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新入り


 俺の縄張なわばりには、脅威きょういとなる存在はない。


 しかし、油断はしない。


 俺の住むこの森には、グラップラーベア、ブラッディバイパー、デーモンスパイダーと強敵が多い。


 俺の縄張りにいないのは、運がいいだけだ。


 俺に名はない。


 ただのインフェルノウルフだ。




 ……


 獲物を深追いしたのがよくなかったようだ。


 道に迷った。


 俺の縄張りはどこだ?


 インフェルノウルフは方向感覚がいいとか言われるが、限界はある。


 遠くにある山脈をみて、場所を確認。


 ……


 いつもは大きい山脈が、小さい。


 つまり、森の中央寄りにいる。


 まずい。


 この森は、中央に近づくほど強者が多くなる。


 少しでも離れなければ。


 ああ、もう遅い。


 巨大な熊……グラップラーベアの気配がある。


 まだ遠いか?


 逃げ切れるだろうか?


 ……ん?


 なんだ?


 グラップラーベアの様子がおかしい?


 ……


 駄目だ。


 興味を持つな。


 自分を叱責しっせきする。


 下手な好奇心は、命取りだ。


 それを理解していたからこそ、この年齢まで生き延びている。


 さっさと逃げるに限る。


 俺はそう判断し、行動した。


 だが、世の中はそう甘くなかった。


 グラップラーベアが、全力で俺の進路をふさぐように移動してきた。


 なんだ?


 俺の存在がバレているのか?


 違った。


 グラップラーベアはなにかと戦っているようだった。


 いや、逃げているというべきか。


 それを追いかけているのは……


 俺と同じインフェルノウルフ?


 その姿をみて、俺は震えた。


 格が違う。


 それも一つや二つどころではない格上。


 神々(こうごう)しさすら感じる。


 そのインフェルノウルフが、グラップラーベアに追いつき、攻撃しているが……


 当てていない?


 インフェルノウルフの牙や爪がグラップラーベアに当たる直前、動きを止めている。


 グラップラーベアの特殊能力か?


 そんなわけがない。


 なにせグラップラーベアは、攻撃されるたびに死を覚悟しているのだから。


 攻撃を止める特殊能力があるなら、あんな顔はしない。


 つまり、あのインフェルノウルフがわざと攻撃を止めている。


 なぜ?


 自分の動きの確認をしているのか?


 グラップラーベアを相手に?


 驚いている俺を無視し、グラップラーベアと神々しいインフェルノウルフは通り過ぎ去った。


 俺に気づかなかったということはないだろう。


 グラップラーベアも、神々しいインフェルノウルフとも目が合ったのだから。


 俺は恐怖に駆られ、走り出した。




 どこをどう走ったのか、あまり覚えていない。


 いつの間にか、見知らぬ場所にいた。


 近くに見知った山脈はあるが、これはいつも見ている側ではない。


 俺は山脈を越えたようだ。


 俺を育ててくれた母が言っていた。


 山脈を越えてはいけない。


 ドラゴンに殺されるから。


 ……


 森に戻るのは簡単だ。


 この山脈を越えたところに、いつもの森がある。


 それはわかっている。


 だが、体が動かない。


 あのグラップラーベアの狂ったように怒れる目を思い出して。


 あの神々しいインフェルノウルフの目を思い出して。


 ……


 あの神々しいインフェルノウルフ、えた目をしていたな?


 それにさびしそうでもあった。


 強者ゆえの孤独に、苦しんでいたのだろうか?


 ……ふっ。


 俺にわかるはずもない。


 俺はこの場でふて寝をすることにした。


 ドラゴンに殺される?


 いいさ、いつでも来るがいい。




 変な者がやってきた。


 強い。


 それは理解できる。


 たぶん、俺より強いのだろう。


 これがドラゴンか?


 違うな。


 まあ、いいだろう。


 勝負がしたいなら受けてやる。


 ここで逃げたら、俺にはもう行く場所がないんだ。


 俺は渾身こんしんの力で変な者を払った。


 けられるのを前提にした攻撃だったのだが、思いっきり直撃した。


 ……


 かなり吹き飛んだが……


 あれしきでは死なんだろう。


 相手を本気にさせてしまったかと、少し後悔したが変な者は戻ってこなかった。


 なんだったんだ?




