パレード中盤
パレードは続いているが、俺の出番はまだもう少し先。
なので風呂上りのまったりタイムをもう少し満喫する。
ん?
ポンドタートルたちが、俺に向かってやってくる。
どうした?
ああ、空中に放り投げた件を謝りに来たのか。
気にしなくていいのに。
なんだかんだ言っているが、それなりに楽しかったからな。
さらわれる原因になった?
あれは事故だろ。
誰も予想できないさ。
それに、たしかに危ない状況だったが、あの鳥たちに殺気はなかったからな。
本気で危ない状況なら、天使族やドラゴンたちが飛んで来てくれるだろうけど、そうじゃなかった。
だから俺も落ち着いていた面もある。
それでもザブトンの子供たちが来てくれたのは嬉しかったが。
まあ、とにかく気にしなくてもいい……気にするなら、パレードを頑張ってくれ。
これから出番だろ?
俺が前座演出で水面に飛び込んだことからわかるように、今回は水関係の演出が多い。
そのため、ポンドタートルたちの出番がそこかしこにある。
そして、ポンドタートルたちはその出番を聞いてから、かなり熱心に練習していた。
それを無駄にすることはない。
俺も見ているから、頑張るんだぞ。
パレード中盤。
俺が乗る予定の櫓がため池の中から登場。
……
ビッチョビッチョだけど、これに乗るの?
風呂に入って、すっきりしたところなんだけど?
魔法を使える者たちが総出で乾燥させるから大丈夫って……その気づかいは嬉しいけど、それなら水中から出てくるところを省略すればよかったのでは?
いや、ポンドタートルたちの作った渦から、せり上がる櫓はかっこよかったけど。
子供たちも大興奮だったのは認める。
うん、リザードマンたちも水中とはいえあの櫓を持ち上げるのは大変だったろう。
わかった。
省略すればよかったは取り消す。
見事な演出だった。
ポンドタートルたちの綺麗な水上行進のあと、いつもの天使族による急降下爆撃。
貯まり続けるクロたちの角を消費していると思えばいいか。
天使族に続いて、ドラゴンたちによる空中行進が開始される。
見慣れているが、ドラゴン姿での低空飛行は大迫力。
ドースとライメイレン、ギラルとグーロンデ、ドライムとグラッファルーン、マークスベルガークとスイレン、クォルンとセキレン、ドマイムとクォン、ヒイチロウとグラル。
夫婦で並んでの行進のようだが……まだヒイチロウとグラルの結婚は認めてないぞ。
ハクレンとヘルゼは別の役があるため、行進には不参加。
ラスティは出産直後なので申し訳ないが、安静にしてもらっている。
本人は元気そうだけど。
そして、ドラゴンたちは急に列を乱して次々にため池に落ちていく。
これはトラブルではなく、ドラゴンたちが落とされたという演出らしい。
なので、ため池に落ちたドラゴンは人の姿になって、次に落ちるドラゴンのために場所を用意している。
ため池はそれなりに広いが、ドラゴンが何頭も入るには狭いからな。
しかし、落とされたという演出によく協力してくれたな?
不満はなかったのか?
めったにない経験だからと、喜んでた?
不満がないなら問題なし。
空中で一回転し、水面で二回バウンドしたドライムの墜落は見事な演技だった。
観客に応えるのはいいが、早く風呂に行くように。
ドラゴンたちがダイブしたため池の上空に、ゆっくりと貫録をもって現れたのは万能船。
その万能船の甲板の上で、赤い衣装を着たハクレンと青い衣装を着たウルザによる槍の演舞が行われる。
地上からはその演舞を直接見ることはできないが、中継映像が各所で流され、歓声が起きる。
ハクレンが武器を持つのは珍しいが、ちゃんと槍を扱えているようにみえる。
いつ練習したんだろう?
それとも練習するまでもなく使えるのかな?
