ただの箱がこちらを見ている
●人物紹介
クエンタン 喋る剣。死霊魔導師の相棒。
謎の箱を発見したことを村に連絡したあと、俺は箱から少し離れた場所でのんびりと休憩。
あの箱、見てると開けたくなるからな。
適当な木を切って椅子にし、着席。
うん、俺に一番近い場所をクロとユキが自然と占領。
その次に近い場所をクロイチ、アリス、クロニ、イリス、ウノ、クロサン、クロヨン、エリスがキープする。
もう少し若手にも譲ってはと思わなくもないが、クロたちはクロたちで秩序があるのだろう。
それを乱すようなことはしない。
頭を撫でるのも順番。
そうやってクロたちと時間をつぶしていると、村からの先発隊であろう鬼人族メイドたちが数頭のクロの子供たちを護衛にやってきた。
鬼人族メイドたちが持ってきているのは、食材と調理器具のようだ。
そろそろ昼食の時間か。
クロの子供たちも尻尾を振って期待している。
昔は昼食を食べなかったクロの子供たちも、なんだかんだで昼食を食べるようになったからな。
……
クロが太った理由はこれか?
いや、太ったのはクロだけだ。
クロイチたちは太ってない。
やはり運動量か。
昼食を楽しんでいると、ルーたちがやってきた。
そして、俺から箱の情報を聞き出してくる。
いや、発見の経緯は説明できるけど、箱の情報は自分の目で見たほうが早くないか?
すぐそこだぞ?
危ない?
いや、たしかに罠の可能性はあるが……違う?
存在が危ない?
まず、木の根に絡まれるぐらい時間が経過しているのに錆びていない。
これで魔法関係とわかる。
つぎに、どうしてここにあるか?
死の森は、四千年ぐらい前から存在しているといくつかの文献から推察される。
そして、昔から死の森は死の森。
どんな時代でも死の森。
そこにある箱。
危険な香りが充満しているとルーが少し青い顔で説明してくれた。
「村から離れているとはいえ、最悪の事態を考えると困るわね」
ルーの考える最悪は、箱に古の悪魔とかドラゴンが封印されていること。
凶悪な悪魔とかドラゴンが死の森で封印されたという伝説は多いらしい。
「でも、それって大半が創作よ」
ドラゴンを代表してハクレンがそう言う。
なんでも、物語の結末で強すぎる敵をなんとかするため、死の森が多用されているそうだ。
なるほど。
それで、必要以上に死の森が怖がられているのかもしれない。
俺はハクレンの言葉に安心したが、ルーはしなかった。
「……大半が創作。
つまり、一部は本物があるってことでしょ?
これまでの経験から、ここでハズレを引くとは思えないのだけど」
どうしたルー。
クジを前にした魔王みたいになっているぞ。
そして、どうしたみんな。
なぜ俺を見る?
ドノバン、村長だからなぁとか、諦めた声を出すんじゃない。
不安になるだろう。
なんだったら、あの箱を埋めなおすか?
箱の中は気になるが、全員を不安にさせてまで開けることはない。
無理?
箱の存在を認識してしまったから、放置は一番の悪手?
この場でなんとかするのが一番いいって……そんなものなのか?
そんなものらしい。
とりあえず、箱を開ける方向で話は進んだ。
ルーの考える最悪を予想し、ドース、ギラル、グーロンデ、ラスティを呼ぶ。
ちなみに、ルーの考える最良は宝箱姿の魔物だそうだ。
魔物でやっかいそうだが、最良の理由はその場で倒しても、なんの憂いもないからだと。
古の悪魔とかドラゴンだと、その場で倒すと憂いがあるのかな?
あるそうだ。
面倒は避けたいなぁ。
ところで、箱には鍵穴があったけど、鍵がかかっているかどうか調べられる人、いる?
……
誰もいなかった。
これは五村の冒険者ギルドから、鍵を開けられる人を連れてきたほうがいいかな?
すまないがガルフ、頼んでいいか?
「えっと……村長。
その、鍵を開ける人を探すなら冒険者ギルドではありませんよ」
……え?
そうなの?
俺のイメージだと、冒険者が鍵を開けるイメージなんだが?
「鍵を勝手に開けると犯罪ですから、冒険者はそういった依頼を引き受けません」
……
たしかに。
え?
じゃあ冒険中に鍵のかかった宝箱を見つけたとき、冒険者たちはどうするんだ?
「箱を壊して開けます」
……
なるほど。
「話を戻して……鍵を開ける人を探すなら鍵屋ギルドです」
鍵屋ギルド?
そんなのがあるのか?
「はい。
ただ、鍵屋ギルドに開錠を依頼する場合は、持ち込みになります。
こういった場所に連れてくるのは無理かと」
つまり?
「冒険者と同じように箱を壊すのが一番かと」
そうか。
ハクレンが石を握っているのは、それが理由か。
箱に対し、投石攻撃が開始された。
ハクレンの全力なら、当たれば一撃だな。
おっと、惜しい。
もっと丸い石のほうがいいかな?
俺は【万能農具】で大きい石を整形し、ハクレンに渡す。
あれ?
箱が動いた?
「やった!
宝箱姿の魔物だ!」
ルーが喜ぶ。
つまり、あの箱は魔物か?
ハクレン?
ああ、箱が動いて避けられるから、避けられない距離まで近づくのね。
が、がんばれ。
ハクレンは投げた石がなかなか当たらないから、いらいらしているようだ。
ん?
ハクレンが投げる構えをとったら、箱が勝手に開いた。
「ルー?
あれは?」
「降参かな?」
「なるほど。
って、ハクレン。
ストップ、ストップ!
相手、降参してるから!
石を投げないように!」
俺は慌ててハクレンを止めた。
箱がこちらを見ている?
いや、目があるわけじゃないけど。
それでルー。
これは宝箱姿の魔物なのか?
「残念だけど、消化器官がないから違うみたい。
ただの箱かな」
ただの箱が石を避けたり、蓋を開けたりするだろうか?
「クエンタンと同じよ。
インテリジェンス・ソードならぬ、インテリジェンス・ボックスね。
宝箱姿の魔物じゃないから、中もちゃんとあるし」
ルーが箱から、装飾の凝った大きな本を取り出した。
魔導書だとルーが小躍りしている。
安全かどうかはちゃんとチェックするように。
それと、この箱。
インテリジェンス・ボックスなら会話できるのか?
無理?
意思疎通はできないのか?
ああ、蓋の開け閉めでイエス、ノーを表現させるのか。
俺は箱の蓋を閉じ、聞いた。
「会話する意思はあるか?
イエスなら蓋を開ける。
ノーなら蓋はそのまま」
蓋がゆっくり開いた。
おおっ。
冒険者ギルド「鍵を開ける技能を持つ人いるけど、見せびらかすと泥棒扱いされるから」
鍵屋ギルド「出張開錠をしないことで、泥棒扱いを回避」
盗賊ギルド「こっそり出張開錠を引き受けてます」