夏の宴会
夏の暑さを感じる朝。
俺は空飛ぶ絨毯に乗って、村の畑を見回る。
自分の足で歩いてもいいのだが、空飛ぶ絨毯が乗ってほしいというので乗っている。
ちなみに、酒スライムが酒持参で同乗しているので、俺が朝から酒を飲みながら村の畑を見回っているように見えてしまうのが困りもの……ドノバンたちが優しい目で俺をみている。
違うぞ。
飲んでいるのは酒スライムだけだからな。
昼食。
酒と一緒に食べたら美味しそうな味の濃いめの物が並んでいる。
……
気遣いは嬉しいが、君たちは俺が朝から酒を飲んで、昼も飲むと思っているのかな?
いや、そんな気分のときもあるだろうけど……
ドノバン、宴会の準備をするんじゃない。
宴会っぽい昼食のあと。
屋敷に魔王がやってきた。
魔王の周囲には、虎と姉猫たち、そして子猫たちが勢ぞろいしている。
あいかわらず、仲がいい。
俺が姿をみせると、虎が俺のところに来ようとしてくれるが、姉猫たちに止められる。
これは姉猫たちの意地悪ではなく、俺の頭の上にアイギスが乗っているからだろうな。
アイギスが姉猫たちを見ても飛び立ってくれないから、このままだろう。
おっと、母猫のジュエルが俺の膝の上にやってきてくれた。
珍しいな。
ああ、姉猫たちが無茶をしないか見張るためね。
お手数をおかけします。
魔王と話をしたあと、王都の学園にいるアルフレートからの手紙が届いたので読む。
元気にやっているらしい。
フラウたちが祭りに参加したので、色々と刺激を受けたと書いてある。
ん?
ウルザより強い者がいたのか。
喧嘩をしたとかじゃないよな?
よかった。
世の中は広い。
自分より強い者なんて、山のようにいる。
慢心は駄目だぞ。
そんな感じの返事を書いておいた。
夕方。
クロとユキがやってくる。
クロのダイエットの成果はまだ維持されている。
すぐにリバウンドするかなと思ったけど、クロ自身が注意しているみたいだから大丈夫そうだ。
今日はなにをしていたんだ?
クロイチたちと一緒にプール?
そうか。
クロイチたちも喜んだだろう。
そのあと、お風呂に入って戻ってきたと。
なるほど。
プールのあとにしては綺麗だと思った。
ん?
俺から酒の匂いがする?
まあ、昼に少しな。
わかったわかった。
夕食のあとに一緒に飲もうじゃないか。
よしよし。
ところで、フラシアはそっちに迷惑をかけていないか?
クロがダイエットに成功してお腹を引き締めた結果、フラシアは新しいお腹を求めた。
以前のクロが誇っていた、ふくよかなお腹を。
だが、クロの子供たちにとってフラシアに気に入られることは、許されない事態だ。
ボディに自信があるクロの子供はそれほどでもないが、自信がないクロの子供は、フラシアを見ると逃げるようになってしまった。
そして、影でダイエットに勤しむ。
ふくよかな腹より、引き締まった腹のほうが健康的でいいかもしれないが、頑張りすぎは駄目だと思う。
ダイエットは気長に、のんびりとだ。
個人的には、多少太っていても俺は気にしない。
まあ、だから以前のクロのお腹がああなってしまったのだが……
そうか。
フラシアはあまりそっちに顔を出さなくなったか。
フラシアには悪いが、クロの子供たちの心が落ち着くだろう。
生まれたてのクロの子供たちが、フラシアの前を通る度胸試しは……
続けられていると。
見かけたら、止めるように注意してくれ。
あれをされると、フラシアがやたらとクロの子供たちに食事をすすめるんだ。
うん、頼んだぞ。
夕食。
宴会になった。
昼の宴会に参加できなかった者が多かったからな。
鬼人族メイドたちも宴会を予想していたのか、そういった料理が並んでいる。
たまにはいいけどな。
毎日はやらないぞ。
乾杯。
ん?
この揚げ物は、箱たちが衣をつけたのか。
頑張っているようでなにより。
こっちの酒は?
グラスに注がれた、何種類かの酒が層を作っているカクテル。
綺麗だ。
これも箱たちが作ったのか?
凄いじゃないか。
この技術を知って、ドワーフたちが箱を欲しがっていると。
箱たちが協力していいと言うなら、貸し出してやってくれ。
貸し出さないと、厨房でカクテルの研究をすると思うぞ。
宴会は続いているが、子供たちが食事を終えた段階で、俺は抜け出して中庭に移動。
クロとユキがついてきた。
宴会で一緒に飲んだとも言えるが、あっちは少し騒がしいからな。
中庭の一角に布を敷き、そこに座って星空を見ながら小さく乾杯。
俺はジュースで割ったアルコール度数の低めのカクテル。
クロとユキは、平皿に注いだワイン。
酒の肴は……少しだけ持ってきた枝豆。
ははは。
皮ごとは嫌か。
わかった。
ちゃんと剥いてやろう。
慌てるな。
クロ、ユキ、そして俺で順番だぞ。
翌日。
朝食を終えた俺を、空飛ぶ絨毯が五十センチぐらいの高さで飛んで待っていた。
その絨毯に、ルーが座っている。
おおっ、ルーを乗せて飛ぶようになったのか。
「ふふ、まあね」
ルーが満面の笑みだ。
かわいいぞ。
……ん?
あれ?
ルーは背に蝙蝠の羽根を出していた。
そして、よく見るとルーは絨毯に座っていない。
ギリギリ、接していない。
つまり……
ルーは独力で飛んでいるわけか。
それを証明するように、ルーが高度を下げて絨毯に触れると、絨毯はその部分を床まで落とした。
これでもかと、思いっきり力強く。
……
もう少し、仲良くしてもらいたいものである。
知らない文官娘衆「最近、フラシアさまがよく来るのよねー。懐かれちゃったかな」
知ってる文官娘衆「あー、うん、その、えっと……」
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これからも頑張ります。