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冬の終わりの噂話

すみません。

勢力『塩』に関して、修正工程で消したままにしていました。

修正しております。


 五村ごのむらふもと





 男性二人組。


「先輩。

 こんな人気のない場所に本当にあるんですか?」


「あるよ。

 もうすぐだ」


「もうすぐって、さっきから何度も聞いていますよ」


「本当にもうすぐだって。

 ほら、匂いがするだろ。

 前はもうちょっと人通りの多いところでやっていたんだけどな、この匂いに誘われる住人が大勢いて警備隊が出てくる騒ぎになってしまったんだ」


「たしかに。

 夜中にこんな匂いをされたら、たまりませんね。

 ……あった。

 あの屋台ですよね?」


「そうだ。

 だが、俺の言ったことを忘れてないよな?」


「もちろんです。

 この店の話は、絶対に誰にもしない。

 ですよね」


「もう一つあるだろ。

 店長のことは?」


「大将と呼ぶ」


「よし、行くぞ。

 おっと、注文はお前の分も俺がするから黙ってるように」


「わかりましたが……俺が注文するのは駄目なんですか?」


「慣れてないと難しいんだ。

 最初は俺の注文を見て覚えろ」


「勉強させていただきます」


「大将、やってるかい?

 へへへ、今日は寒いからねラーメンで温まろうと思ってね。

 醤油ラーメンを二杯、頼むよ。

 両方ともチャーシュー追加で。

 ああ、はしで大丈夫だから。

 酒は……五村酒改も捨てがたいけど、やっぱりラーメンには麦酒だな。

 麦酒も二杯頼む」





 男女のカップル。


「どう?

 美味しいでしょ?

 私の秘密の店なんだからね」


「たしかに美味しい。

 でも、どうしてこの味なのに昼間に店を出さないんだろう?

 ラーメン通りでも通用する味だよね」


「派閥争いに巻き込まれたくないとかじゃないかしら?」


「派閥争い?」


「ラーメン通りの派閥争いよ。

 簡単に説明すると、『醤油』『豚骨』『味噌』の大きな三派があって、その下というか横に『醤油豚骨』『醤油味噌』『味噌豚骨』などの連合小勢力があるわ。

 それらが、自分のところの味が至高だ究極だと争っているわけ。

 あ、『塩』は小勢力だけど別格で別枠よ」


「へぇ。

 知らなかったなぁ。

 いまのところ強いのは?」


「少し前までは『醤油豚骨』……じゃなくて『豚骨醤油』が強かったわね。

『醤油豚骨』と『豚骨醤油』は別勢力だから注意よ」


「少し前まで?」


「ええ、『豚骨醤油』は野菜増量ラーメンで一世を風靡ふうびしていたの。

 一度、連れて行ったでしょ?」


「野菜増量って……あの並盛で、大盛が出てきたあの店?」


「そう。

 美味しいし、病みつきになるんだけど、あの量を食べきれない人がやっぱりいてね。

 食べ残しが問題になって、野菜増量ラーメンは数量限定のうえに、免許制になったのよ」


「免許制って、野菜増量ラーメンを出す店は免許がいるの?」


「ああ、そうじゃなくて、免許は店じゃなくてお客が持つの。

 ちゃんと食べきれますって」


「へー。

 その笑顔、ひょっとして」


「免許、持ってるわよ。

 しかも上級三段」


「上級三段?」


「免許はランクがあって、下から初級、中級、上級、上級一段、上級二段、上級三段って感じ。

 ランクが上がらないと食べられないラーメンがあるから頑張ったわ」


「が、頑張ったね」


「ええ。

 でも、ラーメン女王は上級七段らしいから、まだまだ先は長いわ」


「ほ、ほどほどにね。

 ラーメンはそれほど高くないけど、サイドメニューも頼むからさ」


「たしかに。

 もっと稼がないと」


「し、仕事もだけど、そのほら、僕たちのこととか……」


「ラーメンを好きなときに好きなだけ食べられる家庭がいいかなぁ」


「それ、毎日ラーメンってことじゃない?」


「好きなときに好きなだけよ」





 婦人二人組。


「奥さん、例の件を聞きましたか?」


「転移門の道ができることですか?」


「それもありますが、私がしたい話は地下商店通りのことです。

 あそこの本格始動は春になってからと聞いていましたが、実はいくつかの店舗が営業をしているのです」


「ああ、そうらしいですね。

 ですが、それは貴族さま向けの先行販売だと」


「先行販売は初日だけの話です。

 二日目からは極秘に一般販売を開始しています」


「極秘?」


「ええ。

 私も気になって行ったのですが、営業している店舗をみつけることができませんでした」


「それは極秘ではなく、ただの噂話なのでは?」


「いえ、確実に営業が行われています。

 その証拠に、金物屋の旦那さんが夜中に地下商店通りのある方向に向かったことと、パン屋の若旦那が夕方、地下商店通りの入り口で一人でいるところを見かけています」


「金物屋って、ゴブリーさんの店ですか?」


「ええ、あの引きこもりの旦那さんが、わざわざ出かけるなんておかしいでしょう?

