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誘拐未遂


 波一つない静かなため池の水面。


 そこに向かい、俺はジャンプ。


 塔の上からなので、水面まで十メートルぐらいはあるかな。


 ……


 落下が始まってから俺の思考が加速する。


 どうしてこんなことに。


 なにが悪かったんだ?


 考えてみる。


 いつのまにか、塔がため池のそばから、ため池の中になっていた。


 ハイエルフたちが、すごく頑張りましたという笑顔だった。


 なぜか俺が塔の上からため池に向かってダイブする段取りになっていた。


 文官娘衆たちが、いっぱい昔の本を調べましたという顔をしていた。


 塔の先端から、一メートルほど横に伸びた板の上から、俺はため池に向けて飛び降りるらしい。


 俺の足首に巻かれたベルトにつながれているロープは、ザブトンの糸に変更されていた。


 ちゃんと板の先端に繋がっている。


 つまり、これはバンジージャンプなわけだ。


 伸縮しんしゅく性があるから糸に引っ張られてもダメージがないよと、ザブトンがアピールしてくれた。


 ありがとう。


 でも、長さが十メートルぴったりなのはどうなのかな?


 伸縮性があるんだよね?


 引っ張られるのは俺が水面に落ちてからになるよね?


 どうしたんだザブトン!


 ザブトンはそっち側じゃなかっただろう!


 あ、水面がもうすぐだ。



 なんでも、遥か昔に魔神が地上に降りたとき、池に落ちたらしい。


 そのとき、水面にびたーんと体を打ちつけたそうだ。


 腹打ちだな。


 その再現を俺に期待されているわけだが、さすがに十メートルのジャンプのあとに腹打ちはお断りした。


 なので、俺は塔からジャンプした直後から足をそろえ、腕は胸の前でクロスし、あごを引いての耐衝撃姿勢。


 顎を引くのは、ザブトンの糸が首に巻きつかないようにするためでもある。


 ああ、そうか。


 空中で巻きついたら危ないから、余裕を持った長さなのか。


 ……


 そうなると、この糸に意味があるのかと思うが……気にしない。


 俺の足が水面に当たる。


 予想していたより衝撃がない。


 足から水面に潜り、俺は頭まで水中に入った。


 季節的にまだ水は冷たいはずだが、ポンドタートルたちが事前に俺の落水予定の付近の水を魔法で温めてくれている。


 なので水温は問題ないのだが……


 思った以上に、水面から深い場所にまで体が沈んでいる。


 水面が遠い。


 しかし、浮力ですぐに体が水面に向かう。


 ん?


 速いな。


 ザブトンの糸が引っ張っているのではない。


 水流が俺を持ち上げているようだ。


 そう思った瞬間、俺は水面から空中に放り出された。


 少し間の抜けたポーズだったとは思うが、ため池の周囲で見ている見物客からは大歓声。


 もう一回、水中に潜ったあと、また水流が俺を持ち上げ、水面上空に飛ばす。


 またもや大歓声。


 俺も見物客に手を振る余裕が出てくる。


 だが、ちょっと待て。


 これ、塔よりは低いが、さっきよりも高い。


 これが続けば、塔より高く飛ばされる予感。


 いや、確実にそうなるな。


 なぜなら、塔の先端から伸ばされた板が俺にぶつからないように、収納されているから。


 そっか。


 塔より高く飛ばされるのか。


 聞いてなかったなぁ。



 水流を操って俺を水面に放り投げているのは、ポンドタートルたちだ。


 俺の落下地点を中心に、奇麗な輪を等間隔で作っているからな。


 そして、予定になく俺を高く飛ばしたのは、やる気があふれた結果だと思う。


 思いたい。


 嫌われているわけじゃないよな?


 俺の体は塔より高い位置にあった。


 水面に入るときに痛くないのも、ポンドタートルたちのお陰のようだ。


 ありがとう。


 だからと言って、高く飛ばさないでほしい。


 俺は高い場所が平気なわけじゃないんだぞ。


 普通に高い場所は怖い。


 そりゃ、たしかに俺は塔に登る前は強がった。


 十メートルなんて、たいしたことないと。


 でも、あれは子供たちの視線があったからだ。


 そのあたりの機微きびを、ポンドタートルたちは覚えるべきだと思う。


 いや、まあ、塔に登るまではグダグダ言ったけど、板の上に立ってからはとある番組の一コーナーでやってた、高飛び込みみたいで少しわくわくした自分もいる。


 反省。


 そして、その高飛び込みで怪我人を出してしまい、番組は継続したものの、高飛び込みは封印されてしまったことを忘れていた。


 高飛び込みは危険。


 忘れちゃいけない。


 なので、そろそろ終わろうとポンドタートルたちに合図を送ろうとしたのだが……周囲の見物客の視線が妙だった。


 上を見ているが、俺を見ていない。


 俺以外に誰かいるのか?


