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お茶ブームと五村の新施設


 紅茶、緑茶、コーヒー。


 五村ごのむらでは、お茶がブームだ。


 きっかけは俺の店である“クロトユキ”、それと“青銅茶屋カフェ・ブルー”。


 もちろん、その二店で住人にお茶を教えたということではない。


 二店がオープンする前から、お茶を飲む文化はあった。


 ただ、移住者で構成される五村では、お茶を楽しむのはひかえられていた。


 建設ラッシュの時期でもあったし、お茶を飲んでまったりするより、働いて稼ぎたいということだろう。


 誰しもまずは生活基盤を安定させたいと考えるものだ。


 その生活基盤が安定し始めたころに、“クロトユキ”と“青銅茶屋”がオープンしたのがきっかけだと思う。


 昼時にお茶を飲むことが一部の主婦層のステータスになった。


 そうなると、商魂たくましい者は屋台や店でお茶を提供しはじめる。


“クロトユキ”や“青銅茶屋”を模倣もほうした店もできたし、値段やサービスで差別化を狙った店もできた。


 提供する場所が増えると、お茶の消費がさらに増える。


 五村周辺だけでは茶葉の生産が間に合わず、商人たちは各地から茶葉を仕入れておろした。


 各地から仕入れられた茶葉はすべてが同じ味というわけではない。


 味の差別化もできた。


 こうなると、住人たちは自分の好みのお茶を探し、生活の一部としていく。


 お茶のブームは、そうそう下火にはならないだろう。



「もちろん、ブームが熱くなり過ぎないように調整はしているがな」


 ヨウコが緑茶を飲みながら、そう教えてくれた。


 場所は五村のヨウコ屋敷の一室。


 俺の趣味でたたみきの和室を目指した部屋なのだが、ヨウコに奪われた。


 まあ、気に入ってもらえたなら問題はない。


 俺はあまりこっちに滞在できないしな。


「問題はコーヒーだ。

 原料となる豆を大樹の村でしか作っていないから、値が上がりすぎている。

 それだけならいいのだが、偽物も出てきてな」


 偽物?


 タンポポコーヒーみたいな代用品だろうか?


「代用品ならいいのだが、ただの黒い水だ。

 水を黒くする方法はいろいろあるが、飲みたいと思う方法はほとんどないな。

 すみを投入したのがマシな部類とだけ言っておこう」


 ……


「ちなみに、香りだけは本物のコーヒー豆を使って誤魔化しているから、口にしてしまう。

 百人を超える腹痛者を出した。

 もちろん、そんな店は取り締まったが……追従しようとする者も当然いる」


 頭の痛い問題だな。


「コーヒー豆の増産を頼もうかと思ったが、そのタンポポとやらで代用できるのか?」


 代用できるらしいが、タンポポがあるのかな?


 一応、タンポポの根を焙煎ばいせんして、作るらしい。


「なるほど、根か。

 商人たちに研究させてみるか」


 あと、大豆とかドングリとかでも代用できるらしいぞ。


「大豆は手軽そうだな。

 ドングリは季節柄、秋か。

 ふむ」


 俺はヨウコとお茶を飲みながら、コーヒーの代用案を話し合った。




 五村はお茶がブーム。


 しかし、お茶に興味のない層もいる。


 その代表が、酒飲み層だ。


「へっ。

 上品なお茶より、俺は酒を飲むぜ」


「おう。

 茶より酒だ」


「酒さえあれば、俺は幸せだ」


 酒を提供していた店のいくつかがお茶専門店になってしまったが、お茶ブームの影響はその程度だ。


 酒飲みは、お茶ブームに関係なく酒を求めた。


「マスター、適当に酒を頼む!

