閉会
イフルス シャシャートの街の代官。
チェルシー 真の勇者。女性。五村で修行中。
日が落ちたころ、五村の武闘会の表彰式が始まった。
トーナメント方式だったので優勝者は一人だと思っていたのだけど、八人もいた。
トーナメントが準々決勝で終わったからだ。
時間がなかったわけではない。
最後まで続けると俺に祝福される栄誉が一人だけになるので、八人が勝ち残った段階で終了と最初から決められていたそうだ。
消化不良感はあるが、勝ち残った八人は嬉しそうなのでよしとしよう。
俺は八人を祝福した。
……
八人、全員が俺の知らない顔だ。
青銅騎士はどうしたんだ?
白銀騎士や赤鉄騎士も。
負けたところを観ていないぞ?
確認すると、青銅騎士は二回戦を戦ったあと、見せ場は作ったと満足して棄権。
ファンを引きつれて店に戻ったそうだ。
……
仕事熱心なのは嬉しいが、いいのだろうか?
白銀騎士と赤鉄騎士も同じように棄権だった。
二人の棄権理由は、ピリカのエキシビションマッチに乱入したレギンレイヴに挑んでの負傷。
治癒魔法でなんとかならなかったのかな?
負傷は魔法で治ったけど、負けは負けだから潔く身を引いたと。
なるほど。
まあ、誰かに迷惑をかけたわけじゃないから、問題なし。
そういえばチェルシーはどうしたんだろう?
五村ではピリカと並んで強者だと思うが?
不参加?
推薦枠での参加は不公平と、一般枠での参加を希望。
しかし、一般枠での応募者が多くて抽選になり、その抽選にはずれたと。
……
えーっと、残念だったな。
次からは素直に推薦枠を使ってもらいたい。
うん、魔王とは違う意味でクジに好かれる気がするから。
表彰式を終え、武闘会の閉会を宣言しても、五村の熱気は下がらない。
明日の朝まで、祭りだからだ。
それに備え、屋台が並び、各所にテーブルや椅子が並べられている。
青銅騎士が棄権したのは、こっちに力を入れるからかな。
俺の店の各店長代理たちには、自由にしていいと伝えている。
大赤字は困るが、ある程度の採算度外視は許容とも。
なので、各店長のやる気に応じて、なにかするだろう。
細かいことには俺はノータッチ。
俺はあとで報告を受け、経費を支払うだけだ。
まあ、完全に放置は危ないので、ヨウコの部下に見回ってもらうけど。
俺は空飛ぶ絨毯と一緒に大樹の村に戻り、今度はヨウコの娘のヒトエを連れてやってくる。
ヒトエはヨウコを見つけると、走って飛びついた。
仲のいいことだ。
俺とアルフレートたちも負けていないはず。
そう思いながら、俺はヨウコ屋敷の一室に足を運ぶ。
そこにはルー、ティア、そしてピリカが椅子に座って待機していた。
細かいことは言わない。
ガルフが明確に断っているのに、言い寄り続けるのは駄目だ。
そう告げておいた。
ルーとティアも反省するように。
友人を助けたつもりかもしれないが、それはガルフの家庭を壊す行為に繋がる。
いや、たしかに壊れるとは限らない。
だが、壊れる可能性はある。
これは「理解してほしい」ではない、俺の命令だ。
俺はガルフの家庭を守るぞ。
しかし、ピリカは立ち直っていると報告を受けていたのだがな?
そうじゃなかったのか。
ん?
一度は完全に諦めた?
でも、諦めるなと諭された?
誰に?
フェアリーナ?
誰だっけ?
どこかで聞いた覚えがあるんだけど……えーっと……
シャシャートの街のパン屋の娘さん?
知らないなぁ。
イフルス代官の息子さんの恋人?
イフルス代官って、シャシャートの街のだよな?
その息子って、誰だ?
ギルスパーク?
……ああ!
マルーラで何度か会ったことがある。
そうか、そのときにギルスパークの話で、フェアリーナの名を何度も聞いた。
へー、ギルスパークとフェアリーナの結婚が本決まりなんだ?
双方の両親は許可を出していたけど、フェアリーナがパンの研究を優先して延び延びになっていたと。
なるほど。
それはおめでたい話だな。
え?
俺のところにも結婚式の招待状が届いている?
来年の話だから、まだ俺に報告が上がっていない?
そうなんだ。
で?
その結婚するフェアリーナが、ピリカに諦めるなと諭したの?
「ええ。
フェアリーナは私にこう言いました」
ピリカが目を閉じ、声真似をしてくれた。
「諦めたらそれで終わり!
諦めなかったら、いつかは成功するの!
頑張りなさい!
負けちゃ駄目よ!」
そ、そうか。
……うーん。
いや、ピリカが思い出して感動しているところ、悪いんだけどな……
その……たぶんだけど……
それ、セリフの前に「研究は」ってあったんじゃないかな?
俺がギルスパークから聞いているフェアリーナのイメージは、確実にそう言っているんだが。
魔王「仲間?」
チェルシー「ち、違う!」
今回は少し短くなりました。
すみません。