 同じように変な者がやってきた。


 先ほどとは違う変な者だ。


 その証拠に、弱い。


 うん、確実に俺より弱い。


 なぜ、そんな弱者が俺に近づいてくる?


 ただのおろか者か?


 おい、それ以上、近づくな。


 殺すぞ。


 その変な者は、俺の放った殺気を受け止めなかった。


 さすがに許せん。


 俺は飛び掛かった。


 この距離、間合い。


 確実に仕留めただろう。


 そう思ったのだが、変な者はさらに一歩踏み込んできた。


 しかも、いつの間にか手に長い棒を持っている。


 どこから出したとか疑問に思う暇もなかった。


 俺は仰向あおむけになっていた。


 そして、弱い者に腹をまさぐられている。


 ちょ、こら、やめっ!


 体を起こし、この弱い者をみ殺せるのに、体が動かない。


 弱い者の手の動きを、体が求めている。


 馬鹿な。


 こ、こんなことに俺は屈したりはしないぞ。


 ええい、甘い声でささやくんじゃない。


 俺は怖がっちゃいない。


 仲間?


 仲間などいらん。


 俺は小さいとき、メスに追いかけられてから一頭ひとりで暮らしている。


 いまさら、仲間など……


 あ、そこ違う。


 もっと下。


 そう、そこ……あああ……体がリラックスしてしまうー。




 世の中、流されることも必要だと思う。


 うん。


 まあ、この弱い者についていけば、退屈はしないだろう。


 弱い者は、弱いからな。


 俺が守ってやるのも悪くないだろう。


 ドラゴンが来るまでのあいだだがな。


 ……


 あの、弱い者。


 最初に来た変な者の横にいるのが、ドラゴンとか名乗ってますけど?


 俺、ここで殺されるの?


 大丈夫?


 守ってくれる?


 お、大人しくしてるから、頼んだぞ。


 弱い者は弱くないのかもしれない。



 ドラゴンと名乗った者は、俺がどのあたりから山脈を越えたのかを気にしていた。


「一応、結界はあるのだが、なにせ古いからな。

 穴があるのだ」


 前々から、この辺りの結界に大きい穴があるのはわかっていたが、調べ切れていなかったそうだ。


「私はその結界をふさいでから戻るとする。

 村長は先に戻っておいてほしい」


 弱い者の名は、村長というのか。


 覚えておこう。



 俺は村長に従い、転移魔法で移動。


 どこに行くのかな?


 ……


 以前、住んでいた森でした。


 しかも、周囲の山脈の大きさから推察するに、ど真ん中だ。


 そっかー。


 えっと、俺、ここで死ぬのかな?


 大丈夫?


 本当に?


 信じるよ?


 たしかに、周囲には俺と同じインフェルノウルフの気配がたくさんあるけど、同じぐらいデーモンスパイダーの気配もあるんだけど?


 ああっ。


 無数のデーモンスパイダーの子供に取り囲まれた!


 な、なに、変な動きをしているけど?


 歓迎の舞い?


 なにそれ?




 俺はただのインフェルノウルフ。


 風呂は気持ちよかった。


 そして、魚が美味うまい。


 川の魚と違い、どろ臭くない。


 焼いた魚はさらに美味い。


 それが食えただけでも、俺は生を受けた意味があると思う。


 ……


 四頭よにんがこっちを見ている。


 見ないでほしい。








村長「新入りだ。群れにいれてやってくれ」

クロ(村長の群れだから、こっちの許可は必要ないんだけど……)

新入り(あれ? あの時の神々しいインフェルノウルフ? え? 群れの長、村長?)




前話でドライムが一緒に行ったのに、一緒に戻っていないのはワザとなのですが、村長がそれに言及しなかったからミスと思われたようで、申し訳ありません。

言及すると、説明が入ってテンポが悪くなるかなーというのと、今回の話で軽く触れるから大丈夫と思ったのです。

しかし、村長がドライムを無視したかのような感じにも取れてしまうのも事実。

加筆修正しておきます。

ご迷惑をおかけしました。

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― 新着の感想 ―
うん、まぁ種族的には二つくらい違う上位種ですけどその子孤独どころか超子沢山で軽くホームシックなだけですwww
[一言] 残念、ニアピンだったw 読み返しているけど、意外と忘れているエピソードとか曖昧なお話とかあるなぁ(苦笑)
[気になる点] 題名のルビ
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