スイカと甘栗
注意!
犬に栗を過剰に食べさせてはいけません。
オルトロスのオルは魔犬なので、大丈夫です。
俺は畑を見回す。
【万能農具】で育てたということが大きいが、いい実り具合だ。
満足。
だが、反省もある。
小麦畑のど真ん中。
そこに、丸々と育ったスイカがある。
三玉ほど。
理由はわかっている。
【万能農具】で小麦畑を作っているときに、スイカのことを考えたからだ。
集中力が足りない。
それゆえ、こういったことが年に一回……いや二回……いや十回ぐらいはあるかな。
反省。
そして、この狂い咲きならぬ狂い育ちのスイカ。
夏の畑なら問題ないのだが、秋の畑なので出荷予定はない。
となると、村で消費しなければいけないのだが、数が少ないのでどうやってわけるかが……あれ?
丸々と育ったスイカの横に、妖精女王の名が書かれた札が刺さっていた。
……
畑を見張っているザブトンの子供に聞くと、妖精女王はスイカが実をつける前に見つけ、水やり等の世話をしていたと。
なるほど。
そういうことなら、ひと言ほしかったが……
まあ、世話をしていたということだし、いいだろう。
このスイカは妖精女王に渡す。
ただ、子供たちに自慢しないように注意はしておかないとな。
夏と違って、スイカの追加ができないから。
俺がそう思ったところで、妖精女王が現れた。
大勢の子供たちを引きつれて。
……
子供たちは俺の姿を見て、妖精女王を盾にした。
見事な一体感だ。
妖精女王が困っているが。
あー、何人か俺の子もいるのだが……隠れなくてもいいだろう。
畑にもまだ入っていないようだし。
それとも叱られるようなことをしたのか?
畑に入っていた妖精女王を見逃していたと……
それは確かに駄目だが、その妖精女王は君たちの盾として頑張っているのだから、それを裏切るのもよくないぞ。
まあ、攻撃するつもりはないから盾は必要ないのだけどな。
俺は妖精女王と子供たちに、スイカを渡した。
しかし、どう考えても子供たちの数に対して、スイカの数が少ないようだが、どうするんだ?
切ってわけるにしても、すごく少量になるぞ。
そんなふうに俺は心配したが、妖精女王と子供たちはちゃんと考えていたようだ。
三玉のスイカはそのまま食べるのではなく、加工してシロップにした。
そして、それをカキ氷にかける。
なるほど。
それなら量は問題ないか。
問題は……季節だな。
秋の畑の収穫が近いということは、冬が近いということ。
昼はまだまだ暖かいが、油断は禁物。
カキ氷を食べ過ぎて体を冷やさないように。
ちなみに、カキ氷は山エルフの作った機械を使って、俺が作っている。
本当に食べ過ぎは注意だぞ。
俺が叱られるからな。
妖精女王と子供たちにカキ氷を渡し終わったので、俺は屋敷に戻る。
スイカ以外の収穫はもうちょっとだけ先だ。
カキ氷を作る機械を所定の場所に置き、余ったスイカのシロップは厨房にいる鬼人族メイドたちに渡す。
無茶振りかもしれないが、料理にでも使ってほしい。
駄目なら駄目で、砂糖の代わりにすればいいさ。
……
待って。
俺からの挑戦とか課題じゃないから。
そんなに真剣に受け止めないで。
落ち着いて。
気楽に。
そう、気楽に考えてくれたらいいだけだから。
ああ、君たちへの挑戦なら、もっと量を用意するよ。
捨てるには惜しいから、なんとか使えないかなってだけ。
それだけだから。
鬼人族メイドたちにスイカのシロップを押しつけ、俺は厨房から離れた。
屋敷の応接室に行くと、ギラルとグーロンデがコタツに入っていた。
もうコタツを出したのか。
まあ、いいけど。
グーロンデは、コタツに入りながら甘栗を剥いていた。