 そう思った瞬間、俺の体がなにかに掴まれた。


 え?


 俺が首をひねって上を見ると、そこには大きな鳥がいた。


 真っ黒な鳥。


 翼の横幅は……十メートル以上はありそうか?


 そんな大きさなのに、俺はこの鳥がカラスだと思った。


 あ、カラスが俺を掴んだまま上空へと飛び立とうとしている。


 まずい。


 どこかに運ばれる!


 そう思ったが、ガクンと鳥の上昇が止まった。


 理由は簡単。


 俺の体に縛られているザブトンの糸。


 塔の頂上に登ったザブトンが、俺の足首のベルトに繋がっている糸を引っ張っている。


 おおっ!


 しかし、これの弱点は俺の足首、そしてカラスに掴まれている部分にダメージがあることだろう。


 ザブトンがすぐにそれに気づき、糸を伸ばして緩めた。


 カラスが勝ち誇って上昇を再開する。


 むう。


 ほんとうにまずい。


 どこかに連れていかれ、食べられたりするのだろうか?


【万能農具】でカラスを倒すことはできるだろうが、俺は高い場所から落とされることになる。


 天使族の誰かが来てくれると信じて、倒すべきか?


 悩んでいるあいだに、俺の体はどんどんと高い場所に持っていかれる。


 そして、俺の足首につけられたベルトに妙な感覚。


 ん?


 俺の足首に、ザブトンの子供がいた。


 ザブトンの糸をつたって登ってきたようだ。


 おおっ。


 ザブトンの子供は、別の糸をカラスの足にくくりつけた。


 そして、糸を揺らして合図を送る。


 カラスの上昇が止まった。


 そして、下に引っ張られている。


 かなりの勢いだ。


 力比べでは、ザブトンの圧勝のようだ。


 地上が近づいてくる。


 こうなると心配は、カラスが俺を落とさないかだが……


 悪いことは考えちゃ駄目だな。


 俺の体は空中に放り出された。


 ザブトンの子は、カラスの足に残っている。


 それだけはよかった。



 俺を助けてくれたのは、天使族の誰かではなく、これまたみたことのない巨大な鳥。


 真っ白な白鳥だ。


 それが俺をくちばしでくわえている。


 痛くないことから、俺を食べようとしているわけではなさそうだ。


 ありがとうと言おうとしたら、この白鳥は進路を東に向けた。


 …………


 あれ?


 カラスから白鳥に変わっただけ?


 そう思ったら、今度は真っ黒な白鳥……黒鳥かな? が現れ、真っ白な白鳥を攻撃した。


 俺がまた空中に放り出される。


 落ちてばかりだな。



 その次に俺を掴まえたのは、巨大な……孔雀くじゃく


 孔雀だと思うんだけど、ただの孔雀じゃないアピールがすごい。


 なにせ日輪にちりんを背中に背負っている。


 よく見れば、羽根のデザインも一枚一枚凝ってる。


 神々(こうごう)しい。


 この孔雀は俺を助けてくれるのかな?


 ……


 孔雀は進路を北に向けた。


 違ったようだ。


 俺の足には、先ほどとは違う別のザブトンの子。


 うん、よろしく。




 酷い目にあった。


 地上で安堵する俺の視線の先には、ザブトンの糸で縛られた巨大なカラスと巨大な孔雀、縛られていない巨大な白鳥と巨大な黒鳥がいた。


 四羽ともザブトンの知り合いらしかったので、ザブトンに任せた。


 わしも知り合いらしく、なにやら文句を言ってる。


 いいぞ、もっと言ってやれ。


 俺も文句を言いたいが、やらなければいけないことがある。


 俺が塔から飛び降りたのは、パレードの前座演出。


 これからパレードの本番だ。


 あ、パレードに参加する前に風呂ね。


 了解。


 濡れたうえに、上空に連れていかれたからな。


 体が冷えた。


 風邪をひかないようにしないと。





書籍化作業、終わってません。

すみません。

安定した更新はもう少しお待ちください。

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― 新着の感想 ―
ザブトン達に褒章メダル  他の人の褒章メダルは没収だな
タダで読ませて貰っているのに文句を言うのは如何なものかと。
[良い点] 今回はないですね [一言] 読んでて初めて不愉快な話でした。村人たち全員気でも狂ったのでしょうか?普段大事だの危険だのとヒラクの行動を制限しようとしてたのに高い場所から落とす企画を自慢気に…
2024/01/16 11:22 これはひどい
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