックスの雛のアイギスがなにかをやっていた。
……
どこから用意したのか大量の木材を鋸で切ってサイズを合わせ、鉋で整え、鑿で加工しているようだ。
加工具合から、五村産の木材かな?
できあがっていく木材を見ると……どうやら、家の部品を作っているようだ。
こっちに引っ越すのか?
違う?
これは鷲のための家?
鷲の家というか……鷲の巣は世界樹の上にあるだろ?
なにかあったのか?
それが開放的過ぎるから、作ってあげると。
なるほど。
そういえば俺も見たことはないが、鷲の巣は一般的な鳥の巣なのだろう。
だから、新しく作ってやるとは、アイギスもなかなか優しい。
しかし、部品をみるに普通の一軒家っぽい感じになると思うんだが?
扉もあるよな?
鷲が使えるのか?
俺がそうアイギスに伝えようとしたら、鷲にブロックされた。
アイギスの気持ちを無駄にはしない。
どんな家でも使いこなしてみせるから止めてくれるなと。
その心意気は認めるが、身体の構造的に無理なことはするんじゃないぞ。
アイギスは……その、いろいろと特別だから。
腰の入った見事な鉋捌きをみせるアイギスを見ながら、俺はそう思った。
さて。
俺は世界樹から少し離れた場所にあるハイエルフの家の花壇を覗いた。
目的は花ではなく、花壇に隠れている山エルフ。
お前たちだな、アイギス用の大工道具を用意したのは?
その山エルフの横で、私が育てましたって顔しているハイエルフたちは、建築の技術指導者か。
いや、べつにいいんだけどな。
悪いことじゃないし。
アイギスだけでなく、子供たちにもぜひ教えてあげてほしい。
あー、一番覚えと筋がよかったのがアイギスなのか。
そっかー。
頑張れ子供たち。
でもって、暇しているなら、ちょっとつき合ってもらえるかな?
ああ、アイギスが作っているのを見て刺激された。
屋敷の中庭に小屋を建てるから、手伝ってほしい。
まあ、小屋と言っても、俺が考えているのは和風の一部屋。
玄関を兼ねた土間と畳を敷いた部屋が一つぐらいのイメージ。
部屋の壁の一面は、襖が理想。
屋根は茅葺きで……あ、縁側があると嬉しい。
この小屋の目的は……えーっと……なんだろう?
気にするな。
建てるのが目的だ。
だから、完成してから考えよう。
中庭で日当たりのいい場所に……鶏たちが占領していたので、どいてもらい、ここに建てることを決める。
縄を張って、だいたいの大きさを確認し、ハイエルフたちと相談して木材を調達。
平屋なので、それほど必要ないかなと思っていたけど、一軒分となるとやはりそれなりの量になる。
その木材を加工するのはちょっと大変だぞと思っていたら、手伝ってくれているハイエルフや山エルフの数が増えていた。
獣人族の女の子たちや、ザブトンの子供たちもいる。
ありがとう。
これなら、すぐに完成しそうだ。
あ、クロの子供たちもいるのか。
えーっと、無理するな。
応援でいい。
うん、応援。
心強いぞ。
なんだかんだで、小屋は三日ほどで完成した。
うーん、人海戦術のすばらしさ。
部屋に敷いている畳は、完成した部屋から逆算して作った特注品。
なので、きっちり四畳半になっているけど、実際の四畳半とは違う。
まあ、この辺りの規格化は、いつかやろう。
いまは気にしない。
この小屋の部屋は四畳半ということで押しとおす。
襖も特注品。
これは山エルフたちが襖の枠の内側に木を張って細工を施し、紙を張って作った。
俺が考えていた襖よりも、高級感がある。
すごいぞ山エルフたち!
屋根の茅葺きもしっかりしている。
これはハイエルフたちが担当。
俺は要望というか、茅葺きをふんわりと説明しただけなのに、ちゃんとした茅葺き屋根になっている。
実は茅ではなく、用途的に耐えられそうな草らしいけど……気にしない。
俺も茅って、どんな草か知らないし。
茅って、いくつかの草の総称だったっけ?
