裁判
ベル 四村(太陽城)のマーキュリー種の筆頭。巫女っぽい恰好。四村勤務。
ゴウ 四村(太陽城)のマーキュリー種の一人。中年執事っぽい恰好。四村勤務。
ミヨ 四村(太陽城)のマーキュリー種の一人。幼女メイド。シャシャートの街勤務。
ナナ 四村(太陽城)のマーキュリー種の一人。村娘っぽい恰好。五村勤務。
イレ 四村(太陽城)のマーキュリー種の一人。魔法使いっぽい恰好。撮影命。
屋敷の中庭に急いで作られた砂利場に薄いシーツを敷き、正座しているミヨがいた。
そのミヨの正面に立って質問するベル。
「このたびの件、全て偶然の事故であったと言うのですね?」
ベルの質問に、ミヨは答えない。
答えるのはミヨの横で立っているゴウ。
「はい。
全て偶然。
偶然に偶然が重なった事故なのです。
潔白を主張します」
ゴウはミヨの弁護人のようだ。
「では、証人。
発言を許します」
ベルにそう言われて手を挙げたのは、五村で働いているナナ。
「私はシャットの街の爆発を確認し、ミヨを拘束するためにシャシャートの街に向かったのですが、すでに逃走しておりました。
このすばやい行動が故意である証拠です」
それに反論するゴウ。
「いえ、被告人は逃走したのではありません。
事態の確認のために動いただけです」
ベルはゴウの反論を受け、確認する。
「ナナがミヨを捕らえたのは魔王国の王都と報告されていますが、王都で事態の確認をしていたのですか?」
ベルの言葉に、ゴウの言葉がつまった。
そこにナナが追撃する。
「ミヨは王都にて、ウルザさま、アルフレートさま、ティゼルさまに事件の取り成しをお願いしておりました。
事故であるなら、取り成しの必要などないでしょう」
まったくもって、その通り。
「……決まりですね」
ベルはそう言って頷き、ゴウを見た。
「い、いえ、お待ちを。
ウルザさまたちに取り成しを頼んだのは、迷惑をかけたことに関して。
ただの保身行為です。
そのことによって、事故を故意であったと断じるのは早計かと思われます」
「早計ですか……
ですが、保身というならミヨは王都ではなく、大樹の村に行くべきではないでしょうか?
そうしなかったのはなぜでしょう?」
「ううっ」
「爆発を見てミヨは失敗を察し、慌てて王都方面に逃走。
追手であるナナを察知したことから、近くにいたウルザさまたちに泣きついた。
そう考えてしまうのは、私の想像でしょうか?」
ベルは優しくゴウに問いかけるが、その目は鋭くミヨから離さない。
「……これ以上の弁明は見苦しいですね。
私も被告人の罪を認めます」
ゴウは諦めた。
ミヨは絶望した顔でゴウを見た。
そして、そのまま笑い、視線をベルに戻して睨みつける。
「私は無実です!
これは仕組まれた罠に違いありません!
私を陥れようとした者がいるのです!
調べていただければ、きっとその事実が判明します!」
これまで黙っていたぶんを取り返すような大きな声。
しかし、ベルは動じない。
「わかりました。
貴女を処刑したあと、調べるとしましょう。
処刑人、連れて行きなさい」
「ま、待って、待ってください。
私は無実で……」
頭を全て覆うマスクをかぶった処刑人たちに取り押さえられたミヨは、その場から連行されようと……したところで、イレが乱入した。
イレはミヨに早足で近づき、その頭を掴んだ。
「なんだ今の演技は!
お前は無実の罪をかぶせられ、処刑されるのだぞ!
その程度の抵抗でお前は処刑を受け入れるのか!
それと、弁明を諦めたゴウにはもっと殺意を込めて睨め!
こいつも敵かと睨みつけるんだ!
お前の周りは全て敵!
その認識を忘れるな!
でもって台本修正だ!
最後のセリフなし。
そう、無実です云々のところ。
表情だけでやってみせろ」
「いや、素人にそんな難しい演技を求められても……」
「役、降りるか?」
「くっ……やります」
「よし、いい返事だ。
私の期待を超えてこい!」
イレはそう言ってミヨの頭から手を離し、振り返ってベルのところにいく。
「ベル、いい演技だったよー。
すごかった。
このまま続けたいんだけど、ちょっとだけ台本修正していいかな?