そして、剥いた甘栗は横で待っているオルトロスのオルの左右のどちらかの口に放り込まれていく。
オルは嬉しそうに尻尾を振り、次の甘栗を期待している。
甘栗。
小さい栗で、天津甘栗の商品名でよく売られている栗のことだ。
甘栗の名の通り甘く、美味しい。
……
最初、俺が育てた栗は大きい栗だった。
それはそれで、食卓を豊かにしてくれた。
栗ごはんは美味しかった。
だが、ある日、気づいた。
小さい栗はどこだと。
正直に言おう。
甘栗は、大きい栗の成長途中だと思っていた。
まさか、栗の種類が違ったとは。
それに気づいた俺は、甘栗を願いながら【万能農具】を振るった。
しかし、よく気づけた。
自分を褒めたい。
甘栗を収穫したあと、調理で手間取った。
大きい栗の調理で学んでいたので、栗を爆ぜさせることはなかったが、普通に焼いたり蒸したりは小さいので難しかったのだ。
甘栗はどんな風に調理されていたかをなんとか思い出し、熱した石で炒る方法に辿りついた。
その際、砂糖を投入するかどうかで悩んだ。
砂糖を投入するのは、香りやツヤのため。
味が目的ではない。
だったはず。
だから、砂糖を投入する必要はない。
なのだが、砂糖は村で作っている。
ケチケチする必要はないと、投入した。
そうして炒られた甘栗は美味しかった。
ただ、炒ってからの日持ちや、剥くのにコツがいるので、村での流行りはイマイチだ。
美味しいのに。
グーロンデは、村の住人の中では甘栗を剥くのが上手い。
力加減が絶妙なのだろう。
あと、性格的なものもあるのかもしれない。
綺麗に剥けなかった渋皮を丁寧に取っている。
ハクレンやラスティは、甘栗を指ですり潰していたし、ルーやティアは渋皮に苛々していた。
あと、甘栗を剥くのが上手いのはフラウかな。
ただ、剥けない人たちから頼まれ、苦労していたが。
現在、ハイエルフたちが親指に装着する暗器を改造して、甘栗を剥く……いや、割る道具の開発を行っている。
それが完成すれば、村でもっと甘栗が流行るかもしれない。
期待だ。
山エルフたちはすでに甘栗専用の自動調理器を完成させているので、村の外に売りに行くことも検討している。
ところでグーロンデ。
オルの横で同じように口を開けて待っているギラルがいるのだが、そっちには甘栗を放り込まないのか?
ああ、喧嘩中なのね。
原因は……グラルとヒイチロウの仲に対する見解の相違と。
……
早く仲直りするように。
あと、オル。
甘栗を食べるたびに、ギラルに自慢するのは止めるんだ。
無用な争いを生む。
その後、なんだかんだと村を見て回り、夕食の時間になったので屋敷の食堂に向かった。
夕食は焼き餃子だった。
大きな皿に、焼き餃子が綺麗に並べられている。
最初は俺が作ったのだが、鬼人族メイドたちによる研究が進み、俺が作った焼き餃子よりも圧倒的に美味しくなっている。
悔しくはあるが、食事は美味しいほうがいいに決まっている。
……
あれ?
…………
厨房にいる鬼人族メイド、集合!
餃子の中に、スイカのシロップが入っているのがあるのだが、どうしてかな?
遊び心?
遊び心は大事だが、ギャンブル要素はいらない。
反省するように。
あと、スイカのシロップは何個仕込んでいる?
十個?
……
それなりの数だな。
その日の夕食は、ちょっと騒がしかった。
栗料理後期
鬼人族メイド「栗の実に傷を入れれば、爆ぜませんよ」
子供たち「えー、でも、どこにも傷がないよー?」
鬼人族メイド「栗の実の頭の部分をよく見てください。ほら、ここです」
子供たち「あー、ほんとうだー」
栗料理初期
鬼人族メイド「栗料理ですか? わかりました、盾を持ってきます」
村長「……」
すみません。
お待たせしました。