心の中のラーメン
文末を修正しました。
ただただ、妖精女王とラーメン女王の女王繋がりをいじっただけで、妖精女王=ラーメン女王ではありません。
誤解させてすみません。
俺はクラウデンのことをラーメン女王に説明すると、ラーメン女王に変な顔をされてしまった。
「食べたいラーメンの作り方を覚えたとしても、国に帰ったら役に立ちませんよ。
食材が手に入りませんから」
……
え?
そうなの?
俺の疑問に答えるように、ラーメン女王はクラウデンに質問した。
「ここにある食材、貴方の国で手に入るのですか?」
ラーメン女王は、クラウデンが食べたいラーメンを再現するために用意した食材に指を向けてる。
……
クラウデンが絶望した顔をしているから、手に入らないのだろう。
反省。
食材の入手経路の確保は、基本中の基本。
うっかりしていた。
しかし、そうなるとどうすればいいんだ?
「私にお任せください」
ラーメン女王はそう言って微笑んだ。
三日後。
五村の麓の一角で、向きあって座禅を組み、瞑想するラーメン女王とクラウデンがいた。
……
座禅って文化があったんだ。
そんな風に俺が驚いていると、二人が示し合わせたように目を開いた。
そして、立ち上がって構えるラーメン女王。
「ラーメンは心!」
応じて構えるクラウデン。
「ラーメンは愛!」
……
そのまま二人は動かず、どうしたのかなと思っていると、クラウデンが膝をついた。
「くっ、俺はまだまだ未熟です」
「己の未熟を知って、やっと一歩目です。
よくやっています」
「師匠……」
「さあ、ラーメンを食べましょう」
「はいっ!」
よくわからない。
よくわからないけど、俺は師匠の称号をラーメン女王に奪われたことはわかった。
「あ、大師匠も一緒にどうですか?」
違った。
知らないうちに大師匠に昇格してたようだ。
いいことなのかな?
あと、せっかくのお誘いだが、ラーメンを一緒に食べるのは遠慮したい。
ここ数日、ずっとラーメンだったから。
違うものが食べたい。
……
俺、そんな顔されるほど変なことを言ってるかな?
ラーメン女王がクラウデンに教えているのは、心の中にラーメンを存在させること。
うん、大丈夫。
俺も理解できていない。
ラーメン女王に五回ぐらい説明してもらったけど、駄目だった。
「大師匠は、すでにラーメンと一体になっているので、高みが違うのではないでしょうか?」
「なるほど、さすがです」
なにがさすがなんだろう?
いや、追及はやめておこう。
変なことに巻き込まれる気がするから。
あと、俺を崇めないように。
新しい宗教を始めるのもなしだ。
看板を下げなさい。
ほら、入信希望者が集まってきたじゃないか。
というか、一日一回はラーメンを食べるって、かなりハードな教義の宗教に入信を希望するんじゃない。
俺が入信希望者を追い払おうとしたが、何人かは熱意を持ってラーメン女王を説得し、クラウデンと同じ教えを受けることになった。
……
俺、関係ないよな?
これなら、ラーメン女王が教祖でいいんじゃないか?
「ラーメンを生み出したのですから、神です」
いや、俺が生み出したのではなく、故郷の料理を再現しただけで……
だめだ。
話を聞いてもらえない。
ま、まあ、宗教のことは置いておこう。
大事なのはクラウデンのことだ。
ラーメン女王が言う、心の中にラーメンを存在させることができれば、クラウデンは国に戻るのだろうか?
「ラーメンが常に心にあるわけですから、食べない期間があっても耐えることができます」
「はい。
すでに、あの大盛りラーメンを食べなくても耐えられています!
あとは距離の問題ですね……ラーメン屋から離れて、耐えられるのか……」
「心の中にラーメンがあれば、距離は無に等しくなります」
「精進します」
よくわからないが、俺はラーメン女王とクラウデンを信じることにした。
だからビーゼル。
もうちょっとだけ時間をもらえるかな。
心の中にラーメンが存在できれば、ちゃんと帰るって約束してるから。
うん、気長に待つのが正解だと思う。
え?
あと五日ぐらいでなんとかする?