 それにパン屋の若旦那はいつも取り巻きを連れているのに、一人でいるというのは……」


「お酒関係ですね。

 ですが、南側商店組合には話が通っていませんよ?」


「わ、私に怒らないでください。

 それに、あそこは村長代行さまの直轄ちょっかつですから、商店組合に話を通す必要はないのではないかと」


「そうですが、これまでの慣例では話がありました。

 今回だけないなんて…………おかしいですね」


「おかしいですか?」


「村長代行さまは強引なところもありますが、基本は和を大事にされます。

 このような真似をするとは……村長代行も知らないのではないでしょうか」


「調べますか?」


「調べなければ……大将、どうしました?

 え?

 地下商店通りにドワーフの隠し酒場がある?

 酒好きが集まって飲んでるだけで商売じゃないから、大事おおごとにはしないでと言われましても……このカラアゲはサービスですか。

 いただきます」





 研究者風の男女二人組。


「ラーメン警備隊ですか?」


「そう。

 五村ではラーメンが人気でしょ?

 だから、みんなラーメンを作って商売をしようとするのだけど……とてもじゃないけど、ラーメンと呼べない料理までラーメンの名前で出されているのよ」


「そりゃ酷い。

 つまり、それを取り締まるのがラーメン警備隊ってことですか?」


「ええ。

 だけど、問題が出てきちゃってね」


「問題?」


「明らかに違う料理の場合は取り締まれるのだけど、ギリギリを攻められるとねー。

 これが俺のラーメンだ。

 そう強く主張されると手が出せないのよ」


「なるほど、たしかにそうですね」


「それに、ラーメン警備隊でもラーメンとはなんだという質問に答えられる人がいなくて」


「ラーメン……めんが温かいスープに浸されて……いるだけじゃラーメンとは言えませんね。

 それだと、多くの料理が入ってしまう」


「麺やスープ、それに具もいろいろな種類があるから、これがラーメンって言えないの。

 当然、取り締まるときにも揉める原因でさー」


「大変ですねー。

 あ、五村でラーメンを始めた麺屋ブリトアの店長が認めたらOKというのはどうです?」


「麺屋ブリトアに迷惑をかけられるわけないでしょ。

 ただでさえ長い行列がさらに長くなっちゃうじゃない」


「麺屋ブリトア、人気がありすぎて朝から並ばないと食べられないもんすねー。

 ……じゃあ、どうしようもないのでは?」


「そう思ったのだけど、五村の代表料理であるラーメンの評判を落とすのはよろしくないでしょ?

 だから、村長代行に訴えたのよ」


「訴えたんですか?」


「ええ、訴えたのよ」


「……どうなったので?」


「村長代行が村長に相談して、出てきた解答がこのラーメン」


「……麺とスープが別のラーメンですか」


「つけ麺と言うそうよ。

 これはいままでのラーメンとは違うけど、ラーメンよ。

 ちなみに、いまは冬だから出してないそうだけど、冷たいラーメンもあるらしいわ」


「冷やしラーメンですか。

 ラーメンの定義がどんどん難しくなっていきますね。

 うん、おいしい。

 冷水でめられた麺と、熱々のスープのバランスがいい。

 でもこれ、あとでスープがぬるくなってしまうのでは?」


「温くなる前に食べきりなさい。

 と言いたいけど、店員さんに言えばスープを温めなおしてくれるわよ」


「それはありがたい。

 しかし、このスープは濃くて飲めませんね」


「麺を食べ終わったあとに、別の薄いスープを入れてもらえるわ」


「スープ割り……なるほど、隙がない。

 しかし、村長代行はどういったつもりでつけ麺や冷やしラーメンを出してきたのでしょうか?」


「勝手に想像するのは不敬だけど、ラーメンに定義など不要ってことじゃないかな」


「下手に縛ると、新しいラーメンが出てこなくなるかもしれませんしね」


「そうそう。

 店長……じゃなくて大将、つけ麺の麺、おかわりいける?

