住人に太った者はいない
ラスティ ドラゴン。ドライム、グラッファルーンの娘。
ラナノーン ラスティの娘。
ククルカン ラスティの息子。
ブルガ 悪魔族。ラスティの侍女。
スティファノ 悪魔族。ラスティの侍女。
フラウ 魔族。ビーゼルの娘。
大樹の村にいるクロの子供たちは、いくつかの仕事をしている。
その仕事の中で、果樹エリアの警備をするという仕事があるのだが、どうにもクロの子供たちのあいだで評判がよろしくない。
なぜなら、警備なので侵入した外敵を倒さなければいけないのだが、魔法は果実や木を傷めるので使用できない。
木を蹴ったり、ぶつかっても駄目。
なので機動力が大きく削がれる。
その上、果樹エリアの花や実の匂いで鼻が利きにくい。
簡単に言えば、クロの子供たちが警備するには向かない場所なのだ。
そのことに俺が気づいたのはつい最近。
警備はクロの子供たちの自主性に任せていたからというのは言い訳だな。
申し訳ない。
そして、クロの子供たちに代わり、ラミア族に果樹エリアの警備を任せることになった。
「この果樹エリアには、何人たりとも手を出させません!」
ラミア族の気合は十分のようだが、しばらくはお試し期間ということで無理せずに。
あわなかったら、あわないと言ってかまわないからな。
それと、果樹エリアを警備するザブトンの子供たちや、兵隊蜂とも仲良くやってほしい。
ザブトンの子供たちは基本的に木の上と上空を担当。
兵隊蜂は果樹エリア内を遊撃している。
ラミア族はラミア族で警備体制を考えてもらえると助かる。
クロの子供たちと同じことを求めたりはしないから。
種族の特性にあった警備を頼む。
ああ、当面はクロの子供たちも数頭残るから、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。
それじゃあ、任せたよ。
「はっ!
お任せください!」
……
まあ、果樹エリアに限らず、大樹の村の外周をクロの子供たちが巡回警備しているから、果樹エリアの中で戦闘になることはめったにない。
これを伝えるかどうかで少し悩んだけど、下手に伝えて油断されるよりは緊張感をもって挑んでもらいたい。
ラミア族に果樹エリアを案内したついでに、蜂たちの様子をみておく。
最近は蜂のための小屋作りもハイエルフたちに任せていたが、かなりの数になっているな。
そして、活動が激しい時期だからだろう。
多くの働き蜂たちが小屋を出入りしている。
うん、俺が来たからって活動を止める必要はないぞ。
気にせず、いつも通りに……
ん?
隊列で文字を作るとは、賢いな。
えーっと……ああ、例の女王蜂がダイエットを頑張っているから、褒めておいてほしいんだな。
任せておけ。
わかってる。
あの女王蜂とは長いつき合いだ。
調子に乗らないラインを見極めて褒めておくよ。
たしかあの女王蜂、太り過ぎて巣から出られなくなり、兵隊蜂たちから火攻めを囁かれてダイエットに励みだしたんだよな。
太るのは悪いことだとは思わないけど、日常生活に支障がでるのは避けてほしい。
ほかの病気のもとだ。
その点、大樹の村の住人は太った者が少ない。
……
あれ?
ドワーフは太り気味だが、それは種族の特徴だと聞いている。
ドワーフを除けばミノタウロス族や巨人族に、少しふくよかな者がいる程度だ。
太った者が少ないというか、太った者がいない?
これはどういうことだ?
この世界の者は全体的に太りにくい体質……いや、五村やシャシャートの街では太った者がいた。
女王蜂ですら太るのだ。
太りにくいということはないだろう。
となると……
まさか、この村の食事の栄養価が低いとか……
「食事には満足しています。
太らないことを心配されているようですが、訓練に狩り、大工作業と、この村の住人はなにかしら常に体を動かしていますから、余計な場所に肉がつくことはありませんよ」
屋敷に戻ってダガに聞くと、そう笑われた。
そうか。
栄養価が低いとかでなくてよかった。
いや、逆に余裕がないということか?
休みは自主的にとるように言っているが、かえって休みにくくなっているとか?
俺が休むように伝えたほうがいいのだろうか?
