映画館
リアたちハイエルフの手によって、五村の麓に大きな建物が建設された。
建物の中は、百席ほどの椅子がゆったりと並べられる空間。
その空間は三階分の高さがあり、壁にはそれを証明するように二階、三階部分に区切られたブースが並んでいる。
オペラハウスみたいな造りだ。
だが、それを否定するように巨大なスクリーンがある。
つまり、この建物は映画館だ。
水晶に収められた物語を視聴するための設備を整えようと思ったら、こうなった。
ただ、映画館にしてはスクリーンの手前に不自然に掘り下げたエリアがある。
これ、大事な場所。
水晶に収められている物語には古い言葉が使われており、現代で通用する言葉に翻訳する必要がある。
字幕は文字を全員が読めるわけではないので却下。
物語の映像に合わせて、セリフをしゃべる者が用意された。
俺としては一人、もしくは男役と女役の二人ぐらいでいいかなと思っていたのだけど、文官娘衆たちがはりきった。
演劇をやっている者たちや声がいい者たちを集め、オーディションを経て、登場人物別に声の担当を用意。
彼らがセリフをしゃべる場所が必要となったのだ。
それがスクリーンの手前に掘り下げられたエリア。
ここで客席のほうを向いて声を出してもらう。
画面は見ない。
事前に訓練してタイミングを覚えるのだそうだ。
大丈夫なのだろうか?
それと声量の問題。
魔法で多少のアシストはあるそうだが、この空間に声を届かせるのは大変そうだ。
まあ、声を担当する者たちはやる気なので頑張ってもらおう。
ただ、当面は登場人物の少ない映像を選ぶようにしないとな。
翻訳も大変だし。
映画館の席数に限りがあるため、待ってもらうための待合室なども作っているが、飲食系は空間だけ用意して作っていない。
この水晶の物語の上演がどう評価されるかわからないからな。
そのあたりの評価を待ってから、どういった飲食を用意するか決める手筈になっている。
個人的に、映画はポップコーンとドリンクに憧れがあるが、映画じゃないから強制はしない。
なるべく音の立たない品を選びたいところだ。
その映画館で、一回目の特別公演。
視聴者は俺を含めた大樹の村の面々と、ヨウコが選んだ五村の代表者。
あと、魔王とビーゼル、ユーリ、それと学園長が参加。
学園長、いいの?
仕事は?
短距離転移門があるから大丈夫と。
本人がいいなら、気にしない。
では、映像を流してみよう。
映像の内容はボーイミーツガール。
と言っても、恋愛色はあまり強くない。
不意に出会った男の子と女の子が不思議な体験をしながら仲を深めていく物語。
最後、男の子と女の子は離れ離れになるが、ラストカットで再会するサプライズもある。
水晶の映像を全て見たわけではないが、俺としては一押しだ。
だから反応が気になってこの特別公演に参加したわけだが……
声の演技がよかった。
それに追加で流されたサウンド。
楽団も準備されていたのか。
というか、元の映像には音声やBGMが入っているが、今回の公演に邪魔にならないように絞るから、BGMも絞られてしまい、それを補うために用意されたそうだ。
オリジナルは映像のみになってしまうが、悪くなかった。
大きい画面で観ているのもあるだろうけど、声と音楽の力に、圧倒された。
俺、個人としては悪くなかった。
ほかの者の反応はどうだろう?
……
ざわざわしているな。
よかったのか悪かったのか、わからない反応は困るのだが……
急遽、一時間後に二回目の公演を行うことになった。
ほとんどの者がそのまま二回目の公演も観たので、興味はあるようだ。
え?
一回目は見方がわからなかった?
そうか、演劇とは違って、映像はシーン転換が一瞬だからストーリー展開が早いしな。
まあ、ゆっくりと慣れていってほしい。
数日後。
「大至急、別タイトルの翻訳をお願いします」
文官娘衆が俺にそう言ってきた。
最終的に評判がよかったらしい。
映画館は噂を聞いた者たちが押し寄せているそうだ。
そういうことなら、もう一本ぐらいは協力するけどな。
その次ぐらいは、箱たちに翻訳の仕事を譲りたい。
あと、映画館内の飲食施設のほうを進めてくれ。
売上が見込める。
クロが戻ってきた。
十日ぶりだろうか。
大半の者の予想を覆し、クロは痩せていた。
クロらしからぬ精悍な佇まい。
ユキが二度見したぐらいだ。
驚いた。
そして、失敗するとか思っていてすまなかった。
頑張ったみたいだな。
味噌を持って行ったと聞いたときは駄目だと思ったのだが……
ん?
どうした?
クロが俺の前にやってきて……思いっきり甘えてきた。
な、なんだ?
……一人で生活して楽しかったのは最初だけで、あとはずっと寂しかったと。
でも、すぐに戻ったら、また馬鹿にされると思って、必死に頑張ったと。
そ、そうか。
よしよし。
よく頑張ったな。
まあ、これからは無理しない程度の飲み食いと、適度な運動を忘れないように。
このまま甘やかしてやりたいが、汚れたままだとアンの機嫌が悪くなるから、とりあえず風呂に入ってこい。
ああ、ちょっと温度が高めだけど……どうした、アン?
汚れたクロに甘えられて俺も汚れたから風呂に入るべきと。
わかった。
クロ、一緒に風呂だ。
行くぞ。
そしてフラシア。
クロは目の前にいるぞ。
探さないように。
村長「活動弁士(無声映画をおもしろおかしく解説をしてくれる人)でいいんじゃないの?」
文官「そんな技術を持つ人なんていません」
村長「今回のは……公演、上演、どっちなんだろうか?」
文官「どっちでもいいんじゃないですか?」
アン「賭けに……負けた……だと」(キャラ崩壊)
グランマリア「イエスッイエスッイエスッ!」
クーデル「グランマリアは、ギャンブルでは逆張りするのよねー」
村長「俺の皿から、グランマリアの皿にエビフライ一本が移動ー」
ルー「私のお皿から、グランマリアのお皿に唐揚げ一つが移動ー」
ティア「わ、私のお皿から、グランマリアのお皿にハンバーグが移動ー……メインディッシュを賭けるなんて……反省」
コローネ「ティアさまは、ギャンブルでは本命に大きく張るスタイルだから」
感想、ポイント、ありがとうございます。
誤字脱字の指摘、助かっています。
これからも頑張ります。