 一玉お願い」


「あ、俺にも。

 …………しかし、そのつけ麺ってまだ大々的に発表されていませんよね?

 なのに、それを出すこの店って……」





 冒険者二人組。


「例の王都から来た冒険者たちが、生きてる転移門を何個も発見したってよ。

 すげぇよな」


「ああ。

 そして、羨ましい。

 冒険者として生きているからには、ああいった遺物の発見にかかわりたかった」


「まったくだ。

 だが、あれには妙な噂もあるんだ」


「妙な噂?」


「発見された転移門は魔王様に譲られるって話で、その譲られた転移門を使って王都とシャシャートの街、そしてこの五村を繋ぐって話は聞いてるだろ?」


「もちろんだが……それが妙な噂なのか?」


「それじゃないさ。

 実は転移門を設置するための土地の交渉が、秋ぐらいから始まっていたって噂があってな」


「……それは確かか?」


「いや、噂だから確かじゃないさ。

 でも、そんな噂が出るのはおかしいだろ?」


「そうだな。

 転移門が発見されるのがわかっていたと言われても不思議じゃない」


「発見されるのがわかっていた……だから、わざわざ王都から冒険者を呼んで探索させた……そこから導き出されるのは?」


「…………………………すまん、わからん」


「だよな。

 俺もわからん。

 なぜそんな面倒な真似をしなきゃいけないんだ?」


「噂は噂ってことじゃないか?

 それか、なにかほかのことで使おうと思って土地の交渉を始めていたけど、転移門が見つかったから用途を変更しただけとか」


「転用かー……うーん。

 なんかひっかかるんだけどなぁ……ん?

 大将、この漬物は?

 サービス?

 悪いね」


「ラーメンを食べたあとの漬物はすっきりするなぁ。

 麦酒をもう一杯、もらっちゃおうかな」


「俺も俺も」





 獣人族三人組。


「村……じゃなくて、大将。

 言われてたゴーレム、やっとみつけたよ」


「冒険者たちのあいだで噂になっていたからね。

 みつけるのは大変じゃなかったけど、捕まえるのがさー」


「うんうん。

 商品を販売するゴーレムに戦闘能力はいらないんじゃないかな?

 たしかに防犯上は多少は必要だと思うけど……あれは多少というレベルじゃなかった」


「機動力が変だった。

 それに、なぜあんなにジャンプできる必要があるのか……ラーメン、いただきます。

 このチャーシューはオマケ?

 ありがとうございます」


「ところでラムリアスかあさ……姉さんがここで店員をやっていていいの?

 てっきり止める側だと思ったのだけど。

 煮卵おいしい」


「情報収集とラーメンの新味の実験なんだ。

 え?

 今日までの予定?

 間に合ってラッキー……あれ?

 大将、向こうのお客さんたちが絶望した顔をしているけど、今日までって告知は……してないみたいだね。

 ラーメンはやっぱり麺だね」


「ならお前のチャーシューは僕がもらってや……はい、すみません。

 ほかの人の皿を狙ってはいけない。

 わかっています。

 だから、そんなに睨まないでくださいラムリアス母さん……いえ、ラムリアス姉さん。

 ほら、向こうで注文みたいだよ」


「とりあえず、食べ終わったら村長……じゃなくて、大将の手伝いをしよう。

 今日が最後と聞いて、知り合いを呼びに行った人がいるから」


「撤収の手伝いじゃないの?」


「残っている人が注文して足止めをしているから撤収は無理じゃないかな。

 麺とスープもまだまだあるみたいだし」


「覚悟を決めるか」


「そうだね。

 でも、まだ時間はあると思うから、おかわりはしてもいいと思うんだ」


「僕も思う」


「だな。

 大将、おかわりー!」





なんとか更新できました。


つけ麺はアツモリ(麺を冷水で締めたあと、もう一回温める)派です。


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― 新着の感想 ―
鯛塩で背脂ちょい追加の塩ラーメン派 ガッツリ豚骨チャーシューは匂いと油がキッツい年齢に成った。 ノーマル醤油中華も良いね、後は海老塩ラーメン白菜たっぷり。
[気になる点] ラングホーさんは、村長の屋台のラーメンを食べたことが在るようですが・・・男性二人組の先輩が、実はラングホーさん、だったりするのでしょうか?。 男女のカップルの男性は、一人称が「僕」なの…
[気になる点] 小っちゃい頃から世話されてたからお母さん呼び出てるのかな
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