ジョローの商隊 おまけ編2
俺の名はサーモス。
サーモス・タッチホン。
生の魚を食べることに抵抗があったのだけど、食べてみるとこれはこれでありじゃないかなと思い始めている男だ。
……
この醤油という調味料、どこで手に入るんだ?
持ち帰りたいんだが?
問題が発生した。
五村に調査に向かった五人が、戻ってこない。
転移門なる装置の利用者の数を考えて、多少の遅れはあるだろうとのんきにかまえていたのだが、戻って来る予定の日から、すでに二日が経過している。
俺たちのいるシャシャートの街から五村までは、転移門を使わなくても一日で移動できる距離と聞いている。
転移門なる装置でトラブルがあったとしても戻ってないのはおかしい。
五村でなにかあったのか?
追加の人員を五村に送るべきか?
判断に悩む。
だが、俺はこの商隊の隊長ではない。
多数の派閥の人員で構成されたこの商隊の隊長は、雇われた旅商人のジョロー。
ジョロー隊長の判断に任せるとしよう。
その隊長は……あれ?
どこに行った?
いつものこの時間なら、マルーラと呼ばれる大きい食堂でカレーを食べているのだと思ったが……
仲間がいたので聞いてみた。
「隊長なら、何人か連れて五村に行ったぞ」
……いつ?
「昨日」
………………俺、聞いていないのだけど?
「近くにいた者だけで行くことにしたんじゃないか?」
なぜ、そんな勝手な行動を。
「一人で行動したら勝手な行動かもしれないけど、何人か連れて行ったんだから勝手な行動じゃないだろ?」
たしかにそうだが……むう。
「あと、俺も明日、五村に行くぞ」
目的は?
「野球観戦。
ほら、ダンとミックがやっているやつ。
明日は五村でやるから、応援に来いと言われた」
……
俺も同行していいか?
いや、野球が観たいわけじゃない。
先行した仲間を探すのと、隊長たちと合流するのが目的だ。
五村。
小さい山に密集してできた街のようだが、一瞬、巨大な城にもみえた。
計算されて作られているのか?
五村は想像していたよりも栄えている。
活気に溢れているというべきか。
人が多い。
これはシャシャートの街以上かもしれない。
目立たないように一人で行動しているのだが、失敗だった。
この村から先行した仲間や隊長たちを探すのは至難の業かもしれない。
ええい、なぜ村と呼んでいるんだ。
街でいいだろう、街で。
そう文句を言っていたら、先行した仲間と隊長たちは、すぐに見つかった。
まず、隊長たちは五村の麓にあるイベント施設で開催されていた、隠れている相手を探す遊びに参加していた。
かなり楽しんでるようだ。
隊長に同行した仲間たちは、観覧席にいる俺の姿を見ても気にせず遊び続けているからな。
遊びじゃない?
これは訓練?
そうだとしてもだな……
優秀な成績だと賞品がでる?
おいおい、貴様はそれでも栄光の第二騎士団の団員か?
賞品に目が眩むとは……五村にある美味しい店の食事券?
がんばれと応援しておこう。
わかっているよな?
仲間の物は、みんなの物だぞ。
応援したのに、賞品を獲得できない不甲斐ない仲間に失望しながら、俺は隊長たちと合流した。
隊長、街を離れるなら仲間全員に伝えていただきたい。
たとえ、すぐに戻るつもりだったとしても……伝言を残している?
あれ?
俺には伝わっていませんが?
どのように残しました?
ダンとミックに伝言を頼んだと。
なるほど。
隊長を責めたのは間違いでした。
すみません。
問題のあった二人は隣のスタジアムにいますので、殴っておきます。
ええ、例の野球です。
隊長たちの目的は先行した仲間の探索だったが、まだ見つかっていない。
残念。
とりあえず、隊長たちとスタジアムに向かい、俺に伝言を伝えなかった二人を殴ろうとしたのだが、監督と呼ばれる男に止められた。
試合のあとにしてくれと。
仕方がない。
俺は隊長たちと別れて、先行した仲間たちを探すことにした。
そして、その先行した仲間たちだが、彼らはラーメン通りなる場所で見つけた。
彼らはなぜか店員をやっていた。
色々な店で。
……
全員、集合。
はい、こっちに集まって。
店長さん、すみません。
ちょっと借ります。
あー、まさかと思うが、食い逃げの罰か?
