観戦
五村の麓にあるスタジアムの観客席の一角に、俺は立っていた。
偉そうな服を着て。
そんな俺の左右には、着飾ったヨウコとレギンレイヴ。
身長……俺が一番低いよな?
気にはしないが、バランスが悪くないか?
そんなことを考えているあいだに、ヨウコがスタジアムの観客席に話しかけている。
「……我らの望みは叶えられた!
今年はこの通り、村長もご覧になる!」
観客席から万雷の拍手。
その拍手をヨウコが収めると、俺の後ろに空飛ぶ絨毯がやってきた。
空飛ぶ絨毯は俺の背後に立って広がり、俺はその空飛ぶ絨毯に体を預ける。
空飛ぶ絨毯は俺を受け止めながら形を椅子のように変えていく。
椅子のような形になった空飛ぶ絨毯に座った形の俺は、偉そうに足を組む。
俺には似合わないが、事前に決められていた行動だ。
ヨウコとレギンレイヴは満足そうに頷き、ヨウコが観客に宣言した。
「五村の武闘会を開催する!
励め!」
観客席は大喝采だった。
ヨウコはああ言っているが、俺は五村で行われている武闘会を初めて観戦するわけではない。
五村の武闘会は年に何回も行われているので、俺が観る機会は何度もあった。
実際、何度か観ている。
そりゃ、最初っから最後まで観ることはないけど、観ている。
だが、それを五村の住人は認識していなかった。
普段の恰好で普通に観客席で観るのは違うのだそうだ。
それならばとヨウコに任せたら、こうなった。
空飛ぶ絨毯も椅子の形になる芸を披露したかったらしく、協力。
いや、凄いけどな。
そして楽だけどな。
空飛ぶ絨毯は形が崩れたりしないのか?
大丈夫ならいいんだが。
ああ、協力に感謝だ。
飛ぶのに疲れたら言うんだぞ。
こっそり裏に椅子を置いてもいいからな。
レギンレイヴは、春の終わりぐらいに天使族の里に戻るマルビットたちを引率するために出かけていた。
引率は途中までの予定だったが、大半の者の予想通りに天使族の里まで引率。
天使族の里でなんやかんややっていたらしく、戻ってきたのはつい最近。
今回のイベントは休んでいいと言ったのだけど、是非にと参加を申し出てくれた。
セリフのあるヨウコと違い、俺の横に立っているだけで、おもしろくないと思うんだけどな。
協力には感謝。
ありがとう。
そんなスタジアムの俺たちの近くの壁際の席で、ティアがルーに文句を言っていた。
「本来なら、レギンレイヴさまの位置は私ではないでしょうか?」
「それを言われると、私もヨウコの位置じゃないとおかしいんだけど」
「ルーさんが研究に没頭しすぎて、今回のイベントに最初っから関わらなかったから……」
「それはティアもでしょ。
私が確保した鉱物の延べ棒、いくつか消えているの知ってるから」
「ルーさんも、私の確保した鉱物の延べ棒をいくつか持って行っているでしょ。
お互いさまです」
お互いさまでも、勝手に持ち出すのは駄目だぞー。
親しき仲にも礼儀あり。
忘れないように。
ガットの確保した分に手を出さないのは褒めるけどな。
……いや、当たり前か。
五村の武闘会は、テキパキと進む。
前に観たときは、もっとのんびりしていたと思うのだけど?
そうヨウコに聞くと、
「村長に観てもらおうと、多くの参加者が集まっておるからな」
テンポよく試合を消化して、多くの者に実力をみせるチャンスを与えているそうだ。
なるほど。
おっと、知っている顔が出てきた。
青銅喫茶の店長。
青銅騎士だ。
あいかわらずのイケメンで、観客席にいる女性たちが黄色い声援を飛ばしている。
対戦相手が筋肉重視の剣士だから、余計かな?