ラーメン女王の頼もしい言葉を信じるとしよう。
五日後。
シャシャートの街にある港に、俺とラーメン女王、クラウデン、それとビーゼルがいた。
「師匠、大師匠。
お世話になりました」
「我慢できないときは、瞑想ですよ。
ラーメンは貴方のそばにあります」
「はいっ!」
クラウデンは二日前に、まる一日のラーメン断ちに成功。
そして昨日。
朝昼晩とラーメン三昧だった。
だからか、かなりさっぱりした表情をしていた。
「母国に戻ったら、父に魔王国との交易に力を入れるように伝えます。
その際は、師匠の名を使ってもよろしいでしょうか?」
「国同士の交易だと、私では力不足です。
大師匠のほうでなんとかなりませんか?」
俺に言われても困る。
ビーゼルに視線を向けると、ビーゼルはしかたがないとクラウデンに木札を渡した。
「私がお世話になっている商会の名と場所が書いてあります。
そこでクロームの家名を出せば、話は聞いてもらえるでしょう。
悪用防止として合言葉を決めておきましょうか」
「では、“ラーメン”で」
「できれば、もう少し使われそうにない言葉でお願いします」
「“野菜大盛”」
「よくわかりませんが、ラーメン関連の言葉ですよね?
ラーメンから離れてもらえませんか?」
「ラーメンから離れて……」
クラウデンが長考に入った。
ビーゼル、ラーメン関連の言葉を合言葉にするのは駄目なのか?
「駄目ではありませんが、それならもう少し長くしていただかないと。
単語だと、知らずに使われることがありますので」
なるほど。
それじゃあ、クラウデンが使っていた偽名を入れて……こんな感じでどうかな?
俺がアドバイスしたら採用された。
「合言葉は“クラッタンに大盛のラーメンを一杯”。
覚えました。
絶対に忘れません」
クラウデンは俺たちにそう言って、船に乗り込んでいった。
ビーゼルが転移魔法で送れば早いのだろうけど、転移魔法の有用性を見せびらかしてしまうのは得策でないと、魔王から送らないように言われているらしい。
たしかに警戒されるか。
下手をすると、向こうで誘拐事件が起きたらビーゼルのせいにされる可能性もある。
送らなくて正解。
クラウデンが乗った船が港から離れるのを確認して、今回の件は終了。
肩の荷がなくなった気分だ。
「大師匠。
一安心されているようですが、クラウデンは半年ぐらいで戻ってくると思いますよ」
え?
そうなの?
「修業期間が短いですから。
心の中のラーメンだけでは半年が精一杯です」
移動時間を考えると……
クラウデンは母国で三ヵ月ぐらいは頑張れるかな?
「それと、これはクラウデンからの迷惑料です」
ラーメン女王は、羊皮紙の束を俺に渡してくれた。
これは?
「クラウデンが調べ上げた、五村、シャシャートの街に潜んでいる密偵の情報です。
お役立てください」
……
俺はその羊皮紙の束をビーゼルに渡そうとしたら、拒否された。
面倒事の予感がするそうだ。
奇遇だな。
俺もだ。
「村長。
村の文官娘衆たちに渡してください。
あの者たちが管理しているはずですから」
そうなの?
あ、でも前にそういった話をしていたような気もするな。
「私へは、その文官娘衆たちから報告を受けるという形でお願いします」
わかった。
ともかく、いろいろと疲れたから村に戻ろう。
ああ、ラーメン女王。
今回の件は助かった。
わかっている。
報酬として、俺がラーメンの屋台を引くときは連絡するよ。
「ありがとうございます。
またラーメン関連でお困りのときは、お声がけください」
俺は村に戻って、のんびり。
収穫はまだ少し先だからな。
そうでなかったらクラウデンの件に、ここまで関わることもなかっただろうけど。
ここしばらくラーメンが続いたから、違うものが食べたい。
そうだな。
ピザにしよう。
妖精女王、デザートピザがほしいのはわかるが、焼く前のピザ生地に生クリームを乗せるのはやめるんだ。
いや、焼いたクリームも悪くはないが……たぶん、妖精女王の期待している味にはならないぞ。
お久しぶりになってすみません。
季節の変わり目のせいか、体調がイマイチな日が続いています。