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ジョローの商隊 完結編

ブルガ    悪魔族。ラスティの侍女。

スティファノ 悪魔族。ラスティの侍女。

プラーダ   悪魔族。五村勤務。

ククルカン  ラスティの息子。


 悪魔族の女性と執事服の男性にはさまれ、監督と呼ばれる男にかばわれている現状。


 この先、どうなるのか不安で仕方がない私の名はミックだ。


 うん、本名は言わない。


 最悪を考え、ミックで通す。


 そんなふうに覚悟を決めていると、さらなる乱入者が現れた。


「この辺りで殺気を出されるのは困ります」


 声は上から聞こえた。


 なので、視線を上に向けると、建物の屋根の上に誰かいた。


 その者は屋根の上から飛び降り、監督と呼ばれた男のそばに着地した。


 背が低い……メイド?


 メイドは、まず悪魔族の女性に顔を向けた。


「五村で禁止されていることは、この街でも禁止ですよ。

 それとも、承知での行為ですか?

 村長に言いつけますよ」


 メイドの言葉に、悪魔族の女性は露骨に慌てたようだ。


 続いて、メイドは執事服の男性に顔を向けた。


「ここで暴れるということは、村長を敵に回す覚悟がある。

 そう考えてよろしいのですか?」


 メイドの言葉に、執事服の男性も慌てた。


 最後に、メイドは監督と呼ばれた男に顔を向けた。


「無茶は止めてください。

 私が村長に叱られます」


 監督と呼ばれた男は、すなおにメイドに頭を下げていた。


 このメイド、何者だ?


 強さは……どうみても、監督と呼ばれた男よりも弱い。


 しかし、この場を支配しているのはこのメイドだ。


 背の低い、幼いメイド。


 魔王国では外見通りの年齢ではないことは承知している。


 見た目通りの幼いメイドではないのだろう。


 そういえば、シャシャートの街を支配している幼いメイドの噂があったな。


 あれは本当だということか?



 幼いメイドは個別に話を聞き、状況を確認していく。


 私たちも話を聞かれた。


 おもに本に関して。


 どう話すか少し悩んだが、ここは生死の分かれ目だと本を手に入れた経緯を正直に話した。


 私たちは魔王国の外からやってきた商隊の一員。


 シャシャートの街に少し滞在することになり、暇をしているところで変なゴーレムの噂を聞き、それを探しに北に向かった。


 そこで廃墟の街をみつけ、その街の屋敷にあった本を回収したと。


 もちろん、私たちが魔王国の調査をしているのは黙っている。


 バレたら捕まるから。


 打ち合わせをしたわけではないが、ダンも私と同じように判断し、同じような話をしているので疑われることはないだろう。


「冒険者登録はされていないのですよね?

 となると、廃墟から物を持ち出すのは犯罪ですよ」


 ……


 しまったぁぁぁっ!


 そう言えば、そうだった!



 世の中には、廃墟や廃屋が無数にある。


 珍しくない。


 昔、いろいろとあったから。


 同時に、廃墟や廃屋に見える場所や建物も無数にある。


 珍しくない。


 常に綺麗な建物に住める者なんて、限られているから。


 なので、廃墟や廃屋と思って、勝手に物を持ち出すとトラブルになることが多い。


 事実、多かった。


 それゆえ、魔王国に限らず、ほとんどの国で建物の中や、敷地内から物を持ち出すのは犯罪と定められている。


 しかし、そうすると廃墟や廃屋を放置し続けることになる。


 それではいろいろと不便が生じる。


 とくに、廃墟や廃屋にある貴重な古代の品を活用することができず、泥棒が盗み出すのを待つしかない。


 それは問題だと例外が定められた。


 それが冒険者。


 冒険者として登録しておけば、廃墟や廃屋の調査名目で物を持ち出すことができる。


 当然ながら、調査前にそこがほんとうに廃墟や廃屋かを調べる必要があるので、調査前に報告義務があったり、調査後に獲得した物品の目録を提出するなどの面倒な手続きが課せられる。


 この面倒な手続きを無視すると、冒険者であっても泥棒扱いとなるぐらい、廃墟や廃屋から物を持ち出すことには厳しい目が向けられる。


 知ってた。


 知っていたのに忘れていた。


 ここがほかの国だという意識が強かったから。


 また、最初の目的は変なゴーレムを探すことだったから。


 あと、私やダンは貴族。


 軍の一員。


 軍は、正当な理由があれば廃墟や廃屋から物を持ち出しても許されるというか……


 誰も文句が言えない。


 王すら、将軍から勝利のための一手ですと言われたら、黙る。


 さすがに貴族の持ち家とかなら問題になるが、廃墟や廃屋にみえる建物なら問題にされない。


 だから……意識から抜けていた。


 私たちのやっている行為が、犯罪だと。


 失敗。


 大いなる失敗。


 ど、ど、どうしよう。


 逃げる?


 悪魔族の女性と執事服の男性の姿が視界にある。


 監督と呼ばれた男もいる。


 そして幼いメイド。


 この幼いメイド、監督と呼ばれた男よりも弱いだろうけど、私たちよりも強い……気がする。


 うん、逃げるのは無理だな。


 よし、諦めよう。


 だが、ほかの仲間は巻き込まない。


 そう決意した。


 うん、ダン以外の仲間は巻き込まない。



 まずは……謝罪だな。


「すみません。

 うっかりしていました」


 ほんとうにうっかりしていた。


「うっかりですか……

 あの廃墟の街は少し前に発見された場所で、優先権を主張するふだがあったと思うのですが、見ませんでしたか?」


 優先権を主張する札?


