運用開始
グラッツ 魔王国の四天王の一人。ミノタウロス族。
ロナーナ グラッツの奥さん。ミノタウロス族。
フラウ 正式名、フラウレム。ビーゼルの娘。
フラシア 正式名、フラシアベル。村長とフラウのあいだの娘。
ユーリ 魔王の娘。
俺は丸く焼いたパンの切れ込みに、少量の刻んだキャベツとコロッケを詰め、ソースをかける。
完成、コロッケバーガー。
それをザブトンが食べた。
俺は丸く焼いたパンの切れ込みに、焼きそばを詰め、刻んだショウガを散らしマヨネーズをかける。
完成、焼きそばバーガー。
それをギラルが食べた。
先日のピクニックのときには、コロッケや焼きそばを作る時間がなかったので用意できなかったのが心残りだったので作ってみたのだが、ザブトンとギラルが気に入ったようだ。
気に入ったのはわかるが、作ったそばから食べるのはやめてもらいたい。
達成感が消えるから。
いくつか積み上がった状態を見て、ここまで作れたんだなと……
わかった、食べてくれ。
ただ、全部食べないように。
ほかにも欲しがる者がいるだろうからな。
ピクニックに参加できなかった魔王とか。
今日の魔王は、少し機嫌がいい。
たぶん、短距離転移門関連の問題がなんとかなったからだろう。
短距離転移門の運営に関して抵抗していた村々の裏に、いくつかの商会が絡んでいた。
言葉巧みに村長や村民を誘導し、短距離転移門の運営に反対させ、それを説得するから短距離転移門の事業に参加させてほしいという目論見だったそうだ。
設置には抵抗させず、運営に抵抗させるのは質が悪いな。
……いや、ただ単純に設置に抵抗することが間に合わなかっただけかな。
なんにせよ、王都のダルフォン商会がその目論見を暴き、叩き潰して、短距離転移門の本格運用にもっていったとビーゼルが満足そうに報告してくれた。
一応、俺も短距離転移門の出資者だから、本格運用は歓迎だ。
これで、王都との往来が楽になる。
その気になれば、すぐにウルザたちに会いにいける。
これは大きい。
そう喜んでいたら、困った事態も発生していた。
大樹の村から五村に行き、そこから短距離転移門を使って王都に通勤していたグラッツ。
これまで試験運用だったため、短距離転移門を通るための待ち時間は、ほぼゼロ。
そのため、屋敷から大樹のダンジョンまでの移動時間、大樹のダンジョン内での移動時間、それと大樹の村に繋がる転移門が設置された小山の頂上にあるヨウコ屋敷から短距離転移門が設置された五村の麓までの移動時間の合計が通勤時間だった。
俺の体感で一時間ぐらい。
しかし、短距離転移門が本格運用されると、それぞれの短距離転移門を通るために手続きや検査が必要となり、短距離転移門の通過待ち時間が発生。
通勤時間が大幅に増えてしまった。
俺の体感で二時間半ぐらい。
これは厳しい。
往復だと五時間だ。
ロナーナは、グラッツに毎日通う必要はないと言ったのだが、グラッツは大樹の村が実家だと主張。
ロナーナの顔を毎日見られないなら、軍を辞めると言い出した。
結果、ビーゼルの転移魔法による送り迎えが再開された。
そんなビーゼルを癒すのが、最近のフラウとフラシアの仕事だ。
まあ、さすがにこのままではビーゼルがかわいそうなので、解決策を考えている。
まず、ヨウコ屋敷にグラッツとロナーナの部屋を用意し、そこで寝泊まりするようにすすめた。
ロナーナはヨウコ屋敷から大樹の村に移動し、仕事をする。
グラッツはヨウコ屋敷から王都に移動し、仕事をする。
ロナーナに負担がかかるが、これはロナーナの希望でもある。
そして、グラッツの移動時間を少しでも早めるため、ミノタウロス族でも乗れる巨大な馬の確保を考えている。
ただ、ゴロウン商会のマイケルさんにお願いしている段階なので、確保はまだ少し先になるらしい。
俺にできるのはこれぐらいだろう。
あとは魔王たちが、軍所属の者は転移門を優先的に通れるなどの仕組みを作って、頑張ってもらいたい。
……
フラウがなにかビーゼルに言いたそうにしている。
すまないが、我慢してくれ。
まだ計画段階だ。
解決策として、一番最初に出た案。
大樹の村のダンジョンから、王都への直通の転移門の設置だ。
残念ながら、それにはまだまだルーの研究が必要なので、目途が立つまでは表に出さない。
下手に期待させても悪いしな。
知っているのは俺、ルー、ティア、フラウ、アン、それとザブトンぐらいだ。
あ、そういった話の最中、横にいたクロやユキも知っているかな。
フラシアにべったりなビーゼルを引き離すためにも、直通転移門の開通には期待している。
そういったグラッツの問題はあったが、短距離転移門の本格運用は利用者たちから好意的に受け止められている。
なにせ馬車で三十日の行程が、数時間で済むのだ。
行商人だけでなく、これまでほかの街に行ったこともない者も、ちょっとした観光気分で利用している。
王都、シャシャートの街、五村はそういった観光客が増え始めたが、予想された宿不足にはならなかった。
泊まるより、帰るほうを選んでいるらしい。
これも短距離転移門の利用料を不要にした効果だろう。
各地で建設中の宿のオーナーが不安そうな顔をしているそうだ。
俺も五村で宿を数軒、建設するように指示したが……
問題はないそうだ。
ある日。
ユーリとフラウ、そして文官娘衆たちがドレスで着飾り、屋敷のホールに集まっていた。
ユーリが指を鳴らす。
フラウがそれに続いて指を鳴らした。
文官娘衆たちも続いて指を鳴らす。
そして、指を鳴らしながら移動開始。
?
上品な歩き方ではなく、チンピラみたいな歩き方だ。
なんなんだろうと思っていたら、ユーリたちが歌いながら踊り出した。
ほんとうになんなんだろう?
いや、見覚えはある。
ミュージカルだ。
わからないのは、なぜそれを練習しているのかだ。
俺と同じようにユーリたちの様子をみていたアンに聞いた。
「ユーリさまたちはこのあと、魔王国の王都で行われるお祭りの見物に行きますよね?」
ああ、そうだな。
短距離転移門のお陰で、王都までの距離が近くなった。
そこで、文官娘衆たちに王都で行われる祭りを見せたいとユーリが誘い、俺が許可した。
文官娘衆の大半が、大樹の村に来てから外に行っていないからな。
「そこで行うパフォーマンスだと聞いております」
祭りでなにかやるようにと、誰かから要請されたのか?
「いえ、貴族学園の卒業生として舐められないためだそうです」
…………
こっちの世界に慣れたと思ったが、まだまだのようだ。
世の中、理解できないことが多い。
ちなみに、俺も王都の祭り見物に誘われたが、遠慮した。
ラスティとデートみたいなことをしたので、ほかの奥さんたちの順番待ちが発生しているからだ。
今日の予定はルーになっている。
コロッケバーガーと焼きそばバーガーをもって、どこに行こうかな。