 三つだ!」


「承知しました。

 では、こちらのお酒を」


「……なんだ、このお茶は?」


「緑茶とお酒のカクテル、緑茶割りです」


「……」


「続いて、紅茶とお酒のカクテル、紅茶割りです」


「……」


「最後は、コーヒーとお酒のカクテル、コーヒー割りです」


「……」


「飲まないので?」


「の、飲むけど……」


 酒飲みたちは、お茶ブームを気にしない。


 気にしないったら、気にしない。





 五村にはとある噂が流れている。


 ドワーフの隠し酒場があるという噂だ。


 しかも、ただのドワーフではない。


 エルダードワーフの隠し酒場だ。


 五村の酒飲みなら、一度はその隠し酒場に行きたいと思うものらしい。


 そのエルダードワーフの隠し酒場は、最初は地下商店通りの中にあった。


 隠れるように作られた四畳半程度のスペースで、数人の客を相手に経営されていた。


 酒場を見つけた者だけが酒を飲める場所。


 それが最初のコンセプトだった。


「地下商店通りの設計段階から隠されたスペースなんて、誰が見つけられるんだ?

 建設に関わった少数だけだろ?」


「そうだな。

 だが、俺たちは知っているから飲める」


「ふふふ。

 隠し酒場で一杯。

 いいね」


 エルダードワーフたちはそう思っていた。


 だが、酒飲みの執念を甘く見過ぎていた。


 あっという間に存在が露呈ろていし、地下商店通りにあった隠し酒場は満員御礼。


 外に行列ができる事態にまでなり、村長代行ヨウコの命令で閉店となった。


 話はこれで終わるはずだったのだが、エルダードワーフたちは諦めなかった。


 次の場所を探し、作った。


 すると、また酒飲みたちがやってきた。


 多くの者が集まり、また閉店。


 その流れを繰り返しながら、エルダードワーフの隠し酒場は続いていた。



 話は変わって、五村のふもとに新しくできた宿がある。


 普通の宿ではなく、宿の内外に水路を張り巡らせた海の種族専用の宿だ。


 客室にも大きな水槽すいそうがある。


 短距離転移門のおかげで、シャシャートの街との距離が近くなったため、海の種族の来訪が増えたことで必要となったので作られた。


 正直、短距離転移門でシャシャートの街に戻れば海まですぐなのだから、泊まらずに帰るんじゃないかなと思ったのだが……


 それなりに客が来た。


 短距離転移門の利用に時間がかかることや、宿に泊まると朝から夜遅くまで五村を楽しめるという理由があるが、一番は感動だった。


 海の種族は初めて建てられた専用の宿に、大きく感動していた。


 そして、財産に余裕のある者たちはそんな宿を潰してはいけないと、宿泊をしてくれた。


 結果、想像以上の客入り。


 嬉しい悲鳴である。



 その海の種族専用の宿の地下。


 水路の中をガラス越しにのぞけるスペースで、エルダードワーフたちは頭を抱えた。


「まさか、こんなに人気の宿になるとは」


「ここまで作ったのに……もう駄目か?」


「駄目だろう。

 だいたい、海の種族専門の宿に我々ドワーフが立ち寄っている時点で怪しい」


「ぐぬっ。

 け、計画段階では、上手くいくと思ったのだ」


「いい加減、隠さずに普通に店舗を構えたほうが楽なのではないか?

 村長に頼めば、そこそこの大きさの店を用意してもらえるだろう」


「馬鹿め。

 わかっておらんな」


「なにをだ?」


「隠しているのがいいの!」


 エルダードワーフの隠し酒場は、次の場所を求めている。






ヨウコ「ところで村長。王都でやっているアースの店にコーヒー豆を卸しているそうだな?」

村長「む、息子と娘が頑張っているので、応援の一環として……」

ヨウコ「べつに責めておらんぞ。うん、責めておらん。ただ王都からコーヒーを知っている者が来るからなー。代用品ではなー」

村長「コーヒー豆の増産、前向きに検討しよう」




すみません。

明日の更新はお休みします。


感想、誤字脱字報告、ポイント、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] コーヒー豆って象やジャコウネコの糞から豆を回収した奴の値段が高いけど、インフェルノウルフで同じ事を出来たりしないかね?w
[気になる点] >>昼時にお茶を飲むことが一部の主婦層のステータスになった。 クロトユキやカフェブルーが一種のサロン的な扱いになってきてるんだろうな
[一言] 隠しているのがいいの わかるー!
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