いやいや、全部こっちの都合。
ベルの演技に問題はないよー。
うん、それで最後のシーンなんだけど、ミヨにセリフなしでやらせるからそれに合わせてセリフがちょっと変わるんだ。
かまわない?
ありがとうございます!
それじゃあ、こんな感じに……」
役者ごとに態度の違うイレに対し、ミヨは主演は私なのにという顔を向けているが、イレはまるっきり気にしなかった。
このような撮影が、なぜ行われているか?
複雑じゃない事情があった。
ことの発端は、撮影でも語られているシャットの街の爆発。
先発隊に被害はなく、また爆発の理由もグッチによって解明。
俺は解決したと思っていた。
だが、そうではなかった者たちがいた。
四村のベルを筆頭としたマーキュリー種の面々。
シャットの街の調査依頼を持ち込んだミヨによる、俺への暗殺が疑われたのだ。
もちろん、ミヨはそんなことを考えもしていないだろう。
それに、万が一、本気で暗殺するなら、ミヨはあんな不確かな方法は使わないはずだ。
俺はそう言ってベルを説得し、ミヨの口から無実を説明させようとシャシャートの街にナナを派遣した。
しかし、ミヨはシャシャートの街にいなかった。
ミヨは短距離転移門を利用して王都に逃走。
王都でウルザたちに取り成しを頼んでいたことが判明し、さらにベルの怒りを招いた。
「あの娘は、昔からそういうところがありました!」
数日後。
荒縄でぐるぐるに拘束されたミヨが俺の前に引っ立てられた。
ミヨは抵抗していたが、ベルとゴウはいかような処分も受け入れますとの姿勢。
いや、あの爆発は事故だろ?
なんの罪でミヨを裁くんだ?
いや、お心のままにと言われても困るんだが……
こっちの世界の裁判って、どうやっているんだ?
ちなみに、ウルザ、アルフレート、ティゼルからミヨに対しての減刑願いが届いている。
届いているが、内容は「ミヨが無実ですと言ってました」みたいな感じ。
かばう気があまり感じられない。
もう少しミヨに優しくしてやってもいいんじゃないかな?
なんにせよ、ミヨになんらかの罰を与えないといけない空気。
空気に流されるわけではないが……
「マーキュリー種は、よからぬ疑いを払拭しておきたいみたいだから、ミヨに軽い罰を与えればいいんじゃないかな?」
ルーからそうアドバイスされたので、罰を考えた。
いろいろと考えた。
俺としては軽い罰を考えたのだが、ミヨの顔が恐怖に引きつったりしたのはなぜだろう?
今年生まれたクロの子供たちと一日遊ぶとか、罰でもなんでもない気がするのだが?
結果。
ミヨには映画の主演女優になってもらうことになった。
映画の内容は、一般的な裁判の様子を知りたい俺の要望を入れて裁判物。
罰を考えているときにやってきたイレの影響が強い結果になったと、自覚はしている。
ミヨが正座している場所に砂利が用意されたのは、ベルによるミヨへの罰なのだろう。
敷いている薄いシーツは、ゴウからの優しさ。
まあ、映画といっても八分前後の短いシナリオ。
公開も大樹の村だけなので、ほかの映画のための試験撮影の意味が強い。
「え?
外に公開しないの?」
ルーが驚いたが、村の外では公開はしない。
ミヨが悪役だからな。
そこまでの罰を与える気はない。
「でも、それにしてはイレの力の入りかたが……」
ルーに促され、撮影現場をみる。
うーん、エキサイティング。
イレよ。
監督はそこまで暴れなくていいと思うぞ。
そして、ミヨが無駄に女優魂を目覚めさせている。
そのミヨの迫力に引っ張られ、ベルやゴウがいい演技をしている。
凄いぞ。
だが、まあ、その……うん、やっぱり外には公開しない方向で。
これは村でだけ見ることができる幻の作品ということにしておいてもらおう。
空気清浄機を買いました。
花粉症が、かなり楽になりました。