小話 インフェルノウルフの序列
セナ 村の獣人族代表。
クロたちインフェルノウルフには序列がある。
基本、その序列は雄のみ。
雌はパートナーである雄の次という形。
なので、現状は上から、クロ、ユキ、クロイチ、アリス、クロニ、イリス、ウノ、クロサン、クロヨン、エリスとなる。
この序列は絶対だが、崩れないわけではない。
下位の雄が上位の雄と決闘して勝ったり、大きく群れに貢献すると序列が変動する。
が、まあ、ほぼ固定だ。
決闘を挑むのはほぼ生まれてから一年以内の若い個体で、挑まれるのはほぼ同時期に生まれた者たち。
つまり、若年世代の序列形成の一環で行われるだけだ。
あとは、群れの外からやってきた個体の序列形成で戦うことがあるが、だいたい下位で争われて収まっている。
群れへの貢献手段は多数あるが、もともとが序列に応じた任務を与えられるから、よほどのイレギュラーがないと評価されるほど貢献できない。
だから、クロの地位は変わらない。
仰向けに寝てても安泰だ。
……
下剋上とかされないのかな?
クロイチ、クロニ、クロヨンは直系の子供だからそういったことは考えないとしても……
俺はちらりと近くにいたウノをみた。
全力で首を横に振られた。
絶対に嫌ですとの意思表示。
クロの地位はやっぱり安泰のようだ。
それはそれでかまわないが、向上心がないのも問題じゃないのかな?
そう思ったら、ウノに「向上心うんぬんではなく、役割分担です」と言われた。
そういうものか?
俺はもう一度、気持ちよさそうに仰向けで寝ているクロをみた。
……
なにを分担しているのだろう?
そんな風に思ってから数日後。
屋敷の一角で、ユキ、アリス、イリス、クロサン、エリスが揉めていた。
事の発端は、今朝。
今年生まれたクロの子供が、隠れて屋敷の外壁に小便をしていたのが発覚した。
排泄は決まった場所でというルールが徹底されていなかった。
これにユキが怒り、子供たちの教育はどうなっているのですかとアリス、イリス、クロサン、エリスが責められている。
しかし、アリスたちにも言い分はあるので、揉めている。
そんなユキたちのところに、いつもより凛々しい顔をしたクロがやってきて、ひと吠え。
内容的には「各々の言い分もわかるが、まずは頭を冷やせ」……みたいな感じかな?
それを聞いて、ユキたちは顔を見合わせたあと、解散した。
なるほど、クロもちゃんとやることはやっているわけだ。
どこに隠れていたのか、クロイチ、クロニ、ウノ、クロヨンがやってきてクロを讃えている。
クロも満足そうだ。
ん?
なんだ?
そのまま、クロイチたちがクロを誘導して……
廊下に出て……
少し進んで……
部屋に入る?
……
その部屋には、ガタガタと震えながらお座りしているクロの子供と、怒気をまとうアンがいた。
状況から、その震えているクロの子供が屋敷の外壁に小便をしたのかな?
クロイチたちの様子から、そうみたいだ。
そして、クロイチたちはクロの子供を助けるためか、アンの機嫌を取るためか、クロをアンのもとに行かせようとしている。
さすがにあの場に行くのは嫌がったクロは、扉付近の床に伏せて断固拒否の構え。
そのクロを、クロイチたちが鼻で押す。
クロは床に爪を立てて抵抗したいが、そんなことをすればアンに睨まれるのはわかっているのでできない。
ずるずると床に伏せたまま、アンの前にまで運ばれてしまった。
それをアンが見ている。
どうするのだろう?
クロは伏せたままの姿勢でアンの様子をうかがったが、すぐにお座りの姿勢を取った。
諦めたのだろう。
後ろにいるクロイチたちも同じく、お座りの姿勢。
そして、普段よりもきりっとした顔で、クロは申し訳ありませんと頭を下げた。
アンは動かなかったが、クロたちも動かなかった。
長い時間が流れた。
いや、実際には三十秒ぐらいだけど。
さきに動いたのはアンだった。
「クロさん。
この子はクロさんの直接の子ではないのでしょうが、群れの長としてルールを徹底させてください」
わかりましたと、クロが改めて頭を下げる。
「では、あとはクロさんにお任せします」
アンはそう言って、部屋から出て行った。
しかし、それでもクロたちは頭を下げた姿勢のまま動かない。
アンが戻って来るかもしれないからだ。
だからダラけた姿はみせない。
これまでの経験がそうさせるようだ。
クロたちが動き出したのはたっぷり五分ぐらい経ってから。
クロが、震えていたクロの子供に向かって軽くひと吠え。
ちゃんとルールを守るように、と言った感じか。
震えていたクロの子供は弱々しく頭を下げて、部屋から出て行った。
かなり反省しているようだ。
そして、クロはクロイチたちに向けて強めにひと吠え。
こんなときばかり頼るんじゃない。
そんな感じかな。
しかし、クロイチたちは気にした様子もなく、震えていたクロの子供を追いかけて部屋から出て行った。
そんなクロイチたちにクロは大きくため息を吐き……俺を見つけた。
クロは怒ったように俺のところに来た。
すまなかった。
見てるだけでなく、助けるべきだったな。
だが、怒っているアンを相手に立派だったぞ。
ん?
足をみろ?
震えているな。
そうか、怖くないわけじゃなかったのか。
よしよし。
俺はクロの頭を撫でてやる。
そしてアンのことをフォロー。
アンはアンで、屋敷を思ってのことだ。
お前たちに恨みがあって叱っていたわけじゃないからな。
わかっている?
そうか、それじゃあ、アンに言われたように、ルールの徹底を頼んだぞ。
我慢できなかったのかもしれないが、せめて外壁はやめてほしい。
腐るからな。
そんな感じでクロを労っていると、ユキがやってきてクロを押しのけた。
クロは文句を言いたそうにしていたが、ユキに睨まれるとそのままユキに譲った。
あー、アリスたちとの言い争いでユキの味方をしなかったことに怒っているのね。
クロは、仕方がないだろーとユキに甘えるが、ユキはぺしっと叩く。
仲のいいことだ。
……
しかし、序列ってなんだろうな?
俺はユキの頭を撫でながら、そう思った。
新入り「俺は新入りですから、一番下で頑張る所存です」
若者A「ははは、冗談を言っちゃいけませんよー」
若者B「年長者は責任を取る仕事がありますからねー」
若者C「えーっと、年齢に加えて、パートナーがあの四頭ですから、これはかなり上位ですよー」
若者D「ここは思い切って、二十位以内にいっちゃいますかー」
新入り「えー」
ウノ「俺、実はお義父さんより年上なんだけど……」(クロサンに捕まるまで独身時代が長かった)
クロ「トップやる?」
ウノ「インフェルノウルフ代表として、ほかの方々と交渉するのはちょっと……アンさんとかセナさん、怖いし」
クロ「セナが怖いって、なにやったんだよ! 温厚代表だぞ、あの人!」
ウノ「生意気な山羊がいたので、締めてやろうとしたら……」
クロ「あー、あー、あー、お前、それ村長にも叱られるやつじゃん! いつの話だよ?」
ウノ「三日前」
クロ「……………………それって、俺が今から謝りにいかないと駄目なやつだよな?」
ウノ「よろしくお願いします」
お久しぶりです。
内藤騎之介です。
生きてます。
更新が滞り続けて、申し訳ありません。
状況的に十月も忙しい感じです。
すみません。
頑張ります。