細かいことは横に置いておこう。
とにかく、完成したのだ。
……
改めて完成した小屋を見て、俺が想像したのは……茶室。
うん、茶室だな。
畳の一部を外して、炉を置く場所でも作ろうか。
使うことはあるのかな?
俺は畳の部屋でごろんと横になる。
うーん。
……
やはり畳の匂いというか、い草の匂いがいい。
五村のヨウコ屋敷にも畳敷きの部屋を作ったけど、あそこはヨウコに取られたからな。
ここは死守したい。
よし、とりあえず、完成したことを祝ってバーベキューでもしようか。
手伝ってくれた人たちに報いねば。
バーベキューはなるべく小屋……茶室でいいか。
茶室の近くでバーベキューを行いたいが、火を近づけるのはちょっと怖い。
完成直後に火事で全焼とかになったら、数日は立ち直れない気がする。
なので離れた場所でバーベキュー。
ああ、手伝ってくれた人への感謝のバーベキューだけど、手伝ってない人も参加していいぞ。
ほかの仕事をしていたのだろうし。
茶室作りのほうが、どちらかと言えば遊んでいたわけだからな。
武闘会に向けての練習?
まあ、それでもかまわないさ。
どんどん焼くから、しっかり食べてくれ。
翌日。
アイギスのほうがどうなったかと見に行ったら、完成した小屋を世界樹の上に運ぶところだった。
小屋を運んでいるのは、世界樹に住む大きい蚕たち。
糸で小屋を引っ張り上げている。
ああ、ザブトンの子供たちも何匹か協力しているようだ。
俺も手伝って……と思ったけど、手伝えることがなさそうなので見守る。
しかし、完成した小屋……
扉があるけど、鷲は開けることができるのだろうか?
窓を開けっ放しにして、そこから出入りかな?
でもってアイギスはまだなにか作っているようだが……
ベッドとテーブルと椅子か。
立派なものになりそうだが、使う鷲のことも考えてやろうな。
うん、椅子の背もたれをなくすとか、そういうことじゃなくて……
いや、うん、頑張れ。
鷲に睨まれたので、余計なことは言わない。
俺はアイギスのもとから離れ、茶室に向かう。
目的はないが、あそこでのんびりするのもいいだろう。
…………
茶室は、鶏たちに占領されていた。
茶室の中も屋根の上も。
……
いろいろと諦めた。
うん、だから畳と襖を回収してもいいだろうか?
あ、畳はすでにボロボロになっているのね。
残念。
でもって襖は……
これから寒くなるのに、襖を取るとはどうなんだと?
いや、すでに穴だらけにされているけど……
いや、じゃあ、そのままで。
茶室は、新鶏小屋になったようだ。
その日、村に新しい畑が増えた。
秋の収穫前だけど、新しい畑だ。
動きたかったんだ。
疲れていないけど、すっきりした。
ああ、耕しただけ。
すぐに冬だからな。
なにか育てるのは春になってからにしよう。
ハイエルフA「アイギスが作っていた家、完成したようです」
ハイエルフB「柱を使わず、綺麗に木材を組めていますね。見事です」
ハイエルフC「釘を使っていないのが高評価です」
ヒラク「……え? 柱と釘を使っていない? 校倉造り? 正倉院とかの? え?」
アイギス「(どやっ!)」
山エルフ「えーっと、ただのログハウスでは?」
ヒラク「鶏たちに茶室を取られたー!」
アン「鶏たちを甘く見過ぎです。あれは山羊と同じぐらい暴れん坊ですよ」
ヒラク「でも、これまで鶏たちは屋敷にも、社にも変なことをしなかったぞ?」
アン「そこは私たちが、ちゃんと話を通していましたから」(包丁を構えながら)
ヒラク「あ、うん……そうなんだ……」
いまの忙しい時期さえ終われば……終われば……