いや、筋肉重視の剣士には筋肉重視の剣士のファンがいるようだ。
野太い声援が飛んでいる。
俺は心の中で青銅騎士を応援。
筋肉重視の剣士が嫌いなのではなく、青銅騎士にはお店を任せているからね。
しかし、露骨に片方を応援できないのは面倒だ。
試合は青銅騎士の勝利。
筋肉重視の剣士の見せ場が二度ほどあったけど、青銅騎士が誘導したのだろうとレギンレイヴが解説してくれた。
なるほど。
青銅騎士以外にも、白銀騎士、赤鉄騎士も登場。
二人とも危なげなく勝利。
対戦相手はどういった基準で決めているのだろう?
実力差がありすぎるようにもおもえるが?
……
大樹の村を見習い、クジだそうだ。
それなら仕方がない。
それに、試合はトーナメント形式。
最後のほうでは見応えのある試合になるに違いない。
エキシビションマッチだそうだ。
ピリカが登場。
衣装は和服というか、侍のような恰好だ。
剣も日本刀みたいな……日本刀だな。
「埃を被っておったのでな」
ヨウコが渡したそうだ。
相手は……二十人?
ん?
あの二十人、道着みたいな服を着ているがゴーレムだ。
ゴーレムとなればティアに解説をお願いしたいところだが……
いない。
壁際の席にはルーだけだ。
勝手に帰ったりはしないだろうから……
あの二十体のゴーレムを操っているのがティアということか。
二十体のゴーレムは個々に武器……変な光を帯びているから、魔法の武具かな? を持っている。
ルーが用意したそうだ。
得意気に説明してくれた。
ありがとう。
でも、あれだとピリカに厳しくないか?
エキシビションマッチが開始された。
さすがティアが操っているだけあって、二十体のゴーレムは達人のような動きをみせてピリカを取り囲み、魔法の武具で攻撃を開始した。
しかし、ピリカはゴーレムたちの攻撃を紙一重で避け、刀を振るって倒していく。
ゴーレムが相手の理由がわかった。
ゴーレムじゃないと血塗れになりすぎる。
腕や足が斬られるのは当たり前、首が飛んだり、胴体が真っ二つになったりだもんな。
まあ、ゴーレムだから腕や足、首を飛ばされた程度で戦闘不能にはならないのだが、そこはエキシビションマッチ。
戦闘不能でリタイヤと判定し、舞台から降りていく。
エキシビションマッチというより、ピリカの演舞みたいな感じだな。
うん、ピリカは強くなった。
そして、ピリカが元気そうでよかった。
ピリカはガルフとの件があったからな。
気にはしていた。
一応、周囲の者たちからは立ち直っている、大丈夫だとは聞いていたのだが……
その通りだったようだ。
よかった。
ガルフのことは断ち切れたのか。
俺は、ゴーレムを全て倒し、舞台に一人立つピリカに拍手をおくった。
観客席からも大きな拍手がおくられる。
……
ん?
ピリカは舞台から降りる様子をみせない?
司会進行役も、少し困っているようだ。
どうしたんだ?
「ガルフ師匠!
お相手をお願いします!」
ピリカがガルフを舞台に呼んだ。
俺がここにいるので、ガルフも会場に来ているが……あ、ガルフが舞台に立った。
ピリカがにっこりと笑顔でこう言った。
「負けた者は、勝った者の言うことを、なんでも一つ聞くということでお願いします」
……
あれ?
ピリカ、ガルフのことを諦めていない?
ま、まさかねー。
あ、こら、ピリカ、ガルフが断れないように観客席を煽るんじゃない。
舞台の周囲をいつのまにかゴーレムたちが囲んで、ガルフを降ろさないようにしている。
ティアもピリカに協力しているのか。
後ろを見ると、ルーの姿もない。
ルーもピリカ側か。
ガルフ、受けるんじゃない。
逃げるんだー!
それは恥じゃないぞ-!
試合中に乱入者を送り込み、ピリカとガルフの試合はうやむやにしておいた。
ルー、ティア、ピリカはあとで呼び出し。
お説教だ。
ヨウコ(ピリカの行動を知っていたことは伝えまい)
レギンレイヴ「二人を相手に楽しく戦えた」
赤鉄騎士「ナレーションベースだと」
白銀騎士「青銅騎士だけ描写が贔屓だ!」
チェルシー「名前が出ただけ感謝すべきですよ。ええ、ほんとうに」