違う?
弟子入りを希望した?
全員?
全員ね。
なるほど。
……
ごめん、ちょっと考えたけど理解できない。
弟子入り?
なにゆえに?
いいから、黙って親方のラーメンを食べてみろ?
食べろというなら食べるが……
まて。
ちらっと見たが、あのサイズだとどれだけ頑張っても、二杯までだ。
たくさん持ってこられても……小サイズのラーメンがある?
色々な味を楽しみたい人のために考案されたと。
親切だな。
わかった。
とりあえず頑張って全部食べるから……食べさせる順番で揉めるなら、クジを作れ、クジを。
ミニサイズとはいえ、五杯も食べると腹が苦しい。
弟子入りの気持ちは理解した。
たしかにラーメンは美味い。
俺だって弟子入りしたいぐらいだ。
だが、受け入れられない。
大きな声では言えないが、俺たちには使命があるはずだ!
それを忘れたのか!
とくに貴様、先人の言を守って魔王国と戦い続けよう派だろ!
弟子入りなんかしている場合じゃ……
簡単に主義を変えるな!
がんばれ!
貴様はもっと強情だったろうが!
そっちの貴様も!
魔王国と同盟すればすべて解決する派なら、魔王国との関係改善の糸口を探す努力をしろよ!
ラーメン作りを極めれば、それも可能?
ラーメンは美味いが、そこまで万能じゃない!
ただの料理だ!
あ、ごめん。
ただの料理は言いすぎた。
うん、ごめん。
ラーメン、美味しいよな。
ただの料理じゃないよな。
いや、俺もちょっと興奮したから……
あー、ごほん。
仕切り直してだ。
さすがに、いきなり辞めるとか言い出すと迷惑だろうから、少しの間は見逃すが……
十日後にはシャシャートの街に戻るように。
しぶしぶ返事をしない!
いいか、絶対だぞ。
俺との約束だからな。
よし、解散。
ん?
なんだ?
どのラーメンが美味かったかだと?
……
それ、答えると喧嘩になるやつだろ?
カレーで学習した。
だから黙秘する。
夜。
俺は五村のとある酒場にいた。
ダンとミックを殴りに行ったら、監督と呼ばれる男にまた止められ、試合後の宴会に誘われたのだ。
それで殴ることを許してやれということだろう。
面倒見のいい男だ。
まあ、殴っても俺の気が済むだけだしな。
二人も反省しているようなので許した。
おっと、宴会に釣られたわけではないぞ。
これも情報収集の一環だ。
しかし、ろくに試合を観ていないので遠慮は忘れない。
宴会の趣旨は、野球の試合に勝利したことを喜ぶことだそうだからな。
俺は会場の隅で、余った物をいただくことにする。
そう思っていたら、この宴会には試合を観ていない者も多数参加していた。
ジョロー隊長とか、ほかの仲間の姿もある。
……
俺の遠慮が小さくなっていく。
肉、美味い。
酒、美味しい。
いつの間にか、会場の隅から真ん中寄りの場所に来ていた。
おっと、注いでいただき、ありがとうございます。
えーっと……
遠方から来られた村長さん?
お若いのに大変ですねー。
ははは。
いやいや、俺は野球はほとんど……野球はあそこの二人がやっているのです。
俺はその二人の仲間でして。
商隊で働いています。
しばらくはシャシャートの街に滞在予定ですけどね。
ところで、貴方が来られると同時に縛られて連れていかれた女性がいましたが……
はぁ。
子供の手が届くところに危険物を置いたと?
それはいけませんな。
しっかりと注意しなければ。
ははははは。
俺の名はサーモス。
サーモス・タッチホン。
魔王国との交渉の窓口となる相手を探している男。
そして、朝、二日酔い対策に食べるラーメンの美味さに感動している男でもある。
次は本編に戻ります。
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