ウルザもちゃんと槍を扱えている。
ウルザは昔っから武器はなんでも使えていたからな。
堂々とした演舞……んー、真面目な顔をしなきゃいけないのに、笑みが隠せていない。
ハクレンと一緒に演舞というのが嬉しいのだろう。
「出会ったときは、私のほうに甘えてくれたのですが」
俺の横に来たアンが、拗ねたように呟く。
うん、たしかにそうだった。
ウルザと出会ったときは、ハクレンのことを怖がり、アンにべったりだった。
それがいつのまにやら……ハクレンが頑張った成果かな。
ウルザにつられて、ハクレンも笑いだした。
これはこれで悪くない演舞だ。
俺は拗ねたアンを宥めながら、その演舞を楽しんだ。
不意に高笑いがする。
どこからだ?
空からだ。
ドラゴン姿のヘルゼ。
そして、高笑いをしているのはヘルゼに乗ったアルフレート。
……
アルフレートは黒と赤を基調にしたスーツを着て、花でできた翼を背負っている。
うん、衣装に関してはなにも言わない。
俺も人のことが言えない衣装が待機しているからな。
アルフレートの衣装は悪魔をイメージしているらしい。
ただ、それならアルフレートではなく、悪魔族であるグッチやブルガ、スティファノとかに頼めばいいのに。
四村のクズデンでも悪くない。
そんなふうに思っていたら、ヘルゼはアルフレートを乗せたまま万能船に体当たりの演技。
万能船も体当たりをやり返す演技。
そして、アルフレートが万能船に乗り込み、ウルザをさらってヘルゼの背に戻った。
なるほど。
そういった内容だから、アルフレートなのね。
……
アルフレート、ウルザの父親として複雑な心境。
アンが慰めてくれた。
ウルザをさらわれた万能船はふらふらとため池に着水。
大空は私のものだと、アルフレートを乗せたヘルゼがばっさばっさと飛び回る。
このあと、どうなるのかなと思ったら、なんとヘルゼの背中でウルザがアルフレートの花の翼をもぎ取った。
そして、ウルザはアルフレートをヘルゼの背中から蹴り落と……してないな。
落とされたのはアルフレートを模した人形。
安全でいいことだ。
その配慮がなぜ俺のときにはなかったのだろう?
いや、もうすぎた話だけどな。
ヘルゼの背中から落とされた人形はため池に着水し、それをポンドタートルたちが渦によって水中に引き込む。
「この恨み、忘れぬぞーー!」
ヘルゼの背中に隠れているアルフレートが魔法で声を大きくして叫んだ。
それに対し、ウルザのセリフ。
「負けた悪魔がなにか言っているわ。
ほほほほほほほほほほほ」
うーん、高笑いが似合う。
普通の人生において高笑いを使うことはないだろうけど、似合うことがあるのはいいことだ。
乗り手が変わったヘルゼは、さきほどまでと違いスマートに飛行。
いつのまにかヘルゼの翼に花の装飾がされている。
悪魔から奪った花の翼をドラゴンに与えた……いや、悪魔がドラゴンの持っていた花の翼を奪っていて、それを戻したという感じの演出だな。
ヘルゼはウルザの指示に従い、地上に降下。
ウルザがヘルゼから降り、用意されていた櫓に乗り込んだ。
アルフレートも隠れながら一緒の櫓に乗るようだ。
隠れている様子が、微笑ましい。
そしてウルザとアルフレートを乗せた櫓はパレードの列に合流。
パレードは終盤に向かっていく。
そのあいだ、俺の視界の片隅で巨大なカラス、巨大な白鳥、巨大な黒鳥が鷲に叱られ続けていた。
巨大な孔雀は、遅れてやってきた模様が違う巨大な孔雀に連れられ別の場所で叱られている。
奥さんかな?
感想欄で推察されておりましたが、巨大な孔雀は鳳凰の鳳です。
今話、遅れてやってきたのが凰です。