夏の収穫と滅びた街
ラナノーン ラスティの娘、ドライムの孫。ドラゴン。
ミヨ 四村(太陽城)出身の幼女メイド。現在、イフルス代官の秘書っぽい仕事をしている。
夏の収穫が始まった。
村で手の空いている者と、ほかの村から応援にやってきた者たちとで、一気に進める。
ん?
子供たちも手伝ってくれるのか。
助かる。
グーロンデの言うことを聞くんだぞ。
ヒイチロウ、グラル、ラナノーンは別行動?
ああ、ドライムと一緒に大根の収穫をするのね。
よろしく頼む。
文官娘衆たちが中心となって、収穫物の種類と量をチェック。
加工が必要な物は、それぞれの加工場に輸送されていく。
年に三回あるからか、みんなの手際がいい。
俺も負けないように頑張らないとな。
収穫が終わると、俺は秋の収穫用の畑を耕さなければならないのだが、その前に収穫を手伝ってくれた者たちを労う軽い宴会。
とくにほかの村から手伝いに来てくれた者には感謝しないとな。
なので、いい部位を選んだ肉を中心としたバーベキューとなった。
もちろん、収穫したての野菜も使う。
遠慮はいらないぞ。
どんどん焼くから、どんどん食べてほしい。
ドライム、大根の煮つけは完成したかな?
おおっ、面取りから隠し包丁まで完璧だな。
ん?
ああ、ラナノーン。
面取りは野菜などを切ったあと、角を取ることだ。
こうすると煮崩れしにくくなる。
隠し包丁は、切れ込みを入れて味を染みやすくすることだ。
料理に興味があるのか?
料理はアンたちに聞くといいぞ。
ドライムの味を覚えたい?
そうか。
それじゃあ、あとでドライムに聞くといい。
うん、あとで。
いま言うと、ドライムの涙が料理に落ちるから。
俺は【万能農具】のクワを振るって畑を耕す。
【万能農具】を振っていると、あっというまに時間が過ぎる。
いや、俺が耕す速度が早くなったのかな?
……
自惚れはよくない。
【万能農具】の性能が上がったと思っておこう。
【万能農具】も誇らしげだ。
耕し終わったら、しっかり磨いてやろう。
【万能農具】は消して出せば汚れはなくなるが、感謝は態度で表さないとな。
シャシャートの街から北に進むと、鉄の森があり、その先にドライムの巣がある山になる。
そんな環境なのに、シャシャートの街から北に進むための道がある。
長年、整備もされていないだろうけど、しっかりした道だ。
この道はなんなのだろうか?
ドライムの巣に行くための道だろうか?
否。
「どうやら、シャシャートの街の北に大きな街があったようです」
そう俺に報告してきたのは、シャシャートの街で頑張っているミヨ。
短距離転移門が設置されたことで、以前より顔を見る機会が多くなった。
「大きなといっても今のシャシャートの街よりは小さいようですけどね。
場所はシャシャートの街から五日ほど北に進んだ場所。
鉄の森にはいる手前の森の中です。
数ヶ月ほど前にとある冒険者チームがその街の跡を発見しました」
へー。
「発見した冒険者チームに探索の優先権があるのですが、そこに住みついている魔物や魔獣があまりにも強く、優先権を売りに出しました」
売れるのか?
「ええ。
それで、その優先権を買ったのが、シャシャートの街のイフルス代官です。
まあ、私が言って買ってもらったのですけどね」
あまり無理を言うなよ。
「それぐらい言っても許されるぐらいには、働いていますので」
そうだとしてもだ……
「それに、代官に無駄使いをさせるつもりはありませんよ。
ちゃんと儲け話です」
そうなのか?
「はい。
そのシャシャートの街の北にある街の名は、シャットの街。
シャシャートの街よりも古くから存在した神官系の街です」
神官系の街?
「宗教関係の建物が多い街です。
門番竜を崇める信仰だったようです」
そうなのか。
そういった街が滅んだのは、ちょっと残念だな。
「まあ、滅んだのは二千五百年ぐらい前ですから」
二千五百年。
スケールの大きな話だ。
しかし、それだと門番竜は二千五百年前からあった役目なのかな?
……
二千五百年前?
聞き覚えがあるな。
えーっと……あ、箱たちが落とされた時期に合うのか?
箱たちなら街のことを知っているかな?
「はい。
そう思って箱たちに確認したら、どうやらその街に向かっていた最中に落下したのではないかと判明しました」
おおっ。
奇妙な偶然……ではないか。
そこに向かっていたから、森の上を通ったのだろうから。
「ただ、到着前に落下しているので、情報らしい情報はありませんでした」
まあ、そうだろうな。
「次に門番竜であるドライムさまに街のことを聞きましたが……
生まれる前の話なので、わからないそうです」
なるほど。
生まれていないなら仕方がないな。
「そこでドースさまやギラルさまに聞いたのですが、お二人とも生まれたときにはそんな場所に街はなかったとのことです」
ふむ。
ん?
それで、どうして儲け話になるとわかったんだ?
しかも、神官系の街って情報はどこから?
門番竜を崇めていたって話も、ドースやドライムも知らないのに。
「ヴェルサさまが知っていました。
何者かによって滅ぼされたので、財産が残っている可能性が高いそうです」
始祖さんの奥さん、ヴェルサがいたか。
しかし、何者が滅ぼしたかは不明なのか?
「ヴェルサさまは、基本的に引きこもりですので世間の情報には疎く……」
仕方がないか。
まあ、何者が滅ぼしたにしても、二千五百年前なら関係ないか。
「ええ。
それでですね、村長」
なんだ?
「調べてみませんか?
調査中に見つけた財宝は、全てお渡ししますので」
……
全部?
「はい」
それで、そっちはどうやって儲けるんだ?
「村長が調査に行けば、そのあたりの魔物や魔獣が一掃されますので、いくらでも稼ぎ方はありますよ。
第一候補は、イレが率いている撮影隊に貸し出すことですね。
街中での撮影でトラブルが起きているので、専用の場所を作って放り込みたいです」
あー、撮影専用の街か。
「滅んでいる街なら、どう作りなおしても大丈夫ですしね。
短距離転移門で繋ぐ必要がありますが、雇用対策にもなってシャシャートの街としては、推奨したい案件なのです」
なるほど。
ミヨも映画は儲かるとみているのか。
「五村で鑑賞しました。
ああいった娯楽は確実に儲かりますし、需要も続くでしょう。
手を出しておいて、損はありません」
ティゼルも似たようなことを手紙で書いていたな。
まさか、ティゼルに勧めたのはミヨか?
「逆ですよ。
ティゼルさまが私に映画を観に行くように勧めたのです」
なるほど。
「それで、調査依頼に対してのお返事は?」
ふっ。
いつもの俺ならすぐ返事していたが、今日の俺は違う。
「妻たちと相談してから、返事をさせていただく。
明日まで待ってほしい」
「承知しました。
ご検討、よろしくお願いします」
まあ、すでにミヨによる根回しがされており、俺の妻たちから反対の声は出なかったのだけど……
どんな根回しをしたのだろう?
あとでこっそりと教えてもらいたい。
更新、遅くなってすみません。
活動報告にも書きましたが、気温の変化で体調不良中です。
季節の変わり目……というにはまだ少し早いですが、用心していたつもりなのですけど、やられたようです。
急に手袋が必須になるぐらい寒くなるなんて、予想できないやい。