水鉄砲とグラス
2020/08/24
圧縮→圧力 に修正。
グラスに関しての表現を変更しました。
2020/08/31
圧力→加圧 に修正。
巨大なカラス、巨大な白鳥、黒鳥、それと巨大な孔雀夫婦が帰った。
このまま村に住み着くのかと半分ぐらい思っていたので、びっくりだ。
まあ、カラスと孔雀夫妻はいろいろと仕事があるらしい。
白鳥、黒鳥は暇だけど、カラスが言って村から連れ出した。
ありがとうと言うべきかな。
黒鳥はまた来てもいいぞ。
フェニックスの雛のアイギスは別れを寂しがっているが、鷲は久しぶりにアイギスを独占できてうれしそうだ。
さて、その巨大なカラスが迷惑料として渡してくれた綺麗な石。
これはミスリルと呼ばれる魔力の篭った鉱石だそうだ。
加工次第で重くなったり軽くなったり、硬くなったり柔らかくなったりする便利な鉱石。
また、魔力の増幅器としての用途もあるので、世界中から求められている。
だが、鉱石の数がかなり少ない。
それに、加工する技術は一部のドワーフしか持っていないとのことだ。
つまり、村にあっても漬物石にするぐらいしか役に立たない。
「加工する技術を持つドワーフというのは、エルダードワーフのことだ」
……
エルダードワーフのドノバンがそう言うのだから、間違いないのだろう。
かつてのエルダードワーフはこのミスリルを扱う鍛冶職人集団として存在していたが、ミスリルの数が減って仕事としてやっていけなくなったので酒造り職人集団に転職したそうだ。
だが、ミスリルを扱う技術を捨てたわけではない。
酒造りの技術を伝えるついでに、ミスリルを扱う技術も伝えている。
そんなエルダードワーフたちの子孫であるドノバンたちは、ミスリルを扱う技術を持っているそうだ。
おおっ。
それじゃあ、このミスリルはドノバンたちにパス。
「……いいのか?」
いいのいいの。
好きにしちゃって。
加工できる者が持っているのが一番だろう。
夏が近づいてきた。
少し早いが、プールの準備が始まる。
だが、プールの清掃や水を入れる作業はリザードマンたちが引き受けてくれた。
ありがとう。
しかし、だからといってなにもしないのも悪い。
そこで、俺は竹筒に穴をあけた手押し式の水鉄砲を作った。
小さな子供たちの遊び道具としては、ちょうどいいだろう。
大人の遊び道具としては、少し物足らないだろうけどな。
それに関しては、山エルフたちが頑張ってくれるだろう。
さっきから、威力の向上とか射程の向上とか話し合っているから。
翌日。
山エルフたちが大量に竹を使って作った水鉄砲を、笑顔で俺に見せびらかしてきた。
……
あれは水鉄砲なのかな?
違うよな。
長い竹筒を六本まとめた砲身は、ガトリング砲のようだ。
しかも使用者は魔石を何個も使った動力と水タンクを背負っている。
試射してみた。
プールサイドに置いた無数の木の板が、けたたましい音とともに吹き飛ばされていく。
うん、砲身が回転して水弾が何発も飛び出しているから水鉄砲だけど、水鉄砲じゃない。
ガトリング砲だ。
それなりに大きい背中の水タンクがあっというまに空になり、試射は終わった。
そう思ったら、なにやら竹筒をプールに伸ばした。
そして、レバーを数回、キコキコと動かすと弾がまた発射されだした。
プールから水を補給することで、魔石の魔力が切れるまで連続で発射できるらしい。
なるほど。
使用禁止。
ええっ、じゃない。
吹き飛ばされた木の板は、ほとんどが割れてるだろう。
人に向ける威力じゃない。
いや、技術のすごさは理解するぞ。
給水、加圧、発射の行程を各砲身単位でやって発射サイクルを短くしているんだよな。
初期案のハンドルを手動で回す方式だったことに拘らず、魔石を動力にした点も見事。
けたたましい発射音と回転音は改善点だが、静かにあの威力を発射されても恐怖だから残しておいてもいいだろう。
……くっ。
死蔵させるのは惜しい。
子供たちも試射を見て大喜びしているしな。
だが、危ない。
そんな俺の肩を叩いたのはドースだった。
ドラゴンの姿のドースに向け、ガトリング砲が発射される。
ドラゴン姿であのガトリング砲の連射を受けても、痛くないらしい。
ほどよい刺激なうえ、鱗の汚れが落ちていいそうだ。
山エルフに誘われた子供たちが、ドースに乗って喜んで発射している。
悪くない使い道だとは思うが……周辺が水浸しだな。
場所をまだ水を張っていないプールに変更。
存分にやってくれ。
ただし、ドラゴン以外には向けちゃ駄目だぞ。
それと、ドラゴンたち。
ドラゴン姿で列を作るのは、やめるように。
あのガトリング砲で体を洗うのは、一日に一人……一頭が限界だと思う。
翌日。
山エルフたちが高圧洗浄機みたいな水鉄砲を作り、ドラゴンたちの体を洗っていた。
それは許す。
だが、誰だ?
ドラゴン姿のヒイチロウに巨大なガトリング砲を装備させたのは?
あれ、水弾で森の木を揺らしているぞ。
いや、三十秒も連射すれば魔石が尽きるとか、そんな欠点を聞いているわけじゃないんだ。
たしかに勇ましくてかっこいいけど。
ドラゴン姿のヒイチロウが水と魔石をちまちまと再装填して、撃てるものを探しているじゃないか。
どうするんだ?
ええい、適当な的を作るしかないか。
ヒイチロウ、それを使っていいのは今日だけだからな。
あと、撃っていいのは的だけだ。
人に向けて撃っちゃ駄目だぞ。
ドラゴンに向けるのも駄目。
後日の夕食のあと。
見慣れないグラスに注がれた麦酒がでてきた。
……
軽い。
このグラス、ガラス製ではないな。
ひょっとして、ミスリルか?
「うむ。
中の温度を常にキープするミスリルグラスだ」
ドノバンがそう説明してくれる。
つまり、冷たいものは冷たいまま。
温かいものは温かいままになるのか。
便利だな。
「全部で十七杯、作れた。
全て献上しよう」
ありがとう。
では、一杯を俺専用に。
六杯をドワーフたち専用に。
残り十杯は村の共有財産ということで。
「ありがたき幸せ。
それと、これは余りで作ったおまけだ」
ミスリル製のコルク抜き。
なにか効果があるのかな?
「いや、ただのコルク抜きだ。
これも献上しよう」
ははは、ありがとう。
だけど、これはドノバンたちが持っているほうが似合うだろ。
そっちで管理するように。
好きに使っていいよ。
「うむ。
感謝する」
ところで、さきほどから視線を感じるのだが?
ガットが物陰からこっちを見ている。
いや、ガットだけじゃないな。
ルーやティアもだ。
そして、見ているのは俺ではなく、ドノバンとミスリル製品だ。
たぶん、ミスリル加工に関して色々と聞きたいんだろう。
「作るところは隠さず、見せたのだがな。
まあ、酒飲みの話でよければ、聞かせよう」
ドノバンはやれやれといった表情をしながらも、ミスリル製のグラスと酒樽をもってガットたちのところに向かった。
お手数をおかけします。
ドノバン エルダードワーフ。村の住人。酒好き。
ガット 獣人族。ハウリン村の村長の息子。大樹の村に移住してきた鍛冶屋。