箱の中 前編
さて、次の箱にはなにが入っているのかな?
三番の箱をオープン。
ここには、たくさんの小箱が入っていた。
小箱の中身は色々あったが、全て錬金術の調合に使う道具だそうだ。
落下時の衝撃で壊れた物もいくつかあるが、気にせずルーとティアが全て確保した。
使うならかまわないが、ほかの者が使いたいと言ったら貸すようにするんだぞ。
……
いまさらだけど、この箱の中の物って俺が好き勝手にしていいのだろうか?
拾得物として届け……届ける先がないか。
それに、少なくとも二千五百年前なら、持ち主も生きていないだろう。
いや、そうとも言い切れないか。
始祖さんやプラーダは二千五百年以上、生きているって話だからな。
悩んでいたら、アンがアドバイスしてくれた。
「これらは収穫物として扱っていいかと」
「収穫物?
拾得物ではなく?」
「はい。
森で手に入れる草と同じです」
なるほど。
それでいいのだろうか?
少し考えて、冒険者がダンジョンで道具を拾って自分の物にする感じだと、納得した。
気を取り直して、四番の箱を開ける。
ここには毛布やシーツなどの布類が入っていた。
前の持ち主が普段使いしていたものらしい。
“つまらない物で、すみません”
いやいや、なにがどう活用できるかわからないからな。
とはいうものの、染みや汚れが目立ち、お世辞にも綺麗とは言えない。
正直に言えば、使いたいと思わない。
生地もそれほど高級品というわけでもない。
二千五百年以上前の品ということで、歴史的価値はあるのかもしれないが……
倉庫行きだな。
そう思っていたら、ザブトンの子供たちが真剣な表情で布類を見ていた。
欲しいのかな?
そうみたいだ。
倉庫に放り込むより、使うほうがいいか。
布類は希望するザブトンの子供たちに渡した。
「雑巾用に何枚か……」
鬼人族メイドがそう言うが、さすがにそれは箱に悪いから。
“気にしませんよ”
不吉な番号を気にしないことからもわかるが、四番は大らかな性格だな。
ザブトンの子供たちは雑巾にしやすい布を数枚、鬼人族メイドに渡してくれた。
すまない。
五番の箱を開ける。
ここには大きな瓶に詰められた砂が入っていた。
残念ながら半分ぐらいの瓶が割れている。
これも落下の衝撃だろう。
半分で済んだと考えるべきだろうか。
瓶毎に砂の種類が違うようだが、割れた瓶の砂は箱の底で混ざってしまっている。
ん?
代わりの瓶なり皿なりを入れてもらえれば、そこに砂を入れる?
混ざる前の状態で?
分けられるのか?
すごいな。
無事な瓶と割れた瓶を取り出し、割れた瓶の数だけ皿を箱に入れる。
そして蓋を閉じ……開けると、見事に分けられていた。
おおっ、凄いぞ。
ちなみに砂は、錬金術の材料。
詳しく調べないと種類は特定できないが、これもルーとティアが確保……ガットが待ったをかけた。
鍛冶に使える物がいくつかあるらしい。
なるほど。
話し合うように。
ガットはわかりましたと、ドノバンを味方にしてルーとティアを相手に交渉を開始した。
数を揃えるために応援を呼んだのはわかるが、なぜドノバン?
鍛冶に理解があって、ルーやティアに対抗できそうなのがドノバンと。
たしかに。
話し合いは当事者に任せて、七番の箱を開ける。
木材。
いや、折りたたまれた家具のようだ。
箱から取り出し、展開するとテーブルや椅子になった。
なかなかコンパクトな作り。
勉強になる。
そして頑丈。
壊れた物なし。
これは山エルフたちに渡そう。
いい刺激になると思う。
十番の箱を開ける。
少しずつ太さの違う鉄の棒が複数と、割れたガラス。
割れたガラスから推察するに……これは組み立て式の天体望遠鏡。
うん、やっぱり。
三脚っぽいものもある。
割れたガラスは対物レンズだな。
横から覗くタイプか。
接眼レンズは無事のようだ。
中の鏡は……ああ、ヒビが入っている。
残念。
五村の職人に頼んで、対物レンズと鏡を作ってもらわないといけないな。
ん?
対物レンズの予備がある?
中の鏡も?