「いえいえ、その必要はありません。
現状で、健康的な肉体を維持できているということですから」
そう言ってもらえると安心する。
しかし、そうか。
村の住人はなにかしら動いているか。
そう言われればそうだな。
ハイエルフたちは狩りに行くし、獣人族の女の子たちも牧場エリアで動き回っている。
鬼人族メイドたちは屋敷内で誰よりも働いているし、山エルフたちですら畑仕事の手伝いは欠かしていない。
……あれ?
文官娘衆の女の子たちは?
彼女たちも働いているが、基本はデスクワーク。
あまり動かない。
「努力していますから」
文官娘衆を代表してフラウに聞いたら、笑顔で教えてくれた。
そして、その笑顔には、これ以上深くは聞かないようにとの圧力があった。
だからこの話題は止める。
止めるが一点だけ確認。
貴族って太っているほうが裕福みたいなイメージがあるんだけど……
「人間の国ではそういった風潮があるそうですが、魔王国では強さが重視されるので男女関係なく戦える肉体が求められます。
ですので、太っている体はあまり歓迎されません。
一部、例外的に太っているほうが立派とする種族もいますが……王都周辺には見かけませんね」
なるほど、よくわかった。
少し落ち着こう。
深呼吸。
すー、はー。
とりあえず、村の住人の健康、食事に問題なし。
休むときはちゃんと休んでいる。
子育てに関しても周囲の者と協力しているので、一人で悩んだり苦労することもない。
とりあえず、慌てて俺がなにかをする必要はなし。
よし。
お茶にしよう。
ふう。
お茶が美味しい。
そして、いつのまにか俺と一緒にお茶を飲んでいるラスティ。
ラスティも俺とは違う意味で落ち着いたな。
少し前までのラスティは娘のラナノーンの子育てを、なんでもかんでも一人でやろうとしていた。
ラスティの身の回りの世話をしているブルガ、スティファノですら、あまりラナノーンに近づけなかったぐらいだ。
もちろん、俺も父親として協力しようとしたのだが、やんわりと断られた。
ライメイレンから、初めての子を産んだドラゴンは大抵ああなると教えられていなければ、深く落ち込むところだった。
まあ、そのラスティも二人目となるククルカンを妊娠してからは、ラナノーンに対する執着が減少し、ブルガやスティファノ、そして俺の協力を求めることが多くなっていった。
そのあたりを確認してからラナノーンの面倒を見にきていたドライムとグラッファルーンには、文句を言うべきだろうか。
いろいろと手伝ってもらったけど。
そして、ククルカンを出産したあとのラスティは、ラナノーン、ククルカンに対して執着を少しみせたが、いまはドライムとグラッファルーンに子育てを任せている。
基本、ラスティがラナノーンとククルカンの面倒をみるのは日が落ちてから。
それまでは、村の住人として仕事をしている。
「村長。
お茶を飲んで落ち着いたところで仕事の話です。
五村の周囲にある村々に魔獣が出没して、家畜に被害がでているそうです」
五村の周囲での魔獣退治なら、冒険者たちの仕事だろ?
「そうなのですが、魔獣の数が多いらしく冒険者たちも苦戦しているようです。
このままだと冒険者ギルドから泣きが入るだろうから、そのまえに動きたいとヨウコさんから」
なるほど。
ガルフとダガを五村に派遣してほしいわけだ。
「二人が駄目なら、魔王国の王都に行っているゴール、シール、ブロンの三人でもかまわないと言ってました」
短距離転移門があるとはいえ、さすがにゴールたちを呼び戻すのは心苦しい。
ガルフとダガに話を持って行って、駄目なら俺が行くよ。
「……村長がですか?」
駄目か?
五村の周囲に出る魔獣たちなら、それほど強くないんだろ?
「その通りですが……
ではそのときは私もお供します」
そうだな。
ラスティと出かけるのも珍しいから、そうするとしようか。
まあ、ガルフとダガが断ったらだけどな。
二人なら断らないだろう。
そう思っていたのだが、ガルフとダガに断られた。
どうした?
二人して体調不良か?
いや、ガルフはともかくダガはさっき会ったとき、元気だったよな?
ところで、なぜ俺と目を合わせない?
俺の後ろ?
ラスティ、断れオーラを出すんじゃない!
書籍化作業で、今週は更新が厳しそうです。
すみません。
隙をみて書きます。