 そんなもの、あったかな?


「ミヨ殿。

 冒険者登録していないのであれば、札があったとしてもわからないのではないか?」


 監督と呼ばれた男が、そうフォローしてくれる。


 幼いメイドの名はミヨというのか。


 覚えておこう。


「待ってください。

 あの場所は、私共で管理している場所です。

 優先権どころか、調査する権利もありませんよ」


 執事服の男性が、そう言って話に入ってくる。


「あの場所はグッチさまが管理しているのですか?

 ドライムさまに確認しましたが、知らないと言ってましたよ?」


「ドライムさまが就任する前の話ですから。

 ブルガかスティファノ、もしくはプラーダに聞いてもらえればわかったはずですよ」


「あー、すみません。

 ブルガさんとスティファノさんはククルカンさまのお世話で忙しく、話を聞けなかったのです」


「プラーダは?」


「五村の一員と認識していたもので聞く発想に辿たどりつきませんでした」


「なるほど。

 まあ、私も少し忙しく動いていましたからね。

 お互い様ということで」


「そう言ってもらえると助かりますが……

 実は調査の先発隊がすでに出発していまして、そろそろ到着するタイミングなのです。

 あの場所に危険はありますか?」


「あそこで問題があるのは一か所です。

 その一か所を調べられない限りは、危険はありませんよ」


 執事服の男性はそう言って、私たちを見た。


 いや、私たちが持っている本を見たようだ。


「その一か所に、その本があったのですが……まあ、いいでしょう。

 その本をこちらに返していただけるなら、持ち出したことは不問にします」


 え?


 おとがめなし?


 なら返す。


 即座に返す。


 ダンもそれでいいな?


 駄目だって言っても返す。


 悪魔族の女性が文句を言っているが、幼いメイドにブロックされているので意識しない。


「ありがとうございます。

 持ち出したのはこの本だけですね?」


 そ、そうです。


「これは確認ですが……この本、読みました?」


 読みましたが、読めない字だったので……


「そうですか。

 わかりました。

 今後、あの場所には近づかないでくださいね」


 もちろんです。


 すみませんでした。




 私とダンは解放された。


 よし。


 よーし。


 この幸運に感謝!


 私は生き延びた!


 ここまで運んだ本を返したのは、正直に言えば少し惜しいが、命のほうが大事だ。


 問題ない。


 ああ、すごい疲労感だ。


 もうすぐ夜が明ける。


 それなりに時間がっていたんだな。


 宿に着いたら、すぐに寝よう。


 隊長への報告?


 変なゴーレムは発見できなかったでいいだろ?


 余計なことは言わない。


 忘れろ。


 そう、この一件に関しては全部忘れるんだ。


 でも野球は絶対にする。


 監督と呼ばれた男には、そのときに改めて礼を言おう。




 昼過ぎ。


 私はダンに起こされた。


 寝る前、絶対に起こすなと言ったのに、聞いていなかったのか?


 ん?


 どうした?


 深刻そうな顔をして。


 なにがあったんだ?


 ダンは黙ったまま、私を宿の外に連れ出した。


 そして北の方角を指差す。


 遠くに黒煙が立っているな。


 火事か?


「爆発だ。

 でもって、たぶん廃墟のあった場所」


 ……


 どうして爆発したんだとは聞かない。


 ただ、爆発したのは私が作ったオブジェだと確信できた。


 …………


 あの執事服の男性、怒るかな?


 怒るよな。


 爆発させたんだもんな。


 ……………………


 ここから、すぐに移動できる場所ってどこだろう?


「転移門と呼ばれる魔法の門をくぐれば、遠くに行けるらしいぞ。

 仲間が調べてくれていた」


 そっか。


 私とダンは、その転移門を使って逃げた。


 まあ、王都で幼いメイドに捕まったんだけどね。


 その幼いメイドも、村娘っぽい人に捕まえられていたけど、どうしてなんだろう?






 後日。


 執事服の男性からは、感謝された。


 なんでも、契約で縛られていて、自分では破壊できなかった物があの爆発で大半を破壊できたからだそうだ。


 そうですか。


 いえ、怒っていないならいいんです。


 お礼がしたいので、なにか希望はないか?


 いえ、そんなつもりは……


 わ、わかりました。


 では、あそこにいる悪魔族の女性をどうかしていただければ……


 ええ、あの爆発で貴重な品が失われたと、ずっと睨まれているんです。





ジョローの商隊は完結ですが、語りが不足している部分があるのも承知しております。

ですので、次回は「ジョローの商隊 おまけ編」の予定です。


五村に行った者や、転移門を調べた者、その他などを語れればと思います。


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― 新着の感想 ―
ミックの本名は前話冒頭でリグロン=アウエルシュタットと言っていたので書かれても問題ないかと。
[一言] なんか随分ヤクい物件だな〜
[気になる点] シャットの街は門番竜を崇める信仰があったと言うけど、それはドライムが産まれる前の話とのこと。 では、先代の門番竜は誰?
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