落ち込むユーリ
すみません。
私の勘違いで、短距離転移門の記述が変でした。
冒頭、短距離転移門のくだりを修正しております。
ルーが転移門の設置を終えた。
しかし、その顔に達成感がない。
どうしたんだ?
「途中の街や村で一泊する必要がないんだったら、王都とシャシャートの街をもっと少ない数で繋げたら楽だったのになぁって」
なるほど。
ルーが作った短距離転移門は、普通の転移門より移動できる距離は短いが、王都とシャシャートの街のあいだなら七か所ほど設置すれば大丈夫らしい。
しかし、そんなことをすれば設置されなかった途中の街や村から不満が出るのは簡単に予想できる。
だから魔王は一泊の強制を考えたのだけどなぁ。
世の中、ままならない。
しかし、短距離転移門の設置は完了し、すでに開通。
あとは一般公開に向けての準備をするだけ。
魔王やビーゼル、ランダンが苦労するのだろう。
俺には関係ない。
やれること、ないしな。
よかった。
そう思っている。
だから魔王とビーゼルとランダン。
俺の服を掴んでいる手を放すんだ。
春の忙しい時期に文官娘衆は貸し出せない!
一般公開前の短距離転移門を使い、魔王国管理員として街や村の調整に奔走していたユーリは五村に帰還した。
そして、大樹の村でしょんぼりしていた。
一泊の強制の根回しと、街や村の特産品作りに協力していたのに、盛大にちゃぶ台を返された形だからだ。
これまでの努力が無駄になり落ち込む気持ちはわかるが、ソウゲツをモフモフするのはやめておいたほうがいいと思うぞ。
ソウゲツの背中に乗っている姉猫たちが睨んでいるから。
ほら、酒スライムが酒を持ってきてくれた。
あっちで飲もう。
セレスがいろいろと甘味を作っているから、それを食べるのも悪くないぞ。
ん?
俺が綺麗な服を着ている?
ああ、これはパレードの衣装。
サイズ合わせ中なんだ。
ザブトンは頻繁に俺のところにやってきては、衣装の修正をしている。
修正するまでもなくサイズは丁度だと俺は思うのだけど、ザブトンが修正をすると確かに着心地がよくなるからジャストフィットではなかったのだろう。
なので、俺は頻繁な修正にもつきあう。
こういったのはプロに任せるに限るからな。
そんな会話をしているとザブトンが新しい布を持ってやってきた。
そして、いま着ている衣装から肩甲骨周辺の布を抜き取り、新しい布を縫いこんでいく。
うーん、神業。
「私もザブトンさんの服がほしいです」
珍しくユーリがザブトンに甘えている。
しかし、いまのザブトンは忙しいんだ。
無理を言ってはいけない。
俺はそう言って止めようとしたが、ザブトンは任せろとやる気をみせた。
いいのか?
ああ、なるほど。
一から全て作るのではなく、持っている服を改造して新しい服を作るのならそこまで手間じゃないと。
ユーリもそれでいいか?
問題ないらしく、ユーリは自室に戻って服を選びに行った。
これで少しは元気になってくれればいいが。
俺は酒スライムと酒を飲みながら……着ている服を汚しちゃいけないから、飲食は控えよう。
酒は酒スライムが飲むといい。
ユーリから解放されたソウゲツは、姉猫たちを背に乗せたまま散歩に出かけた。
あれ?
ユーリが戻って来ない?
結構な時間が経つよな?
待っているあいだに、衣装の修正を三回ぐらいやったぞ?
どうしたんだろう?
ザブトンのところに直接持っていった様子もない。
なにせザブトン本人が、来てないと言っているからな。
かといって、俺がユーリの部屋に様子を見に行くのは注意だ。
ユーリは未婚。
親しくとも、そのあたりは気を使わなければいけない。
なので、近くにいた鬼人族メイドとザブトンを誘って、ユーリの部屋に向かった。
……
ユーリは自室にいた。
ユーリはダボっとした運動しやすそうな服に着替え、一心不乱に筋トレをしていた。
表情は真剣そのもの。
その様子は、試合前のボクサーの減量……あ。
部屋に置いていた服が、入らなかったんだな。
成長……
いや、中途半端な慰めは危険だ。
部屋に散乱しているいくつかの高そうな服を見つつ、俺たちは静かにユーリの部屋から離れた。
「普通の服はフリーサイズですが、オーダーメイドの服はサイズがきっちり調整されていますから……」
鬼人族メイドの言葉に、俺はいま着ている自分の服をみる。
……
俺も太らないようにしよう。
それとザブトン。
さらに手間をかけさせて悪いが、適当なタイミングでユーリのところに行って服のサイズ調整をしてやってくれ。
急なダイエットは危険だからな。
え、サイズ調整ならザブトンの子供たちでもできる?
こっそりと全部の服を調整しておく?
うーん。
いや、調整はお願いしたいが、全部の服はやめておこう。
調整するのは数着でかまわない。
うん、甘やかさない。
ユーリなら、乗り越えるだろう。
客間でマルビットがダラけていた。
……
冬のあいだも、ずっとダラけていたように思えるマルビット。
スタイルが崩れた様子はない。
見えないところでマルビットも努力しているのだろうか?
「天使族は、栄養が翼に行きますので」
客間にやってきたルィンシァは俺にそう言ったあと、マルビットに翼を出すように要求。
マルビットは頑なに翼を出さなかった。
ユーリ 魔王の娘。
マルビット 天使族の長。
ルィンシァ 天使族の補佐長。ティアの母。