在園生が出迎えた
私は学園の生徒です。
名前は勘弁してください。
ええ、名乗るほどの者ではありません。
ごく普通の貴族の家に生まれたごく普通の貴族令嬢の一人です。
なので、名など覚える必要はございません。
はい、そっとしておいてください。
私は学園で目立たず、ごく普通に過ごしていくつもりなのです。
そう思っていたのに、この事態はなんなのでしょう?
見知らぬ生徒……たぶん、古参の生徒から声をかけられ、派閥のリーダーを呼ぶように言われたのが始まりです。
しかも、数を揃えろと。
本来なら、そのような怪しい呼びかけに応じたりはしないのですが、雰囲気が普通ではありませんでした。
なので、話だけはと派閥のリーダーであるアルフレートさまに伝えようと思ったのですが、アルフレートさまはもうすぐ行われる祭りの準備で出かけており、いたのは派閥のナンバーツーであるウルザさま。
ウルザさまに伝えると、ウルザさまは少し考えたあと人を集めました。
祭りの準備作業を中断させてまで、集める必要があるのでしょうか?
いえ、ウルザさまの判断は滅多に間違えません。
それが正しいのでしょう。
ウルザさまは五十人が集まった段階で、さきほどの古参の生徒のところに向かいました。
もちろん、私もその集められた人数に含まれています。
そして目の前で行われる不思議なダンス。
なにをやっているのでしょうか?
フォーメーションを覚える?
三種類ある?
それぐらいならなんとかしますが……どうして指示されなければいけないのでしょうか?
ウルザさまが従っているので、従いますが。
え?
これ、卒業生によるマナーチェックなんですか?
つまり、あの男装の一団は卒業生と?
そんな馬鹿な。
そう思いたいのですが、男装の一団に王姫さまがいました。
なるほど、卒業生なのは間違いないようです。
そして、男装の一団とウルザさまたちのやりとりも、マナーチェックっぽいそれらしいものに。
わかりました。
とりあえず、続けます。
相手の出したお題に対し、それに合った挨拶を返せばいいのですよね。
これぐらいなら、問題なくできます。
ごく普通ですが、貴族の一員ですから。
不思議なもので、続けていると状況が見えてきます。
男装していても、ちゃんとドレス姿で挨拶する女性の姿が。
シチュエーションなども、細かく身振り手振りなどで教えてくれていますし、それほどむずかしいことではないのかもしれません。
ああ、こちらのフォーメーションで、シチュエーションを伝えるのですね。
なるほどなるほど。
ルールがわかってきました。
そう思っていたら、急にわからない問題がでました。
なに?
あの動き?
「へい、お待ち。
お熱いですよ」
なにを言っているの?
困惑してしまいます。
ですが、慌ててはいけません。
そう、貴族は慌てない。
冷静に先ほどの動きを思い出し、分析するのです。
あの動き。
かすかに記憶にあります。
どこでしたか……
美味しい匂いの記憶が……
はっ!
あれは五村のラーメン通りでみた店主の動き!
そこまで思い出せば、相手のお題が理解できました。
ラーメンが目の前に出されたのです。
これをどう食するか。
スープを一口飲むか、麺から食べるか、具から食べるか。
動きから大盛系ではないと判断できるので、麺を上に出す必要はないので、ここは……
違います。
これはひっかけ問題です。
危ないところでした。
幸運なことに、私にはラーメンに詳しい者が知り合いにいます。
その者に誘われ、五村のラーメン通りに行ったのですから。
そして、その者に教わっています。
「ラーメンの食べ方は自由」
つまり、ここで正しいマナーは……
手を胸の少し上ぐらいで合わせ「頂きます」のコール。
髪の長い人は、手を合わせる前に髪を縛りましょう。
どうですか!
……
よし、正解!
生き残った!
そんなこんなで、卒業生との交流が行われました。
まあ、最後までなんとか残れたのは、ちゃんと授業を受けていたからでしょう。
あと、シャシャートの街や五村に行った経験も大きかったと思います。
転移門でシャシャートの街や五村が近くなったことには感謝です。
そして、ウルザさまは卒業生の一団と顔見知りだったのですね。
あれ?
それなのに、途中で失敗したのですか?
あ、いえ、戦場での高級士官の捕虜に対しての挨拶の仕方なんて、知らなくて当然ですよ。
私は父が軍に勤めていますので、話に聞いていただけで……
ウルザさまはそのあたりを習っていたのに、間違えたのですか。
そうですか。
すみません、助けられません。
しっかり叱られてください。
私は卒業生を出迎える宴会の準備で忙しいのです。
祭りの準備も忙しいのにと思いましたが、卒業生たちの実家から応援を出してもらえるので、その歓迎も含めての宴会だそうです。
手が抜けませんね。
あと、学園長。
マナーチェックへの飛び入り参加はありがとうございます。
逆襲パートでの攻勢はお見事でした。
あれで卒業生二人をリタイヤさせられたのは大きいです。
その点には感謝しますが、宴会に参加するなら手伝ってください。
はい、教師とか生徒とか関係ない場のようですから。
私はちらりと厨房の片隅でジャガイモの皮を剥く魔王さまと王姫さまに目をやります。
お二人とも妙に手慣れているような気がしますが、気のせいですかね?
まあ、手慣れていないよりもいいことです。
あ、学園長は皮剥きではなく、完成した料理をテーブルに運ぶ役でお願いします。
いえ、料理の腕がどうこうではありません。
必要な場所に必要な人材を送り込んでいるだけです。
ははは。
私の名など覚える必要はありません。
ただの生徒です。
在園生「ルールがわからん」
古参「慣れろ」
在園生「理解がおいつかん」
古参「考えるな、感じろ」