昔から壊れやすい部分だったと。
なるほど。
こっちの保護箱の中ね。
おおっ、予備がいっぱい。
それに接眼レンズの予備……じゃなくて、倍率が違うレンズか。
こういうのはワクワクするな。
三脚は魔道具で、定めた星を追尾する?
高性能!
使ってみて、よかったら子供たちに見せてみよう。
そう思っていたら、いつのまにかやってきていたハクレンが組み上がっている天体望遠鏡をそのまま外に持ち出し、子供たちを集めて見せはじめた。
今日は雲が少なくて、星が見やすい?
最初は月を見せる?
二つの月の模様の違いが楽しいと。
ほう。
……
興味がないと言えば嘘になる。
しかし、俺を待っている十二番以降の箱が……
“いいんです。
行ってください”
“私たちは待つのが仕事ですから”
“森の中の放置された時間を考えれば、たいしたことありませんよ”
お前たち。
……
すまない。
ちょっと星を見たら、すぐに戻るから。
箱の中を調べるのは少し中断。
俺も天体望遠鏡で星を楽しんだ。
再開。
十二番の箱を開ける。
歪な形の棒……杖かな?
魔法使いが使いそうな杖だ。
魔石っぽいのがくっついたのがあるし。
それが……三十本あるな。
折れた物はなさそうだ。
これはルーとティアにと思ったけど、まだガットたちとの話し合いが続いているらしい。
なので保留。
十五番の箱をオープン。
小箱がいっぱい。
三番と同じようだけど、中はまた違うのかな?
少し開けてみたけど、ブラシ、タオル、コップ、木皿、靴、手袋、帽子?
前の持ち主の生活用品や衣装っぽいな。
箱に入っていたから綺麗だけど、どれもこれも使い古されている。
ただ、この毛皮のマフラーは新品のようだ。
買ったばかりなのかな?
見たことのない動物の毛皮のようで、少し惹かれる。
ルーかティアに説明を求めたいが……まだ無理そうなので、保留。
使えそうな食器類はアンが確保して、鬼人族メイドの一人に洗うように指示していた。
十七番の箱を開ける。
本がぎっしり。
箱に聞くと、錬金術や魔法関連ではなく、ただの読み物らしい。
そっちのほうがありがたいかな。
ただ、書かれている文字が俺以外に読めないから翻訳を求められると大変そうだ。
“現在、使われている文字で書かれた本を何冊か入れていただければ、私が勉強して翻訳しますよ”
……
できるの?
“はい。
時間はかかりますが、できます。
なぜなら、私は賢い箱ですから”
頼もしい。
“ただ、翻訳した内容を書く紙とペンとインクをご用意していただく必要はありますので……”
それぐらいなら、任せてくれ。
翻訳、期待しているぞ。
“はい。
おまかせください”
十七番の箱は、元気に蓋を開けて返事をしてくれた。
そして、ほかの箱たちから文句が出た。
“お前だけ先に仕事をもらうなんてずるいぞ!”
“翻訳なら私にだってできます!”
“あいつは昔っからアピール上手だったんです”
“森にいた間も、本があったから退屈しなかっただろうしな”
あー、落ち着くように。
喧嘩は駄目だぞ。
それと、俺はお前たちにもいろいろと頼むつもりだ。
慌てなくていい。
ああ、嘘じゃない。
十七番の箱にだけ先に仕事を振ったのは俺が悪かった。
お前たちには、それぞれの希望を聞いて働く場所を考えようと思っていたんだ。
“希望?”
“私たちの希望を聞いてくださるので?”
働くなら、やる気の出る場所のほうがいいだろ?
“おおおっ、さすがは私たちのマスター!”
“働く場所、考えてみます”
うん、ゆっくりとな。
俺は、まだ見てない箱の中を確認しないといけないから。
お久しぶりになって、すみません。
タイトルからわかる通り、今回で全部の箱を開けれませんでした。
すみません。
現在の箱の状況
1 空飛ぶ絨毯の作り方が書かれた魔導書
2 枯れた草×いっぱい
3 錬金術の道具×いっぱい
4 布類×いっぱい
5 瓶に入れられた砂×それなりの数
7 折りたたみ家具×それなりの数
10 天体望遠鏡
12 魔法使いの杖×三十本
15 生活用品や衣装
17 本(読み物)×それなりの数
18 未確認
20 未確認
21 未確認
22 未確認
4051 未確認
未確認分は次回で。