枯れた草
屋敷に戻り、十五個の箱と面談。
……
面談?
まあ、会話できるし、面談でいいか。
とりあえず、箱に一番から十五番のナンバーをふっていく。
最初に発見した箱が一番だ。
番号を板に書いて立てかけていく。
あとは適当に……発見した順にするから、ナンバーを奪い合わないでほしい。
え?
不吉なナンバーは避けてほしい?
何番が不吉なんだ?
十五までだと、四と六と九と十三?
けっこうあるな。
ん?
お前は不吉な番号でもかまわないと。
あー、わかった。
各自、好きなナンバーを自己申告するように。
区別できればいいんだから。
結果。
一番、二番、三番、四番、五番、七番、十番、十二番、十五番、十七番、十八番、二十番、二十一番、二十二番、四千五十一番。
……
かぶらなければ問題ない。
問題ないが……
四千五十一番の箱よ。
それは意味のある番号か?
思い出の数字とか?
違う?
普通に選んだ番号と。
……そうか。
普通に選んで四千五十一番か。
俺はお前のことが少し心配だな。
いや、周囲に流されない確かな自分を持つのはいいことだ。
しかし、世の中には流れというものがある。
協調性というやつもだ。
素直に二十三番、もしくは三十番、大きくても九十九番までにしておくのが無難ではなかろうか?
“無難に生きることに意味を感じない。
俺は俺のやり方で生きる……”
そうか。
ならば仕方がない。
認めよう。
四千五十一番。
番号を書く板のスペース的に、四桁は厳しいから小さくしてもらいたかったが、大きい板を用意しよう。
あ、こら、それなら私もって追従するんじゃない。
君たちの板はもう書いちゃってるから諦めて。
別にずっとその番号で呼ぶわけじゃないんだから。
疲れた。
しかし、まだ箱にナンバーを振っただけだ。
本番はこれからと思ったのだが、夕食の時間ですと鬼人族メイドに呼ばれた。
すまない、食事休憩だ。
あー、箱はなにか食べる必要があるのか?
“光や風、温度などからエネルギーを得ることができます”
“ただ、魔石をいただけるのであれば、とても嬉しいです”
“小さい魔石でかまいませんので”
なるほど。
森の魔物や魔獣たちからとれる魔石を、一つずつ箱の中に入れておく。
“こんなに大きな魔石を!”
“ほ、本当に食べていいのですか?”
遠慮するな。
なんだったら、おかわりもいいぞ。
“おかわり。
なんと甘美な響き”
“私の仕えるべき主はここにいた”
大げさな。
じゃあ、夕食をとってくるから、少し待っててくれ。
“何百年でも待ちますよ。
実績がありますから”
ははは。
そういった忠犬系の話はやめて。
泣けるから。
夕食。
みんなと食べながら、箱を発見した経緯を詳しく説明。
ルー、食事中は魔導書を読まない。
文字が読めないから、読んでない?
見てるだけ?
いつまでも拗ねないの。
ほら、子供たちが真似するから。
食事を終わらせたら、箱の中をチェックする予定だ。
興味あるんだろ?
よし、それじゃあ、しっかり食べよう。
ところでクロ。
今日の食事は量が多くないか?
これぐらい食べられる?
いや、そうじゃなくてだな……
俺の視線がクロのお腹に向いたことで、クロはダイエットを思い出したようだ。
さっきまで食事に喜んで振られていた尻尾が、下がっている。
食べるなと言っているんじゃないぞ。
食べ過ぎに注意だ。
あと、酒。
うん、飲んでるよな?
専用の平皿で。
いいんだぞ。
飲んでも。
ただ、これも飲みすぎに注意だ。
わかったならいい。
せっかく用意してもらった食事や酒を無駄にするのも悪いしな。
明日から頑張れ。
俺がそう言ったら、横にいたユキから甘やかさないでと怒られた。
すまない。
食後。
俺、ルー、ティア、アンの四人で箱の中をチェックする。
一番の箱には空飛ぶ絨毯の作り方が書かれた魔導書が入っていたわけだが、ほかの箱はなにが入っているのだろうか?
さっき魔石を入れるときに少し覗いたけど、わからない物が多かったからな。
よし、やっていくか。
あ、一番は横で待機。
これから開けていく箱の中に入っている物の説明をしてくれると助かる。
開けた箱に聞くのが一番早いのだろうけど、中を確認している最中に蓋を開け閉めされるのは少し困るからな。
では、二番の箱を開けてみた。
枯れた草がぎっしり。
箱には中の物を保存する機能があるんだっけ?
だったら枯れた状態でいいのかな?
“マスター、すみません。
私たちには保存機能がありますが、時間を止められるわけではありませんので、数百年ものあいだ植物の乾燥を防ぐのは厳しいです”
一番の箱が説明してくれる。
そうか。
いや、いいんだ。
二番の箱は、これまでよく頑張ったな。
俺は二番の箱の蓋を閉じ、少し考える。
数百年と言っていたが、この箱たちはどれぐらい森にいたんだ?
一番の箱に聞いてみた。
“すみません。
長期の睡眠モードに入っていたので、どれぐらいの時間が経過したかは私たちではわかりません。
ただ、植物の成長ぐあいから数百年は経過しているだろうなと判断しました”
そうなのか。
ここでルーが、手を挙げた。
「魔導書に使われている文字の様式から、二千五百年から三千五百年ぐらい前だと思うわよ」
なるほど。
文字が読めないのに、様式はわかるのか?
心の中で質問。
文字じゃなく、模様として覚えていたのかもしれない。
自分で回答。
余計なことは口に出さない。
出さなかったのに、ルーに軽く叩かれてしまった。
心が通じ合っていると喜ぼう。
ともかく、箱が落とされたのは少なくとも二千五百年前。
となると中身も二千五百年前。
草が枯れるのも仕方がない。
枯れた草は残念ながら処分……
あれ?
下に種が落ちているな?
枯れた草の種だろうか?
枯れる前には実が成っていて、それが乾燥して種だけになったとか?
植えたら育つだろうか?
二番の箱が大事に保管していたものだ。
今度、チャレンジしてみよう。
とりあえず、いまは種を大事に保管。
あ、二番の箱が種を集めてくれた。
ありがとう。
あれ?
二番しか開けられなかった。
次の話では一気に残りの箱を開けたいと思います。