文化爆弾の研究余波
現在、俺たちが観ることができる映画は二種類ある。
昔の映像記録に声をつけている映画と、最近になって撮影制作されている映画だ。
映画の完成度は、昔の映像記録のほうが上になるだろう。
なにせ、最近になって撮影されている映画は、やれること、やってみたいことを優先しているからだ。
撮影者や出演者が楽しいことを優先しており、観客を楽しませる視点が欠落しているといえる。
まあ、映像をみせる楽しさに気づけば、少しずつ変化していくと思う。
それはそれとして、昔の映像記録をみると、当然ながら昔の生活スタイルを知ることになる。
その影響が大きかったのは、料理と酒。
映像で美味しそうな料理が登場し、それを出演者が美味しそうに食べているところをみれば、あれはなんという料理だ、どうやって作っているのだと気にする者が出てくる。
酒も同じ。
あれはなんという酒だ、原料はどうなっていると気にする者が出てくる。
大樹の村では、鬼人族メイドたちとドワーフたちだった。
鬼人族メイドたちは料理の再現に挑んだ。
幸いなことに大抵の料理は見た目から材料が判別しやすく、また出演者たちの感想から味の方向性が判明したため、それっぽい料理にすることができた。
鬼人族メイドたちは満足した。
一方、ドワーフたちは苦戦していた。
見た目だけで、酒の材料はわからない。
出演者たちの感想からヒントをもらおうにも、「美味い」ぐらいしか言わない。
もっとこう、なにそれの香りがどうこうとか、一口目にガツンとくるとかの感想があればいいのだが、そんな説明的なセリフが許される映像は少なかった。
しかし、それで諦めるドワーフたちではなかった。
映像の端々からヒントをかき集めた。
酒の入っている樽や瓶のラベルに使われている記号や文字、デザインから材料を予想し、酒を出している店の雰囲気、メニュー、料理の方向性などから、味を特定していった。
……
記録映像ならそれも効果があるかもしれないが、作られた映像だと大道具係や小道具係に強いこだわりがないと空振りするぞと注意したいが、できなかった。
楽しそうだったから。
あ、ちょっと待った。
出演者の「彼女にはこの酒を」というセリフから、アルコール度数が弱いことを想定しているようだけど、逆だぞ。
たぶん、甘い系で飲みやすいけどアルコール度数が高い酒だ。
そうアドバイスしたら、「女に強い酒を飲ませるとはなんて良いやつだ」と褒めていた。
うーん、文化の違い。
次に影響があったのは、服飾。
ザブトンとザブトンの子供たちが刺激を受け、これでもかと服を作っていた。
昔の服をそのまま作るのではなく、現在に適した形に昇華した服にしているのが凄い。
普段着にはできそうにないけど。
……
ザブトン、その服は普段着にはできそうにないんじゃないかな?
……
わかった。
今日だけだからな。
しかし、帽子や眼鏡はあまり変化がないんだなぁ。
いや、廃れずに受け継がれただけかな?
そして、最後に魔道具。
見慣れぬ魔道具にルー、ティア、フローラ、そして山エルフたちが興奮。
始祖さん、ヴェルサが知っている物は用途や製造方法を説明してくれるが、二人が知らない物はどうしようもない。
なので研究が始められつつ……あれ?
ルー、ティア、フローラはなにもしていないな?
べつに欲しい機能じゃない?
そうなの?
欲しい機能であれば研究するけど、欲しくない機能の研究はしない。
また、過去に完成している物を後追いするのは研究者としてやる気が上がらないと。
なるほど。
しかし、あの生ゴミを分解する道具は便利そうだが……
スライムがいるから不要と。
たしかに。
ちなみに、山エルフたちは全力で作った。
興味がある物を。
そうして俺の目の前にあるのが電気シェーバー……もとい、魔動シェーバーがある。
かなり苦労し、資金もそれなりに投入されたが、完成して山エルフたちは満足している。
……
この魔動シェーバーは、安全に髭が剃れる道具だ。
剃る髭の長さを調整はできるみたいだが、本質的にシェーバーは髭を整える道具ではない。
剃る道具だ。
そして、このあたりに住む者で、髭を剃る者はほとんどいなかった。
ドワーフ、巨人族は、髭はあればあるほど喜ぶ種族。
天使族、ハイエルフ、リザードマン、ラミア族には髭が生えない。
獣人族、魔族、人間、ミノタウロス族、ケンタウロス族、ハーピー族は、髭は整える者が大半だ。
髭を整えて維持できるのは財力の証明なので、綺麗に剃る者はほとんどいないそうだ。
とある国では、成人男性への罰に髭を剃るというのがあるそうだ。
それぐらい、髭は剃らない。
……
俺は剃りたくても、髭がまだ生えていない。
子供も生まれているし、威厳のためにも髭を蓄えてもいいと思うのだが、俺の体はどうなっているのだろうか。
毎朝、髭を気にしなくていいのは便利だけど。
ともかく、魔動シェーバーに活躍の場がなかった。
髭剃りに使わないなら、ムダ毛剃りにどうだろうと思ったのだけど、ムダ毛を気にする文化がなかった。
うーん。
どこかで文化の改革が起こらないと、魔動シェーバーに活躍の場はなさそうだ。
しかし、投入した資金分はなんとかしたい。
山エルフたちは魔動シェーバーを改良というか分解。
魔動毛刈り機にした。
俺の知識では電動バリカンだが……山エルフたち集合。
これ、魔動シェーバーを分解して作ったわけじゃないな。
新しく作ったな。
毛刈りハサミを魔力で動くようにしただけだな?
いや、たしかに羊や山羊の毛を刈るのが楽になるだろうけど。
わかった。
認めよう。
ただし、名は魔動毛刈り機ではなく、魔動バリカンで。
あと、量産するように。
ほかの村にも渡すから。
ところで、根本的な話なのだが、なぜ山エルフたちは魔動シェーバーに興味を持ったんだ?
魔道具はほかにもいっぱいあっただろ?
肌を傷つけずに髭を剃る機能に痺れたと。
しかも、手に持てるサイズなのがいいと。
なるほど。
わかる。
更新、遅くなってすみません。